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ルフェール修道騎士団支部8

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「それじゃあ、俺らは晴れて無罪放免って事…か?」

 とジョゼフ。ジーナはやや不服そうながらも、

「…そうね」

 と答えた。あっけない釈放許可に、ルカはほっと胸を撫で下ろす。なんだかんだ言って、先行きが不安だったのだ。ルフェール修道騎士団では前時代的な拷問などは行っていない。だが、邪神教徒だと認定された人間に対し容赦するような甘い組織でもない。

 もしまかり間違って邪神教徒認定されてしまえば、修道騎士団大陸本部に連れて行かれて死ぬまで監禁されるか、それとも処刑されるか。そのような目に合う可能性もゼロではなかった。

(こんなにあっさり釈放してもらえるのは、アレクシアさんのおかげだ)

 感謝の念を込めて彼女へ視線を向ける。

「それで、姫様。どうなされますか?しばらくの間修道騎士団支部に滞在していただいても良いですし、すぐに出立なされても構いません。無論、拙者に役立てる事があれば何なりとお手伝いいたしますが…」

 パトリックはアレクシアに問いかけた。

「ありがとう。けれど、パトリック殿のお手を煩わせるつもりはないよ。冒険を続けるためすぐに出立させてもらおうと思うのだが…」

 アレクシアはルカとジョゼフにチラリを視線を向ける。

「そうですね。ずっと修道騎士団のお世話になってたら、ご迷惑でしょうし」

「だな。十分休んで体力も回復したし、毎日ゴロゴロしてたら体がなまっちまうよ」

 ルカ、ジョゼフがそれぞれ答えた。もっとも、この言葉の半分は建前だ。彼らとしては、修道騎士団の木が変わる前に修道騎士団支部を出ていきたい、というのが本音だった。

「という事です、パトリック第一級修道騎士殿」

 アレクシアはパトリックへ顔を向ける。

「私たちはすぐに出立させていただきます。寝泊まりさせていただいた事、食事を提供していただいた事感謝します」

「いえいえ、事情聴取に協力していただいたのはこちらの方ですので」

 パトリックはそう言って厳つい顔を綻ばせた。

「では、どうぞご出立の用意を…と言いたいのですが、最後に少しだけお付き合いしていただいてもよろしいですかな?」

「ああ、構わないが…いったい何を?」

「はい、邪神と融合したエルフの魔術師。確か、ゲルトアルヴスと言いましたか。彼の様子を確認していただきたいのです」



 パトリックが頼んだのは、こういう事だった。

 現在、ゲルトアルヴスは修道騎士団の地下牢の最奥にて厳重に管理されている。鉄格子の嵌められた牢に入れられ、24時間態勢で監視。その上、領域魔術により封印を施されている。出来得る限り措置と言っていいだろう。

 とはいえ、相手は邪神の融合体だ。万が一という事もある。ひょっとしたらその体の硬化が徐々に解けかけているかもしれない。

 そのため、ゲルトアルヴスに回復魔術を施した人間…すなわちルカに異変がないか確かめてもらいたいというのだ。

 ルカたちとしては、その申し出を断る理由はない。ルカ一行はパトリックに案内され地下牢へと向かった。

 階段を降り、地下牢へと進む。地下だけあって、薄暗く湿気が強い。石造りで作られた地下牢のほとんどは空だった。鉄格子が開け放たれている。その中にあって、ひとつだけ閉じられている牢がある。

(あれ…?)

 不思議に思い、ルカは牢の中へと視線を向ける。すると、中では少女が毛布を頭に被り蹲っていた。この辺りでは他に見かけた事のない特徴的な服装。

(そうか、逃走しようとしていた女の人か…)

 修道騎士団に連行され、拘束から抜け出したものの再び捕らえられた少女。彼女は、「うう…」と鳴き声とも呻き声ともつかない声を漏らしながら小さく震えていた。その姿にルカは哀れみを覚え思わず立ち止まる。

「早く進んでちょうだい。本来なら、ここは関係者以外立ち入り禁止なのよ」

 最後尾のジーナにそう促され、

「すみません」

 とルカは歩みを進めた。少女の事も気にかかるが、今はゲルトアルヴスの様子を確かめるのが先決だろう。

 一行は地下牢の奥へと進んでいった。
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