追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

ゲオルク2

　とある街のとある酒場。テーブルのひとつで、五人の男たちが向かい合って座っていた。彼らはBランク冒険者パーティ、『グレイウォルフ』メンバーだ。五人の間には言い知れぬ緊張感が漂い、全員が険悪な表情を浮かべている。その中のひとりが声をあらげた。

「とにかく、俺は抜けさせてもらう！じゃあな！」

　そう言って立ち上がり、後ろを振り帰りもせず酒場を後にした。

「ったく…勢いのあるパーティだって聞いて入ったのに、ロクでもねえ奴らだったぜ…」

　そんな捨て台詞を残しながら立ち去った彼は、ルカが抜けた後『グレイウォルフ』に入隊した冒険者だ。腕も立ち経験豊富な彼だったが、『グレイウォルフ』のメンバーとは馴染む事ができなかった。『グレイウォルフ』の面々があまりにも利己的だったためだ。

「あーあ、行っちゃったね」

　『グレイウォルフ』メンバーのひとり、コリントが肩を竦める。

「ひとり減っちゃったけど、どーすんの？」

「ああ！？」

　コリントの言葉に眉をしかめたのはパーティリーダー、ゲオルクだ。

「てめえ、他人事みたいに言ってんじゃねえぞ！あいつが抜けたのはてめえにも問題があんだろうが！」

「はあ？いやいや、何で僕のせいなんだよ！こういうのはリーダーの責任でしょ！」

　ゲオルクとコリントの間で口論が始まった。ゲオルクは気の荒い性格で、コリントは貴族の一門であるためプライドが高い。元々、彼らは愛称が悪いのだ。かつては二人がぶつかりそうになった時、ルカが間に入ってトラブルを未然に防いでいた。しかし、その少年は今ここにはいない。

　口論を続ける二人を、パーティメンバーのひとりボノはつまらなそうに眺めていた。彼は基本的に自分の特にならない事は行わない。喧嘩の仲裁などまっぴらだ。

　最後に残ったのはパーティのサブリーダーであるウォルターだが、この青年は元来が無口なためにこういった争いの仲介には不向きだ。結局、ゲオルクとコリントの口論は加速し――、

「もういい！こんなパーティ、僕も抜けてやるよ！」

　そう叫び立ち上がり、テーブルを後にした。途中で足を止め、ゲオルクの方を振り返ると吐き捨てるように言った。

「前々から、叔父上の養子になって男爵家を継がないかって話が来てたんだ。次に会う事があれば僕は男爵だ！対等の口を聞けると思わないでよね！ハッ！」

「うるせえ！さっさと失せろ！」

　ゲオルクはコリントに対して酒瓶を投げつけた。それを危うく避けつつ、コリントは立ち去る。

「クソッ！」

　コリントの姿が消えると、ゲオルクはテーブルに足を乗せて自らの頭をガシガシと掻いた。

「なんでこうなんだよ！なんで！」

「…分かってたんじゃないのか？」

　今まで無言で成り行きを見守っていた青年、ウォルターがポツリと呟くように言った。その言葉にゲオルクは声を荒げる。

「ああ！？分かってた？何をだ！？」

「ルカがいなくなれば、こうなるという事を」

「はあ！？ルカだあ！？どういう意味だ！あんなガキ、いなくなった所で何の意味もねえだろうが！」

「…そうか」

　とだけ答え、ウォルターは再び口を噤んだ。

　酒場には、ゲオルクの悪態だけが響き続けていた。