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修道騎士3
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「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
ジョゼフはうろたえた。
「な、なんだよ拘束って!俺の話聞いてなかったのか!?俺たちは邪神の牙と融合したゲルトの旦那を倒したんだぜ!?」
「ええ、それは事実なのでしょうね」
分隊長はジョゼフに向けて左手をかざしながら言った。いつでも魔術を行使できるように、という魔術師特有の動作だ。彼女は腰に剣を帯びてはいるが得意な戦法は魔術という事らしい。
「けれど、あなた達の話を全て鵜呑みにする事はできないわ。例えば…あなた達4人の目的は最初から邪神の牙だった。けれど、今そこで固まっているエルフがその力を独り占めしようとして仲たがい、争う事になったとも考えられるわね」
「なに言ってんだ!んな訳…」
「何にしても、邪神についての情報を手に入れたあなた達を野放しにしておく事はできないわ。――包囲!」
分隊長の鋭い声が響くと、七名の団員達はルカ、アレクシア、ジョゼフの周りを取り囲んだ。中には手錠を持っている者もいる。
「抵抗しなければ手荒な真似をするつもりはないの。武器を捨て、大人しく投降しなさい」
「…っ」
ジョゼフは手に持った槍を構えかけて…その動作を止めた。
修道騎士団の言い分はやや乱暴だが、全く筋が通っていないという訳でもない。ジョゼフ達を危険分子と見なす気持ちも分かる。それに、修道騎士達と争いたくはなかった。修道騎士団は冒険者ギルドと並ぶ超国家間組織。ここで下手に争えば、今この瞬間は逃げ切れたとしてもいずれどこかで見つかり拘束される可能性が高い。
では、素直に修道騎士達に連行されるべきか。いや、それはそれでリスクが伴う。
修道騎士団は正義の組織。そして正義とは――時に暴走する。修道騎士団では危険分子に対しては拷問も辞さない。修道騎士団支部には、危険分子を抑留するための牢と情報を吐き出させるための拷問器具が必ず備えられていると聞く。修道騎士団は善良なる人民には慈愛を持って接するが、邪悪なる存在には一切の容赦をする事がないのだ。
もしここで投降してしまえば、『取り調べ』と称してどのような拷問を受けるか分かったものではない。
「待ってください!」
ルカが口を開く。
「修道騎士団の方々が僕らを疑うの気持ちも分かります。でも、これじゃあ罪人扱いです」
この扱いに納得してしまえば、相手とこちらの間に完全な上下関係が出来上がってしまう。今後の事を考えるならば対等な関係を保っておかなければならない。
「僕たちは元々修道騎士団支部へ向かうつもりでした。同行します。ですから…拘束はやめてください」
「残念だけどそうもいかないわ。あなた達、この『融合体』を倒したのでしょう?となれば、Sランクに近い実力があるはず」
「そんな事は…ありません。運よく無力化する事ができただけで…」
「ええ、勿論。運もあったのでしょう。けれど、相応の実力は持っている。特に、あなた」
分隊長はアレクシアへ視線を移す。
「ツヴァイク、というとあのツヴァイク家の関係者よね?その佇まいからも並の剣士じゃない事が一目瞭然…皆伝か、ひょっとしたら奥伝レベルの実力者かしら。正直、私でも手に余る相手だわ」
「…」
アレクシアは答えず、ただ静かに分隊長に鋭い視線を返す。
「けれど、練気の乱れを感じる事もできる。つまりこの『融合体』との戦いで失った練気が完全には戻っていない。当たりでしょう?それなら今のうちに拘束しておくべき、というのが分隊長としての私の判断よ。無論、そこの二人もね」
