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ルフェール修道騎士団支部7

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「パトリック・ラフォン第一級修道騎士はアレクシア殿下の部屋にいるのね?」

「はい、ジーナ第二級修道騎士!」

 ジーナは従騎士を引きつれ、アレクシアに与えられた部屋へと向かう。ジーナたちが向かうと、部屋の扉は開け放たれていた。そこで彼女たちが見たものとは…、

「姫様!このような場所でお会いできるとは…誠に、誠に感無量でございます!」

 アレクシアの前に跪く、第一級修道騎士パトリック・ラフォンの姿だった。

「え…?」

 何が起きているのか分からず、硬直するジーナ。

 アレクシアはというと困り顔で、

「いや、だから頭を上げていただきたい…」

 と懇願している。しかしパトリックは膝を折ったままだ。そして彼は、

「思えば、レオンハルト殿と共に剣を学んでいたあの頃が拙者にとって最も充実した日々でした。拙者、レオンハルト殿程の才能は持ち合わせておりませんが、そんな身でありながら第一級修道騎士となれたのも全ては兄弟子、レオンハルト殿の御指導のたまもの。今は近衛総長、修道騎士と互いの立場は変わってしまいかれこれ二十年以上お会いできておりませぬが、レオンハルト殿をお慕いする気持ちは今も変わらず…」

 と、自分語りまで始めてしまった。その瞳には、うっすらと涙すら浮かんでいる。

 その様子を見て、ジーナはぽかんと口を開ける。

 彼女は午前中、町の見回りに出ていた。それが修道騎士団支部に戻ると、第一級修道騎士であるパトリックが到着しているという。予定よりも早い到着だ。しかも、従騎士たちに話を聞きアレクシアに接触を図ったという。それを聞きつけ、急いで部屋に来たのだが…状況が掴めなかった。

「ああ、ジーナ殿」

 アレクシアはジーナに気が付いた。

「どうか、あなたの口からもパトリック殿に頭を上げるよう頼んでいただけないだろうか」

「え?…え、ええ…」

 ジーナは、何が何やら訳が分からない。それでも何とか二人でなだめすかし、パトリックを起き上がらせた。

 ◇

 ルフェール修道騎士団支部、会議室。中央に円卓、その周囲を取り囲む椅子。その椅子に、5人の男女が腰かけていた。

 ルカ、ジョゼフ、アレクシア。それにジーナとパトリックである。

「――というのが、事のあらましです」

 そう言って、アレクシアが言葉を終えた。彼女はラナキア洞窟迷宮ダンジョン攻略の経緯――すなわち、ラナキア洞窟を目指した理由からゲルトアルヴスとの決戦までをジーナとパトリックに説明していたのだ。

 すでにジーナに話していた内容と重複する場面も多かったが、パトリックも交えて改めて…という事で、一から話をした。

 アレクシアが代表して話をしたのは、王女である彼女が説明を行った方が説得力があると考えたからだ。所々でルカが補足を入れる場面もあったが滞りなく全ての説明は終わった。

「なるほど、ご苦労なされましたな姫様」

 パトリックが重々しく頷いた。先ほどは頭を垂れて涙まで浮かべていたため威厳など微塵も感じられなかったが、こうして見るとさすが第一級修道騎士という貫禄を放っている。

「ご協力感謝いたします姫様!後はどうぞご自由になさってくだされい!」

「ご自由に、とは?」

 アレクシアが問い返す。

「それは勿論、このルフェール修道騎士団支部に滞在するなり、冒険者として冒険を続けるなり、姫様の御心のままにという事でございます」

 その言葉に驚いたのはジーナだ。

「パ、パトリック第一級修道騎士殿!?こ、このまま釈放するというのですか!?」

 叫ぶようにそう言いながら、思わず立ち上がる。

「何か問題でも?ジーナ第二級修道騎士」

 パトリックは立ち上がったジーナを見上げる。

「ま、まだ取り調べはこれからではないですか!?」

「取り調べとな」

 初老の修道騎士は眉をひそめる。

「もう事情聴取は終わっているではないか。これ以上何を聞く事があると言うのだ」

「そ、それは…」

 ジーナとしては、ルカたちとゲルトアルヴスの関係、ルカたちが本当に邪神崇拝と関係がないのか、その辺りをしつこく問い詰めるつもりでいた。さすがに拷問などを行う気はなかったが…少なくとも、しばらくは騎士団支部に留め置くつもりでいた。だが、パトリックは釈放するという。

「――いえ、分かりました。パトリック第一級修道騎士殿」

 結局、ジーナは折れた。折れざるを得なかった。修道騎士団において階級が上の人間に逆らう事は許されていないからだ。
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