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緑薫る五月‐4
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電車を降り、マップアプリを開きながら店を目指して歩いた。
美雲が保科くんを好きになるのは、なんとなくまあわかる。爽やかな雰囲気と、部活にしっかり取り組む姿と、あと世渡り上手感あるところ。私の例の「推させてください」が他のクラスに広まらなかったのは、保科くんの一言があったからだ。
ひときしり笑ったあと、クラスのみんながいるなかでこう口を開いた。
「笑った、笑った。これ、A組だけの合言葉にできそう」
ということで、クラス内では掘り返されていじられはしたものの他にまで伝わることになった。多数が内部進学で勉強に追われずヒマな高三たちの拡散力を恐れていたので、保科くんには頭が上がらない。
いい人なのになぜだろう、私は。
「若干うさんくさく見えるんだよな~……」
美雲の前で言ったらはたかれそうな言葉をつぶやき、住宅街の角をぐるりと曲がった。カフェ・クルールと掘られた木の立て看板がある、一見普通のお家のような外観のお店が見えてくる。
焦げ茶色のドアを押し開けると、カウンターの内側にいる七十歳くらいのお店の人と目が合った。
「いらっしゃいませ」
マスターと呼びたくなる、渋い佇まいだ。軽く頭を下げて、店内を見回す。シックなランプやBGMのジャズミュージックが落ち着いた雰囲気をかもしだしていて、カフェというよりも喫茶店っぽい。
「久住さん。こっち」
奥側のテーブル席に座っていた保科くんが片手を上げる。正面に座った。
「先にコーヒー頼んじゃった。はい、これメニュー」
ブック型のメニューを開き、一ページずつ見ていく。ドリンクとスイーツだけでなく、ナポリタンやオムライスといったフードもありメニューは大充実だ。
おすすめのマークがついたメロンクリームソーダが気になりマスターに頼むと、ほどなくして運ばれてきた。
泡が浮かび上がる透明な緑色のソーダ水と、まんまるのバニラアイスと、ちょこんとのったさくらんぼ。
「黄金比だ!」
嬉しくなってスマホで写真を撮った。アイスとソーダを一口ずつ味わってから、本題に入るために背筋を伸ばす。正面にいるすっかり保科くんをほったらかしにしていた。
「改めて、今回のインタビューありがとう。いずれこっちからお願いしてみたいなって思ってたの、保科くんの放送人気だし」
「いえいえ、こちらこそわがまま聞いてもらって。場所も勝手に指定しちゃったし」
「ううん。素敵なお店だし、来れて嬉しい。じゃあさっそく始めたいんだけど、録音とメモさせてもらっていい?」
「どうぞどうぞ」
「あと、合間にアイスすくってたりソーダ飲んでたりするけど気にしないでね」
「それももちろん、どうぞどうぞ」
いつも使っている手帳サイズのノートとペンを出し、スマホのボイスレコーダーアプリを起動させた。
美雲が保科くんを好きになるのは、なんとなくまあわかる。爽やかな雰囲気と、部活にしっかり取り組む姿と、あと世渡り上手感あるところ。私の例の「推させてください」が他のクラスに広まらなかったのは、保科くんの一言があったからだ。
ひときしり笑ったあと、クラスのみんながいるなかでこう口を開いた。
「笑った、笑った。これ、A組だけの合言葉にできそう」
ということで、クラス内では掘り返されていじられはしたものの他にまで伝わることになった。多数が内部進学で勉強に追われずヒマな高三たちの拡散力を恐れていたので、保科くんには頭が上がらない。
いい人なのになぜだろう、私は。
「若干うさんくさく見えるんだよな~……」
美雲の前で言ったらはたかれそうな言葉をつぶやき、住宅街の角をぐるりと曲がった。カフェ・クルールと掘られた木の立て看板がある、一見普通のお家のような外観のお店が見えてくる。
焦げ茶色のドアを押し開けると、カウンターの内側にいる七十歳くらいのお店の人と目が合った。
「いらっしゃいませ」
マスターと呼びたくなる、渋い佇まいだ。軽く頭を下げて、店内を見回す。シックなランプやBGMのジャズミュージックが落ち着いた雰囲気をかもしだしていて、カフェというよりも喫茶店っぽい。
「久住さん。こっち」
奥側のテーブル席に座っていた保科くんが片手を上げる。正面に座った。
「先にコーヒー頼んじゃった。はい、これメニュー」
ブック型のメニューを開き、一ページずつ見ていく。ドリンクとスイーツだけでなく、ナポリタンやオムライスといったフードもありメニューは大充実だ。
おすすめのマークがついたメロンクリームソーダが気になりマスターに頼むと、ほどなくして運ばれてきた。
泡が浮かび上がる透明な緑色のソーダ水と、まんまるのバニラアイスと、ちょこんとのったさくらんぼ。
「黄金比だ!」
嬉しくなってスマホで写真を撮った。アイスとソーダを一口ずつ味わってから、本題に入るために背筋を伸ばす。正面にいるすっかり保科くんをほったらかしにしていた。
「改めて、今回のインタビューありがとう。いずれこっちからお願いしてみたいなって思ってたの、保科くんの放送人気だし」
「いえいえ、こちらこそわがまま聞いてもらって。場所も勝手に指定しちゃったし」
「ううん。素敵なお店だし、来れて嬉しい。じゃあさっそく始めたいんだけど、録音とメモさせてもらっていい?」
「どうぞどうぞ」
「あと、合間にアイスすくってたりソーダ飲んでたりするけど気にしないでね」
「それももちろん、どうぞどうぞ」
いつも使っている手帳サイズのノートとペンを出し、スマホのボイスレコーダーアプリを起動させた。
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