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ルフェール修道騎士団支部14

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「あーあ、ようやく自由の身だぜ」

 修道騎士団支部から遠ざかり、見送りに出ていたパトリック達の姿が見えなくなるとジョゼフは大きく背伸びして首をコキコキと鳴らした。

「さっそく宿に帰ってのんびり…と行きてえが、その前に――」

「はい、冒険者ギルドですね」

 ラナキア洞窟が迷宮ダンジョン化していた事、そしてそれを攻略した事、現在ラナキア洞窟は修道騎士団の管轄下に入り立ち入り禁止となっている事、などを冒険者ギルドに伝えておかなければならない。

 もっとも、それらの事実はすでに修道騎士団から冒険者ギルドに通達されているはずだ。とはいえ自分たちの口からもきちんと報告しておかなければならない。それが冒険者ギルドに所属する者のけじめというものだ。

 ルカたちは冒険者ギルドに向かう。そして受付に報告しようと自分たちの姓名を名乗った所…、

「はい、ジョゼフ・フィッツロイ様。ルカ・ハークレイ様。アレクシア・ツヴァイク様。ラナキア洞窟迷宮ダンジョン攻略については、修道騎士団より報告が届いております。…ミュルクの森のゲルトアルヴス様については、お悔やみを申し上げます」

 と、受付の女性は目を伏せた。どうやら修道騎士団は、ゲルトアルヴスは迷宮ダンジョン攻略中に死亡したという形で冒険者ギルドに報告を行ったようだ。邪神に関する情報は修道騎士団にとって門外不出だ。そういう形で伝えるしかなかったのだろう。

 女性は言葉を続ける。

「修道騎士団より、ジョゼフ様、ルカ様、アレクシア様の功労を称える通達が来ております。よって、三名に貢献度を付与。ジョゼフ様をBランク、ルカ様をDランクに昇格とさせていただきます。よろしいでしょうか?」

 ルカとジョゼフは顔を見合わせた。貢献度の付与、そして昇格。意外な展開だ。しかし無論、断る理由はない。

「お、おう…よろしく頼むぜ!」

 そうジョゼフが答え、冒険者の腕輪を差し出す。ルカも同様に差し出した。それを受付が受け取り、ギルドの奥へと下がる。そして戻ってきた時には、それぞれの腕輪にBランクとDランクを示す紋様が刻まれていた。

「アレクシア様についても、貢献度は蓄積されておりますのでギルドの依頼を達成次第昇格の手続きを取らせていただきます」

「承知した」

 受付嬢の言葉にアレクシアは頷く。そして一行は冒険者ギルドを後にした。



「いやー…しっかし、Bランクかあ…まあ、Aランク相当の実力を持ちSランク冒険者からも一目置かれる実質的にSランクの俺としちゃあ、こんなもん通過点でしかない訳だが…それはそれとして、嬉しいもんは嬉しいな!」

 ルフェールにある一軒の酒場。そこでジョゼフは自らの腕に嵌められた腕輪を眺めながらうんうんと頷いた。

「昇格おめでとうございます、ジョゼフさん」

 ジョゼフの横に座るルカが言った。

「何言ってんだ、ルカ君だってDランクに昇格じゃねえか。…ほい」

 と、ジョゼフは掌を突き出した。それが何を意味するのかルカにはすぐに分かった。自分も掌を突き出し、パン、とハイタッチする。なんだか少し気恥ずかしかったが…悪い気分ではない。

 一行は冒険者ギルドを出た後、無事の生還を祝うためおよびルカとジョゼフの祝勝会という事でこの酒場へと来たのだ。ルカ達の囲むテーブルの上には肉や果実が置かれている。「俺の驕りだ」という事でジョゼフが振舞ってくれたものだ。

「そういやよ、話は変わるが…アレクシア殿がスケルトンに放った奥伝剣技、ありゃあ修伝剣技『飛穿ひせん』の発展形なのか?」

「ん?『滴水穿石てきすいせんせき』の事だろうか。それならば『飛穿ひせん』というよりも――」

 と、ジョゼフとアレクシアが剣術談義を始めた。

 ルカは対面に座る少女の様子をチラリと伺う。彼女は物珍しそうに酒場の中をキョロキョロと見回している。

「酒場に来るのは始めてですか?」

 そう問いかけると、少女はビクッと肩を震わせながら答える。

「あ、は、はい…わたしの住んでた所では、未成年は酒場?バー?みたいな所は基本的に入れなかったんで…」

 少女はそう言いながら、やや上目遣いになって眼鏡の奥の視線をルカに向ける。

「それにしても、ルカ君は偉いですねえ…そんな歳で働いてるなんて…」

「…?そうでしょうか。そんなに珍しい事でもないと思いますけど…」

 貴族の子弟というなら別として、一般庶民であればルカの年齢で働くというのは普通だ。職人の子であれば見習いとして親方につき、農民の子であれば親と共に畑を耕す。子供であろうと何かしらの形で労働を行っている。もっとも、ルカのように自立して冒険者をやっている者は珍しいと言えるが。

「そういうお姉さんは元々どんな仕事をしてたんですか?」

 ルカは少女の事を『お姉さん』と呼んだ。本当は名前を聞きたかった所だが、それはひとまず置いておいた。

 修道騎士団の話によると、少女は自分の名前を名乗るのを頑なに拒んでいたという。それ故、彼女の方から名乗ってくれるのを辛抱強く待とうとルカは決めていたのだ。

「いえ、私は仕事なんてしてませんでした。その…ただのJKでしたから…」

「JK?」

 聞きなれない単語だ。

「はい、えっと…学生ですね。女子高校生。略してJKです」

「女子、高校生…?」

 ますます分からない。ルカは首を傾げた。
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