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少年と青年
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「ん…ぅ…」
深い深い暗闇。何もない闇の底にあった意識が浮上し、徐々にその輪郭がはっきりとしたものになる。
(ここは…どこだっけ…)
故郷の村?違う。ゲオルク達と訪れた町の宿?違う。それらは過ぎ去った日の思い出だ。
(そうだ、僕は…クラリスさんと会って…ドナルドさんやデボラさん、ジムケさん。そしてアレクシアさんと出会って…それから、それから…)
ルカはゆっくりと目を開ける。ちょうど目の前に青年が座っており、彼と目が合った。
「おお、目ぇ覚めたか…!」
「ジョゼフ、さん…?」
そうだ、と思い出す。アレクシア、ジョゼフ、ゲルトと共にラナキア洞窟に潜りそして――。
「ゲ、ゲルトさんは!?」
慌てて起き上がろうとして…起き上がる事ができなかった。自分の体は何者かに後ろから抱きしめられている。背中を振り向けば…そこにいた。アレクシアが。眠るかのように目を閉じ、ルカの体を抱きしめている。
そういえば、前にもこんな事があったと思い出す。ボグリザードやマッドゴーレムと戦った時だ。あの時もアレクシアは自分が目覚めるまで体を抱きしめていてくれた。しかし、今回は彼女の意識もないようだ。
「ア、アレクシアさん!?大丈夫ですか!?」
「心配すんなって」
ジョゼフが言った。
「練気の使い過ぎで疲れて眠ってるだけだ。途中一度起きたんだが、体に異常はないっつってた」
「そうですか…」
ひとまずは胸を撫で下ろす。そして、ジョゼフの落ち着きぶりからゲルトアルヴスについてもなんとなかったのだろうと推察できた。しかし、聞かずにはいられない。
「それで…ゲルトさんの方は?」
「ゲルトの旦那は…あれだ」
ジョゼフは視線を向けた。ルカはその先を追う。その時、ルカは始めて今自分たちがいる場所がどこなのか理解した。先ほどゲルトアルヴスと戦った場所からさほど離れていない位置にある岩壁の窪みの中だ。そして、ジョゼフの視線の先に――その人物はいた。邪神の牙と融合した、エルフの魔術師。
彼は、苦悶の表情を浮かべながら静止していた。まるで彫像かなにかのように、ぴくりとも動かない。
「ルカ君が倒れた時から、ずっとあのままだ。恐る恐る触ってみたんだが…手も、足も、目ん玉までガチガチに固くなっちまってる。金剛石みてえにな。生きてるのか死んでるのか分からねえが…口まで固まってるみてえだから、魔術も使えないはずだ」
「それじゃあ…僕の作戦は上手くいったんですね」
「そうみてえだな。いや、あそこで回復魔術とは…恐れ入ったぜ」
ジョゼフは柔らかく笑い、ルカの頭をポンポンと撫でた。
「あ…」
と、そこでルカが気付く。
「ジョゼフさん、手の方は…」
ジョゼフは、ルカを守るため黒炎をその剣で受けていた。おそらく延焼の効果がその腕に及んでいるはずだ。
「ああ、問題ねえ。ゲルトの旦那が動かなくなったらあの炎も消えて腕の痛みもなくなった。一応回復薬もかけておいたし大丈夫だ」
黒炎は幻想属性。現実には存在しない、魔力により作り上げられた幻の属性。ゲルトアルヴスが魔力を送れなくなれば、延焼の効果も消えるという事だろう。
そして、ゲルトアルヴスが魔力を送れなくなったという事は…やはり、彼は完全に戦闘能力を失ったと見て間違いないはずだ。
「やりましたね」
ルカは安堵のため息を漏らす。ゲルトアルヴスを説得できなかったのは心が痛むが…ひとまず、ルカ、アレクシア、ジョゼフの三人は無事に生き残る事ができた。まずはそれを心から喜ぼう。少年は、そう思った。
「ジョゼフさん、ありがとうございます」
「な、何言ってんだ」
ルカに微笑まれ、ジョゼフは驚いたように頬を染める。
「礼を言うのは俺の方だ。作戦を立てたのも、最後に決めたのも…ルカ君じゃねえか」
「いえ、僕だけじゃあどうにもなりませんでした。…ジョゼフさん、本当にありがとうございます」
ジョゼフは息を飲む。ルカの言葉が本心から出たものであると直感したからだ。実際、自分は大した事はしていない…と、ジョゼフは思う。途中で逃げようとしたし、基本的にはルカの考えた作戦通りに動いただけだ。
だが、ルカはそんなジョゼフに対し心から感謝の言葉を述べた。そんな少年に対し、ジョゼフは感じた。
(これが器の大きさって奴か…)
と。
「…敵わねえな」
ポツリと呟く。
「え?」
「いや、なんでもねえよ」
そう言って、ジョゼフは微笑みかけ…少年の眼前に拳を突き出す。それを見て、ルカも拳を作り突き出した。
「まあ、何にしても…お疲れさんって事だな。お互い様に」
