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一難去って14

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「がは…あっ!」

 大陸の外れ、どこかの地下にある一室…薄暗い灯りに照らされるのみのその場所に、男の声が響く。

「やって…くれたな…ルカ・ハークレイ…!」

 魔力溶液で満たした浴槽から這い出ながら、男は恨めし気な視線で中空を睨んだ。

 彼は、かつて『冥王』を倒した英雄がひとり、エリュクス――の、予備バックアップだ。エリュクスと感覚を共有し、エリュクスと同じ記憶を持っている。その精神性という面においては、まさしくエリュクスの完全な模倣コピーと言って良い。だが、肉体の方はと言えばルカ達の前で塵となって消えたエリュクス程の強靭さはない。

 あのエリュクスにあった5つの眼や、オイフェとやり合える程の膨大な魔力はこの肉体にはない。本来、この肉体はまだ使用する予定ではなく様々な面で未完成だった。この体では、エリュクスが本来持つ力を存分に発揮する事はできない。

「オイフェを倒し、いよいよこれから好きに動き回れるという時に…このような体しかないとは…!」

 オイフェさえいなくなれば、エリュクスに恐れるものはない。歴史の表舞台に舞い戻り、各地の邪神教徒の象徴となる。そして、さまざまな邪神教徒結社が持つ邪神の肉体を集め邪神の復活を果たす――それがエリュクスの狙いだった。

 だが、今の肉体では秘伝位階程度の実力しか出せないだろう。もしも、それ以上の実力を持つ者…例えば、叡意剣士であるロストアルフェなどと対峙する事になれば、エリュクスに勝ち目はない。しかも、今は体の予備バックアップもない。訪れるのは完全な死だ。
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