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決着後
しおりを挟む「ん、ぅ…」
アレクシアがくぐもった声を漏らす。そしてその瞳がゆっくりと開かれた。
「ルカ君…?」
目の前にいるルカが目を覚ましている事に気が付き、柔らかく微笑みかける。ちなみに、ルカは未だアレクシアの腕の中に抱かれたままだ。
「無事なようで良かった」
「アレクシアさんの方こそ…無事で良かったです」
「うん、なんとか乗り切れた。これも全て君のおかげだ」
そう言って、女剣士は少年の体を抱く手に力を込めた。
「ただ問題は、これからどうすっか…だな」
ジョゼフが言った。
「ゲルトの旦那をこのまま放置しておくってのも危険な気がするよな…。何かのはずみに硬化が解けるかもしんねえしよ」
微動だにしないエルフの魔術師に視線を向ける。
「そうですね」
ゲルトアルヴス。彼はいったい、何を思って邪神の牙と融合するという選択肢を選んだのか。
エルフという種族のためか。邪神への崇拝故か。その両方か。他にも何か理由があるのか。それは分からない。
(ただ、今になって思えば…ゲルトさんが僕たちの前に現れたのは唐突だった)
唐突に話しかけてきて、偶然ルカ達のパーティに加わった。だが、今思えばゲルトアルヴスは最初からラナキア洞窟に潜るパーティを探していたのではないか。
ゲルトアルヴスは最初からここに邪神殿がある事を知っており…そこに到達するために動いていたのではないか。彼はBランクとはいえ、単独で迷宮の攻略は不可能だ。それ故、ルカ達を利用しここまで来たのではないか。
そんな風にも思えるが、やはりこれも確証はない。
ただ、ルカはゲルトアルヴスを心の底から憎む事はできなかった。あまり口数は多くなかったが、物腰は丁寧で理知的な人物だった。スケルトンとの戦闘では、ジョゼフを助けるような動きを見せた事もある。
純粋な悪人ではなかった。ルカはそんな風に思う。
エルフの現状を変えたいと言っていた魔術師。果たして彼は、邪神と融合して何をするつもりだったのか。今となってはそれを知るすべはない。
「ゲルトさんは置いて僕たちだけで迷宮を脱出しましょう。そしてルフェールへ到着したら修道騎士団に報告、僕たちがここまで案内して回収してもらう…という事でどうでしょう」
修道騎士団の役目は、人類に対する脅威の排除。邪神の牙と融合した者がいると報告すれば回収してくれるだろう。そして、修道騎士団ならば邪神の牙を分析するなり、ゲルトアルヴスを封印するなりきちんとした処置を取ってくれるはずだ。
「ただ…僕とアレクシアさんは、すぐには動けないと思います」
「そうだね」
アレクシアが頷く。
二人はそれぞれ、魔力と練気の枯渇でまともに動く事ができない状況だ。
「移動できるようになるまで最低でも一日…出来れば、二、三日休んでから動きたい思います」
二人とも、マッドゴーレムと戦った時以上に疲弊している。ある程度戦えるようになるまで二、三日程度の時間はかかると見た方がいいだろう。
そして、戦えない状況で戻る事はできない。迷宮には魔物がいる。それら全てをジョゼフが相手するという訳にはいかないからだ。C+ランクのカルキノスが出てきた場合、ジョゼフひとりでは荷が重い。
「よし、それじゃあしばらくここで休息だな」
とジョゼフ。
迷宮最深部のここには魔物がいない。体力が回復するまで休むならこの場所が最適だろう。
という事で、しばらくはこの場で休息という事になった。保存食を食べ、眠り、体力の回復を図る。
万一に備え、常にひとりはゲルトアルヴスに対する監視を続けた。そうして二日と少し経った頃。
「ん…?」
と、アレクシアが何かの気配に気付いた。
「どうしたんだ?アレクシア殿」
ビスケットを齧っていたジョゼフが不思議そうに顔を上げた。
「――何かが近付いてくる。魔物?いや…」
耳を澄ませば、ルカとジョゼフにも何かが近付いてくる音が聞こえた。そして――話し声も。
この場に近付いて来ているのは、人間だった。
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