手錠を持った修道騎士団員がルカたちに近付いた。おそらくただの手錠ではない。拘束した者の力を奪うような魔術が付与されている可能性が高い。
(どうする…)
ルカは思考を巡らせる。自分もアレクシアも、最低限戦えるだけの体力は取り戻している。しかしまだ全快ではない。
切り抜ける事ができるのか。もし切り抜けたとして、その後修道騎士団に指名手配されるような状況になるのではないか。
では、大人しく拘束されるか?その結果、運が良ければ取り調べの後釈放。だが、下手をすれば拷問。まかり間違って邪神教徒と認定されてしまえば処刑という事も有り得る。さすがにそんな最悪の事態に陥る可能性は低いと思われるが…しかし、自分の運命を修道騎士団に委ねる結果になるのは間違いがいない。
いったいどうするのが最善か。
(いっその事、僕だけが罪を被る形でアレクシアさんとジョゼフさんだけでも助けてもらうようにするべきかもしれない…)
ルカはさまざまな文献を読み込んでいるあるだけあって、邪神についてもそれなりの知識はある。それを上手く組み合わせれば、ルカのみが『危険人物』と判断されアレクシアとジョゼフに対する疑いは解けるかもしれない。
そんな事を考えたその時、修道騎士のひとりがルカに向けて詰めよった。
その人物から庇うように、アレクシアがルカの手をぎゅっと握って引き寄せる。そして、
「大丈夫だよ」
と小さく囁く。その後、鋭い視線で修道騎士を睨みつけた。
「控えろ!私の仲間に手を出すな」
アレクシアの凛とした声が響く。人の上に立つ者のみが持つ、威厳ある声音。
「あなた、誰を相手にしているのか分かっているの?」
分隊長は眉をひそめる。アレクシアの威厳ある声音にも怯んだ様子は見せない。
「ツヴァイク家の人間だからと言って図に乗っているのかしら。けど、ツヴァイクなんてのはしょせんただの剣士集団。それに引き換え、私は第二級修道騎士の…」
「ほう、修道騎士とは随分偉いものなのだな」
アレクシアの声に鋭さが増す。分隊長は思わず言葉を飲み込んだ。
「では、貴公は『三大国』の王族たる私よりも上の権力を有しているという事か?」
「お、王族…?」
ジョゼフはうろたえた。
「な、なんだよ拘束って!俺の話聞いてなかったのか!?俺たちは邪神の牙と融合したゲルトの旦那を倒したんだぜ!?」
「ええ、それは事実なのでしょうね」
分隊長はジョゼフに向けて左手をかざしながら言った。いつでも魔術を行使できるように、という魔術師特有の動作だ。彼女は腰に剣を帯びてはいるが得意な戦法は魔術という事らしい。
「けれど、あなた達の話を全て鵜呑みにする事はできないわ。例えば…あなた達4人の目的は最初から邪神の牙だった。けれど、今そこで固まっているエルフがその力を独り占めしようとして仲たがい、争う事になったとも考えられるわね」
「なに言ってんだ!んな訳…」
「何にしても、邪神についての情報を手に入れたあなた達を野放しにしておく事はできないわ。――包囲!」
分隊長の鋭い声が響くと、七名の団員達はルカ、アレクシア、ジョゼフの周りを取り囲んだ。中には手錠を持っている者もいる。
「抵抗しなければ手荒な真似をするつもりはないの。武器を捨て、大人しく投降しなさい」
「…っ」
ジョゼフは手に持った槍を構えかけて…その動作を止めた。
修道騎士団の言い分はやや乱暴だが、全く筋が通っていないという訳でもない。ジョゼフ達を危険分子と見なす気持ちも分かる。それに、修道騎士達と争いたくはなかった。修道騎士団は冒険者ギルドと並ぶ超国家間組織。ここで下手に争えば、今この瞬間は逃げ切れたとしてもいずれどこかで見つかり拘束される可能性が高い。
では、素直に修道騎士達に連行されるべきか。いや、それはそれでリスクが伴う。
修道騎士団は正義の組織。そして正義とは――時に暴走する。修道騎士団では危険分子に対しては拷問も辞さない。修道騎士団支部には、危険分子を抑留するための牢と情報を吐き出させるための拷問器具が必ず備えられていると聞く。修道騎士団は善良なる人民には慈愛を持って接するが、邪悪なる存在には一切の容赦をする事がないのだ。
