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優勝候補
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「いやっっっっったー!」
ルカの勝利に安鶴沙は両手を天に突きあげる。そして、隣に座るレームの体を抱きしめ髪に顔を埋めようとして…ハッと手を止める。
「す、すみません…つい、ルカ君と勘違いしちゃって…」
「え…?お姉さん、あの子にいつもそんな事してるのかい?ううーむ、ひょっとしてあの子とお姉さん達はアヤシイ関係なのかな?」
「も、もうっ…何言ってるんですか、違いますよう!」
そんなやり取りをする安鶴沙とレームの横で、アレクシアは口元に僅かに笑みを浮かべる。彼女は、少年の勝利を心の中で静かに祝福していた。
◇
「ふう…」
ザビノとの戦いを終えたルカは観客席へと戻っていく。少年の胸中に、喜びは少ない。まだ一回戦を勝ち抜いただけ。トーナメントは始まったばかりなのだ。
参加者用の通用口を抜け、観客席へと通じる階段の前まで来たその時、前方に立ち塞がる男の姿があった。見た事のない人物。いかにもゴロツキ風で、手には剣。
「へへ、通さねえよ」
男はニタリと笑う。
そして、
「よくも恥かかせてくれやがったなあ!」
背後から聞こえる憎悪の叫び。振り向けば、そこにはザビノが立っていた。やはり彼も手には剣を持っている。
すぐさまルカは理解する。これは、トーナメントで負けた事に対する報復だ。ここは試合場の外。自動回復の魔術の範囲外。そして前と後ろから挟み撃ちにされている状況。
しかし、ルカは動揺する事なく剣を抜く。こういう戦いの基本は、各個撃破だ。まずは階段前に立つ男を魅力化して――。そう判断したその時、
「な、何者だてめ…ぐえっ」
突如、階段前に立つ男がその場に倒れ伏した。さらに続けて、疾風の如き勢いで何者かが少年の横を駆け抜ける。アルトゥース流修伝体技、『雷足』。
そしてその人物は、ザビノの眼前まで迫るとその鳩尾に刀の柄を叩き込む。アルトゥース流初伝剣技『柄撃ち』。
「おっ…おごっ…ぐ…おごぉっ」
ザビノは腹を抑えその場でのたうち回る。
「クズが!貴様のようなクズ共がいるから俺たちの仕事が無くならない…!」
忌々し気にそう吐き捨てた後、瞬く間に二人の男を制圧した人物…まだ20代の中盤と思われる青年は振り返る。
「大丈夫か?確か君の名は…ルカ・ハークレイだったか」
純白の騎士服に身を包み、その顔には眼鏡。やや神経質そうな顔立ち。
彼の名は、ヴェルナー・ライヒハウゼン。アルトゥース流修伝剣士にして準1級修道騎士。ティネン新人トーナメント参加者であり…優勝候補筆頭と目される人物である。
ルカの勝利に安鶴沙は両手を天に突きあげる。そして、隣に座るレームの体を抱きしめ髪に顔を埋めようとして…ハッと手を止める。
「す、すみません…つい、ルカ君と勘違いしちゃって…」
「え…?お姉さん、あの子にいつもそんな事してるのかい?ううーむ、ひょっとしてあの子とお姉さん達はアヤシイ関係なのかな?」
「も、もうっ…何言ってるんですか、違いますよう!」
そんなやり取りをする安鶴沙とレームの横で、アレクシアは口元に僅かに笑みを浮かべる。彼女は、少年の勝利を心の中で静かに祝福していた。
◇
「ふう…」
ザビノとの戦いを終えたルカは観客席へと戻っていく。少年の胸中に、喜びは少ない。まだ一回戦を勝ち抜いただけ。トーナメントは始まったばかりなのだ。
参加者用の通用口を抜け、観客席へと通じる階段の前まで来たその時、前方に立ち塞がる男の姿があった。見た事のない人物。いかにもゴロツキ風で、手には剣。
「へへ、通さねえよ」
男はニタリと笑う。
そして、
「よくも恥かかせてくれやがったなあ!」
背後から聞こえる憎悪の叫び。振り向けば、そこにはザビノが立っていた。やはり彼も手には剣を持っている。
すぐさまルカは理解する。これは、トーナメントで負けた事に対する報復だ。ここは試合場の外。自動回復の魔術の範囲外。そして前と後ろから挟み撃ちにされている状況。
しかし、ルカは動揺する事なく剣を抜く。こういう戦いの基本は、各個撃破だ。まずは階段前に立つ男を魅力化して――。そう判断したその時、
「な、何者だてめ…ぐえっ」
突如、階段前に立つ男がその場に倒れ伏した。さらに続けて、疾風の如き勢いで何者かが少年の横を駆け抜ける。アルトゥース流修伝体技、『雷足』。
そしてその人物は、ザビノの眼前まで迫るとその鳩尾に刀の柄を叩き込む。アルトゥース流初伝剣技『柄撃ち』。
「おっ…おごっ…ぐ…おごぉっ」
ザビノは腹を抑えその場でのたうち回る。
「クズが!貴様のようなクズ共がいるから俺たちの仕事が無くならない…!」
忌々し気にそう吐き捨てた後、瞬く間に二人の男を制圧した人物…まだ20代の中盤と思われる青年は振り返る。
「大丈夫か?確か君の名は…ルカ・ハークレイだったか」
純白の騎士服に身を包み、その顔には眼鏡。やや神経質そうな顔立ち。
彼の名は、ヴェルナー・ライヒハウゼン。アルトゥース流修伝剣士にして準1級修道騎士。ティネン新人トーナメント参加者であり…優勝候補筆頭と目される人物である。
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