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レオンゼーレ・ツヴァイク
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子供の頃から、俺は同じような内容の夢を見る事があった。それは自分がある剣士になって敵と戦う夢だ。夢の中の俺が振るう剣は、峻厳な山の頂の如く苛烈で、それでいて美しかった。
それがツヴァイク家の人間が時折発動する天質の一種だと知ったのは、しばらくしてからだった。どうも俺が見ていたのは俺の祖先である剣聖アルトゥースの見た光景らしい。身近な人間では、俺の親父殿であるレオンハルト・ツヴァイクも同様の天質を持っていたし、後には妹の子…姪であるアレクシア・ツヴァイク・フォン・シュタインベルグもそうだという事が分かった。
初めて夢を見たあの日から、俺は剣の虜になった。夢で見た剣士の振るう剣は、この世に存在するあらゆるものよりも美しかった。俺もいつかはあんな風になりたいと、切に願った。あんな美しい剣を振る事が出来るのなら、何を捨ててもいいと思った。そしてそのために、俺は努力した。親父殿に指導を受け、剣を振り続ける日々。幼き日に夢見た理想へと近付いていくための毎日。だが、歳を重ねるにつれて思い知る事になる。自分の才能の限界を。
俺は十四歳で皆伝剣士になり、周囲からは天才ともてはやされた。二十歳で奥伝剣士、三十で秘伝剣士になった。秘伝剣士といえば大陸に数人しかいない。剣の名門と言われるツヴァイク家の人間でさえ皆伝、奥伝止まりの者が多い。だから、周りの者は俺を称えた。「さすがはレオンハルト殿のご子息」「ツヴァイク家の誇りだ」と。
だが、そんな言葉はちっとも嬉しくはなかった。俺の心にあるのは――絶望だった。三十になる頃には、これが俺の限界だと悟り始めていたからだ。俺はいくら努力を重ねてもこれ以上強くなれない。あの美しい頂に到達する事は叶わない。剣聖アルトゥースどころか、俺は親父殿の領域にすら至る事は出来ないだろう。
そして俺は、剣の道を諦め酒や女に溺れ――たりはしなかった。そんなものに溺れる事は出来なかった。むしろ、酒や女や金や権力…そういったものに溺れる事の出来る奴が羨ましかった。だって、酒も、女も、金も、権力も…あの剣の美しさに比べればカスみたいなもんだ。だから、甥っ子のレオンフォルテが権力を欲する様子を見て素直に羨ましいと思ったもんだ。――ああ、俺も剣の頂なんて諦めてあんな風になれたら苦しまずに済むのに…と、嫌味じゃなく本当に羨んだ。
表面上はなんて事ない風を装いつつ、俺は痛みに耐え続けてきた。己の才能の限界という、痛みに。――いつか、年老いて全てを諦める事が出来る日が来るんだろうか。強さへの執着なんてものを捨てて、痛みを忘れて生きていけるんだろうか。そんな風に考えていたある日、『あいつ』は現れた。
「強くなりたいんだろう、レオンゼーレ・ツヴァイク」
『あいつ』はいきなりそう言ってきた。
「己に協力しろ。そうすれば、お前に力を与えてやる」
それがツヴァイク家の人間が時折発動する天質の一種だと知ったのは、しばらくしてからだった。どうも俺が見ていたのは俺の祖先である剣聖アルトゥースの見た光景らしい。身近な人間では、俺の親父殿であるレオンハルト・ツヴァイクも同様の天質を持っていたし、後には妹の子…姪であるアレクシア・ツヴァイク・フォン・シュタインベルグもそうだという事が分かった。
初めて夢を見たあの日から、俺は剣の虜になった。夢で見た剣士の振るう剣は、この世に存在するあらゆるものよりも美しかった。俺もいつかはあんな風になりたいと、切に願った。あんな美しい剣を振る事が出来るのなら、何を捨ててもいいと思った。そしてそのために、俺は努力した。親父殿に指導を受け、剣を振り続ける日々。幼き日に夢見た理想へと近付いていくための毎日。だが、歳を重ねるにつれて思い知る事になる。自分の才能の限界を。
俺は十四歳で皆伝剣士になり、周囲からは天才ともてはやされた。二十歳で奥伝剣士、三十で秘伝剣士になった。秘伝剣士といえば大陸に数人しかいない。剣の名門と言われるツヴァイク家の人間でさえ皆伝、奥伝止まりの者が多い。だから、周りの者は俺を称えた。「さすがはレオンハルト殿のご子息」「ツヴァイク家の誇りだ」と。
だが、そんな言葉はちっとも嬉しくはなかった。俺の心にあるのは――絶望だった。三十になる頃には、これが俺の限界だと悟り始めていたからだ。俺はいくら努力を重ねてもこれ以上強くなれない。あの美しい頂に到達する事は叶わない。剣聖アルトゥースどころか、俺は親父殿の領域にすら至る事は出来ないだろう。
そして俺は、剣の道を諦め酒や女に溺れ――たりはしなかった。そんなものに溺れる事は出来なかった。むしろ、酒や女や金や権力…そういったものに溺れる事の出来る奴が羨ましかった。だって、酒も、女も、金も、権力も…あの剣の美しさに比べればカスみたいなもんだ。だから、甥っ子のレオンフォルテが権力を欲する様子を見て素直に羨ましいと思ったもんだ。――ああ、俺も剣の頂なんて諦めてあんな風になれたら苦しまずに済むのに…と、嫌味じゃなく本当に羨んだ。
表面上はなんて事ない風を装いつつ、俺は痛みに耐え続けてきた。己の才能の限界という、痛みに。――いつか、年老いて全てを諦める事が出来る日が来るんだろうか。強さへの執着なんてものを捨てて、痛みを忘れて生きていけるんだろうか。そんな風に考えていたある日、『あいつ』は現れた。
「強くなりたいんだろう、レオンゼーレ・ツヴァイク」
『あいつ』はいきなりそう言ってきた。
「己に協力しろ。そうすれば、お前に力を与えてやる」
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