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桜色のため息‐3
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その日はずっと不思議な気分で、隣の席になった桐谷くんをちらりと見るだけでも変に緊張してしまった。
帰り道、私は三年連続同じクラスになったりさぽんに、桐谷くんのことを知っているか尋ねた。
「桐谷? ああ、あんまり知ってるわけじゃないけど、家が喫茶店っていうのは聞いたことある。本人は来られるの嫌みたいだから、話したがらないけど」
「そういえば、朝も先生とお店がなんとかって話してた」
ふむふむと聞きながら、さっきコンビニで買ったアイスカフェラテを飲む。晴れた四月の午後はお散歩にぴったりで、何か飲みながら桜並木沿いを歩こうという話になったのだ。
「中一のとき同じクラスだったから、そのとき聞いたんだったはず」
「桐谷くんも内部生なんだ」
私たちが通っている柚木学院には、中等部、高等部、大学がある。りさぽんは内部生で、私は高校からの外部生だ。高校に入学してしばらくの頃は内部生と外部生の間に壁を感じていたけれど、今ではなくなった。それでもたまに、内部生ならではの結束感が見えるときがあってたまにうらやましくなる。
「いやあ、桐谷がいろはの運命の推しか。びっくりなんだけど」
「私が一番びっくりだよ。いろいろとどんぴしゃなんだもん。あとね、気になったことが一個あって。……名前呼ばれたとき、彩葉って、頭の中で漢字に変換されたんだよね。私、人から名前呼ばれるとき、いつもいろはってひらがなに聞こえるの」
りさぽんはスムージーを飲んだまま、怪訝そうに首をかしげた。
「どういうこと。イントネーションの違いってこと?」
「いや、音程は一緒なんだけど、どうしてだろう。なんか違うの」
「わたし呼んでみようか。いろは、いろは、久住いろは。いーろは」
「やっぱり全部ひらがな」
「ええー」
りさぽんが不満そうな声を出す。
もともと彩葉という名前は、初めて会う人だとあやはと読まれることが多い。今回桐谷くんが私の名前を間違えなかったのは、生徒会ということで名前を憶えていたからだろう。でも、なんで桐谷くんの呼び方は、きれいに漢字に聞こえたのかな。
「まあ、いきなりもう一回名前呼んでもらうのはハードル高いとしても、明日雑談くらいしてみたら? 推し様と」
「ええっ。そんな、慣れなくて緊張しちゃう」
「そのままだったら一生話せないから、早く慣れなって」
「わかった」
帰り道、私は三年連続同じクラスになったりさぽんに、桐谷くんのことを知っているか尋ねた。
「桐谷? ああ、あんまり知ってるわけじゃないけど、家が喫茶店っていうのは聞いたことある。本人は来られるの嫌みたいだから、話したがらないけど」
「そういえば、朝も先生とお店がなんとかって話してた」
ふむふむと聞きながら、さっきコンビニで買ったアイスカフェラテを飲む。晴れた四月の午後はお散歩にぴったりで、何か飲みながら桜並木沿いを歩こうという話になったのだ。
「中一のとき同じクラスだったから、そのとき聞いたんだったはず」
「桐谷くんも内部生なんだ」
私たちが通っている柚木学院には、中等部、高等部、大学がある。りさぽんは内部生で、私は高校からの外部生だ。高校に入学してしばらくの頃は内部生と外部生の間に壁を感じていたけれど、今ではなくなった。それでもたまに、内部生ならではの結束感が見えるときがあってたまにうらやましくなる。
「いやあ、桐谷がいろはの運命の推しか。びっくりなんだけど」
「私が一番びっくりだよ。いろいろとどんぴしゃなんだもん。あとね、気になったことが一個あって。……名前呼ばれたとき、彩葉って、頭の中で漢字に変換されたんだよね。私、人から名前呼ばれるとき、いつもいろはってひらがなに聞こえるの」
りさぽんはスムージーを飲んだまま、怪訝そうに首をかしげた。
「どういうこと。イントネーションの違いってこと?」
「いや、音程は一緒なんだけど、どうしてだろう。なんか違うの」
「わたし呼んでみようか。いろは、いろは、久住いろは。いーろは」
「やっぱり全部ひらがな」
「ええー」
りさぽんが不満そうな声を出す。
もともと彩葉という名前は、初めて会う人だとあやはと読まれることが多い。今回桐谷くんが私の名前を間違えなかったのは、生徒会ということで名前を憶えていたからだろう。でも、なんで桐谷くんの呼び方は、きれいに漢字に聞こえたのかな。
「まあ、いきなりもう一回名前呼んでもらうのはハードル高いとしても、明日雑談くらいしてみたら? 推し様と」
「ええっ。そんな、慣れなくて緊張しちゃう」
「そのままだったら一生話せないから、早く慣れなって」
「わかった」
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