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一次試験~アレクシア・ツヴァイク~
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リィエダ島に飛ばされてから二日目。森の中を探索する女性の姿があった。腰まである白金色の髪、白磁の如き透明感のある肌。全身から漲る凛とした佇まい。アレクシア・ツヴァイク・フォン・シュタインベルグである。
王室生まれのアレクシアにとって、このような深い森に足を踏み入れるのは初めての経験である。にもかかわらず、怯えや不安といった感情を彼女から感じとる事はできない。その理由は――、
「グルル…」
唸り声と共に、前方の茂みから牛ほどの大きさもある大型犬が姿を現した。鋭い牙に、鋭い眼光――それが四つ。なぜならこの魔物には首が二つあるから。双頭の肉食犬、ヘルハウンドである。厄災がひとり『冥王』の眷属、三つ首の番犬ケルベロスの子孫とも言われる魔物。そのランクはB+。生半可な冒険者であれば数秒と持たず八つ裂きにされてしまうだろう。
アレクシアは眼前に姿を現した魔物の強さを感じ取った。だが、その身にはいささかの動揺も見られない。
「君に恨みはない。もし立ち去るというのならば私は追わないよ。けれど――向かってくるのなら、容赦はしない」
通じない、とは分かっていてもアレクシアは目の前の魔物に声をかける。それが戦う者の務めだと言わんばかりに。
しかし、ヘルハウンドはそんなものはお構いなしに口を大きく開き…耳をつんざくような咆哮と共に火球を吐き出した。修伝の炎属性魔術にも匹敵する威力の火の球。ヘルハウンド程の魔物ともなれば、このような芸当も可能という訳だ。さらに続けて、アレクシアに向かって駆け出した。火球で敵を焼き、牙で命を奪うという二段構えの攻撃だ。
二度ばかりアレクシアの剣が煌めいた。その後、
「ふぅ…」
という小さなため息。その場に残るは、体を真横から両断されたヘルハウンドと無傷のアレクシア。
まずは練気を込めた剣で炎を切り裂く修伝剣技『火炎裂き』でヘルハウンドの放った火炎を切り払う。続けて皆伝剣技『斬鉄・一刀両断』で鉄の如き硬さを持つヘルハウンドの体を両断した。防御と攻撃にそれぞれ一閃ずつ。無駄のない戦い方だ。
以前のアレクシアであれば、B+ランクの魔物を相手にした場合もっと手こずっていただろう。だが、ルカと共に冒険者として経験を積み、兄の呪縛から逃れた今――彼女は心技共に大きな成長を見せていた。おそらく、秘伝位階まであと一歩というところまで。
そう、アレクシアが全く不安を感じていない理由…それは単純に彼女が強いからだ。この島に住む魔物程度では傷一つ付ける事ができない程に。
王室生まれのアレクシアにとって、このような深い森に足を踏み入れるのは初めての経験である。にもかかわらず、怯えや不安といった感情を彼女から感じとる事はできない。その理由は――、
「グルル…」
唸り声と共に、前方の茂みから牛ほどの大きさもある大型犬が姿を現した。鋭い牙に、鋭い眼光――それが四つ。なぜならこの魔物には首が二つあるから。双頭の肉食犬、ヘルハウンドである。厄災がひとり『冥王』の眷属、三つ首の番犬ケルベロスの子孫とも言われる魔物。そのランクはB+。生半可な冒険者であれば数秒と持たず八つ裂きにされてしまうだろう。
アレクシアは眼前に姿を現した魔物の強さを感じ取った。だが、その身にはいささかの動揺も見られない。
「君に恨みはない。もし立ち去るというのならば私は追わないよ。けれど――向かってくるのなら、容赦はしない」
通じない、とは分かっていてもアレクシアは目の前の魔物に声をかける。それが戦う者の務めだと言わんばかりに。
しかし、ヘルハウンドはそんなものはお構いなしに口を大きく開き…耳をつんざくような咆哮と共に火球を吐き出した。修伝の炎属性魔術にも匹敵する威力の火の球。ヘルハウンド程の魔物ともなれば、このような芸当も可能という訳だ。さらに続けて、アレクシアに向かって駆け出した。火球で敵を焼き、牙で命を奪うという二段構えの攻撃だ。
二度ばかりアレクシアの剣が煌めいた。その後、
「ふぅ…」
という小さなため息。その場に残るは、体を真横から両断されたヘルハウンドと無傷のアレクシア。
まずは練気を込めた剣で炎を切り裂く修伝剣技『火炎裂き』でヘルハウンドの放った火炎を切り払う。続けて皆伝剣技『斬鉄・一刀両断』で鉄の如き硬さを持つヘルハウンドの体を両断した。防御と攻撃にそれぞれ一閃ずつ。無駄のない戦い方だ。
以前のアレクシアであれば、B+ランクの魔物を相手にした場合もっと手こずっていただろう。だが、ルカと共に冒険者として経験を積み、兄の呪縛から逃れた今――彼女は心技共に大きな成長を見せていた。おそらく、秘伝位階まであと一歩というところまで。
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