もしここで投降してしまえば、『取り調べ』と称してどのような拷問を受けるか分かったものではない。
「待ってください!」
ルカが口を開く。
「修道騎士団の方々が僕らを疑うの気持ちも分かります。でも、これじゃあ罪人扱いです」
この扱いに納得してしまえば、相手とこちらの間に完全な上下関係が出来上がってしまう。今後の事を考えるならば対等な関係を保っておかなければならない。
「僕たちは元々修道騎士団支部へ向かうつもりでした。同行します。ですから…拘束はやめてください」
「残念だけどそうもいかないわ。あなた達、この『融合体』を倒したのでしょう?となれば、Sランクに近い実力があるはず」
「そんな事は…ありません。運よく無力化する事ができただけで…」
「ええ、勿論。運もあったのでしょう。けれど、相応の実力は持っている。特に、あなた」
分隊長はアレクシアへ視線を移す。
「ツヴァイク、というとあのツヴァイク家の関係者よね?その佇まいからも並の剣士じゃない事が一目瞭然…皆伝か、ひょっとしたら奥伝レベルの実力者かしら。正直、私でも手に余る相手だわ」
「…」
アレクシアは答えず、ただ静かに分隊長に鋭い視線を返す。
「けれど、練気の乱れを感じる事もできる。つまりこの『融合体』との戦いで失った練気が完全には戻っていない。当たりでしょう?それなら今のうちに拘束しておくべき、というのが分隊長としての私の判断よ。無論、そこの二人もね」
手錠を持った修道騎士団員がルカたちに近付いた。おそらくただの手錠ではない。拘束した者の力を奪うような魔術が付与されている可能性が高い。
(どうする…)
ルカは思考を巡らせる。自分もアレクシアも、最低限戦えるだけの体力は取り戻している。しかしまだ全快ではない。
切り抜ける事ができるのか。もし切り抜けたとして、その後修道騎士団に指名手配されるような状況になるのではないか。
では、大人しく拘束されるか?その結果、運が良ければ取り調べの後釈放。だが、下手をすれば拷問。まかり間違って邪神教徒と認定されてしまえば処刑という事も有り得る。さすがにそんな最悪の事態に陥る可能性は低いと思われるが…しかし、自分の運命を修道騎士団に委ねる結果になるのは間違いがいない。
いったいどうするのが最善か。
(いっその事、僕だけが罪を被る形でアレクシアさんとジョゼフさんだけでも助けてもらうようにするべきかもしれない…)
ルカはさまざまな文献を読み込んでいるあるだけあって、邪神についてもそれなりの知識はある。それを上手く組み合わせれば、ルカのみが『危険人物』と判断されアレクシアとジョゼフに対する疑いは解けるかもしれない。
そんな事を考えたその時、修道騎士のひとりがルカに向けて詰めよった。
その人物から庇うように、アレクシアがルカの手をぎゅっと握って引き寄せる。そして、
「大丈夫だよ」
と小さく囁く。その後、鋭い視線で修道騎士を睨みつけた。
「控えろ!私の仲間に手を出すな」
アレクシアの凛とした声が響く。人の上に立つ者のみが持つ、威厳ある声音。
「あなた、誰を相手にしているのか分かっているの?」
分隊長は眉をひそめる。アレクシアの威厳ある声音にも怯んだ様子は見せない。
「ツヴァイク家の人間だからと言って図に乗っているのかしら。けど、ツヴァイクなんてのはしょせんただの剣士集団。それに引き換え、私は第二級修道騎士の…」
「ほう、修道騎士とは随分偉いものなのだな」
アレクシアの声に鋭さが増す。分隊長は思わず言葉を飲み込んだ。
「では、貴公は『三大国』の王族たる私よりも上の権力を有しているという事か?」
「お、王族…?」
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