「はい」
ルカも微笑む。
少年と青年の拳が、コツンと触れ合った。
深い深い暗闇。何もない闇の底にあった意識が浮上し、徐々にその輪郭がはっきりとしたものになる。
(ここは…どこだっけ…)
故郷の村?違う。ゲオルク達と訪れた町の宿?違う。それらは過ぎ去った日の思い出だ。
(そうだ、僕は…クラリスさんと会って…ドナルドさんやデボラさん、ジムケさん。そしてアレクシアさんと出会って…それから、それから…)
ルカはゆっくりと目を開ける。ちょうど目の前に青年が座っており、彼と目が合った。
「おお、目ぇ覚めたか…!」
「ジョゼフ、さん…?」
そうだ、と思い出す。アレクシア、ジョゼフ、ゲルトと共にラナキア洞窟に潜りそして――。
「ゲ、ゲルトさんは!?」
慌てて起き上がろうとして…起き上がる事ができなかった。自分の体は何者かに後ろから抱きしめられている。背中を振り向けば…そこにいた。アレクシアが。眠るかのように目を閉じ、ルカの体を抱きしめている。
そういえば、前にもこんな事があったと思い出す。ボグリザードやマッドゴーレムと戦った時だ。あの時もアレクシアは自分が目覚めるまで体を抱きしめていてくれた。しかし、今回は彼女の意識もないようだ。
「ア、アレクシアさん!?大丈夫ですか!?」
「心配すんなって」
ジョゼフが言った。
「練気の使い過ぎで疲れて眠ってるだけだ。途中一度起きたんだが、体に異常はないっつってた」
「そうですか…」
ひとまずは胸を撫で下ろす。そして、ジョゼフの落ち着きぶりからゲルトアルヴスについてもなんとなかったのだろうと推察できた。しかし、聞かずにはいられない。
「それで…ゲルトさんの方は?」
「ゲルトの旦那は…あれだ」
ジョゼフは視線を向けた。ルカはその先を追う。その時、ルカは始めて今自分たちがいる場所がどこなのか理解した。先ほどゲルトアルヴスと戦った場所からさほど離れていない位置にある岩壁の窪みの中だ。そして、ジョゼフの視線の先に――その人物はいた。邪神の牙と融合した、エルフの魔術師。
彼は、苦悶の表情を浮かべながら静止していた。まるで彫像かなにかのように、ぴくりとも動かない。
「ルカ君が倒れた時から、ずっとあのままだ。恐る恐る触ってみたんだが…手も、足も、目ん玉までガチガチに固くなっちまってる。金剛石みてえにな。生きてるのか死んでるのか分からねえが…口まで固まってるみてえだから、魔術も使えないはずだ」
「それじゃあ…僕の作戦は上手くいったんですね」
「そうみてえだな。いや、あそこで回復魔術とは…恐れ入ったぜ」
ジョゼフは柔らかく笑い、ルカの頭をポンポンと撫でた。
「あ…」
と、そこでルカが気付く。
「ジョゼフさん、手の方は…」
ジョゼフは、ルカを守るため黒炎をその剣で受けていた。おそらく延焼の効果がその腕に及んでいるはずだ。
「ああ、問題ねえ。ゲルトの旦那が動かなくなったらあの炎も消えて腕の痛みもなくなった。一応回復薬もかけておいたし大丈夫だ」
黒炎は幻想属性。現実には存在しない、魔力により作り上げられた幻の属性。ゲルトアルヴスが魔力を送れなくなれば、延焼の効果も消えるという事だろう。
そして、ゲルトアルヴスが魔力を送れなくなったという事は…やはり、彼は完全に戦闘能力を失ったと見て間違いないはずだ。
「やりましたね」
ルカは安堵のため息を漏らす。ゲルトアルヴスを説得できなかったのは心が痛むが…ひとまず、ルカ、アレクシア、ジョゼフの三人は無事に生き残る事ができた。まずはそれを心から喜ぼう。少年は、そう思った。
「ジョゼフさん、ありがとうございます」
「な、何言ってんだ」
ルカに微笑まれ、ジョゼフは驚いたように頬を染める。
「礼を言うのは俺の方だ。作戦を立てたのも、最後に決めたのも…ルカ君じゃねえか」
「いえ、僕だけじゃあどうにもなりませんでした。…ジョゼフさん、本当にありがとうございます」
ジョゼフは息を飲む。ルカの言葉が本心から出たものであると直感したからだ。実際、自分は大した事はしていない…と、ジョゼフは思う。途中で逃げようとしたし、基本的にはルカの考えた作戦通りに動いただけだ。
だが、ルカはそんなジョゼフに対し心から感謝の言葉を述べた。そんな少年に対し、ジョゼフは感じた。
(これが器の大きさって奴か…)
と。
「…敵わねえな」
ポツリと呟く。
「え?」
「いや、なんでもねえよ」
そう言って、ジョゼフは微笑みかけ…少年の眼前に拳を突き出す。それを見て、ルカも拳を作り突き出した。
「まあ、何にしても…お疲れさんって事だな。お互い様に」
「はい」
ルカも微笑む。
少年と青年の拳が、コツンと触れ合った。
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