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ラナキア洞窟-SECRET BOSS-14
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本来ならば、回復魔術『ホーリー・トリートメント』は対象者の傷を治療した所で効果が終了する。しかし――ルカの使用した『ホーリー・トリートメント』は、ゲルトアルヴスの肉体が完治した後もその肉体を回復し続けていた。これは、魔力増強を使用できる彼だからこそ可能な行為だ。そして、それによって起こる肉体の過剰な回復。
(ゲルトさんの肉体には、おそらく邪神の牙と融合した段階で二つの付与が生じている)
ルカはそう考えた。
ひとつは『自動再生』。肉体が欠損すると、その部位が自動で再生するというもの。
もうひとつは『再生のたびの防御力強化』。ゲルトアルヴスの体は、再生のたびにその強度を増しているが敏捷性や攻撃力などは変化していない。あくまで防御力のみが強化されている。すなわち、『固くなって』いるのだ。
これをさらに推し進めればどうなる?皮膚も、関節も無限に硬質化してしまえば――。
(いずれ、ゲルトさんの筋肉では自分の体を動かせなくなる)
それがルカの導き出した結論だった。無論、あくまで推測でしかない。完全な的外れという事も考えられた。だが、邪神の牙という異形との融合。ゲルトアルヴスの体に何らかの歪み…欠陥が生じていてもおかしくはない。少年は、その可能性に欠けた。
「く、クソがっ…!」
ゲルトアルヴスはルカから離れようと足を動かす。これ以上の過剰回復が進めば、いずれは指一本動かせなるなる可能性もある。関節が固い。だが、全力を振り絞れば今ならまだ動かせる――。片足を後ろへ下げ、もう片方を下げようとした所で…その足を掴まれた。
「どこへ…行こうというのだ?ゲルト殿」
足を掴んだ女剣士…アレクシアは、ゲルトアルヴスを見上げた。
「きさ、ま…!」
アレクシアはゲルトアルヴスの足元で倒れながら、その足に抱き着いている。彼女の体に練気は残されていない。立ち上がる気力すらない。だが、これくらいの事はできる。
「くそっ…!」
ゲルトアルヴスは移動する事を諦めた。膝関節ごと固定するように抱きかかえられては、おそらく今の自分では足を動かす事ができない。だが、逃げる事ができないのならば――
(殺す…!)
ルカを殺す。そうすれば、『ホーリー・トリートメント』も終了しこれ以上の過剰回復は避けられる。
「■■■――!」
古代魔術の呪文詠唱。地面に落ちた剣から黒炎が迸り、とぐろを巻きルカに襲い掛かった。しかし、
「俺は、Cランクだが――!」
ルカと炎の間に、一人の男が割り込んだ。
「Sランクの実力を持つ男!」
ジョゼフが、迫りくる黒炎を剣で受け止める。中伝剣技『不動受け』。
「ぐうっ…あああ!」
練気の込められた剣で炎を受け止める。だが、延焼の効果がジョゼフの腕を焦がす。
そもそも、彼は槍使い。剣の扱いは専門ではない。槍を失ってしまったため剣を使用しているに過ぎない。じりじりと黒炎の勢いに押されている。
しかし――引き下がらない。腕を焼かれ、炎が眼前に迫ろうとも、痛みと恐怖に耐え剣を構え続ける。
「き、貴様まで…貴様、如きが…!」
ゲルトアルヴスの顔が怒りに歪む。
「ああ、俺如き…頑張った所で大した事はできねえかもしれねえよ!」
炎を受け止めながら…痛みと恐怖で顔に冷や汗を浮かべながら、ジョゼフはゲルトアルヴスに答える。
「けどな、俺ぁリーダーだからよ…仲間は、守らねえと…なあ!」
「ざ、雑魚共の分際で…!」
ゲルトアルヴスが唯一警戒していたのは、アレクシアただ一人。ルカとジョゼフ。しょせん、初伝と修伝。邪神の牙と融合した自分にとっては雑魚でしかない。そう高をくくっていた。だが、その雑魚に今追い詰められている。
「私…わ、我から…離れろ!」
腕を軋ませながらルカの体に手を近付ける。手刀を作り、ルカの肩に当て…力を込めた。
「――ッ!」
ルカの肩の骨がみしり、と音を立てる。ゲルトアルヴスは元々体格が良く、少年の骨を折る程度の力は持っている。それに加え、ルカは現在魔術に集中しているため練気で体を守る事もできない。
みしみしと骨が軋む音が体の中から響く。しかし、ルカは動かない。顔を上げ、ゲルトアルヴスを睨みつけた。
「うっ…」
その瞳に、ゲルトアルヴスは気圧される。邪神の牙と融合し、S+相当の実力を手に入れいずれは『厄災』になりうる可能性すらある男が…少年の瞳に、恐怖を覚えた。
例え骨が折れようと、砕かれようと。魔力が尽きるその時まで、魔術の行使を止めるつもはない覚悟の瞳。
「馬鹿な!わ、我が…こんな…わ、私が、こんな、所で…!」
「――…ぐっ…ぅ…あああああ!」
ルカは体内の残る魔力、その最後の一滴を絞り出し…『ホーリー・トリートメント』に込めた。
「や、止めろ!わ、私は、エルフの…古のエルフの力を取り戻し――」
そこでゲルトアルヴスの言葉は止まった。同時に、ルカの意識は暗闇へと落ち全身から力が抜ける。膝が折れ、地面に倒れ伏した。
(ゲルトさんの肉体には、おそらく邪神の牙と融合した段階で二つの付与が生じている)
ルカはそう考えた。
ひとつは『自動再生』。肉体が欠損すると、その部位が自動で再生するというもの。
もうひとつは『再生のたびの防御力強化』。ゲルトアルヴスの体は、再生のたびにその強度を増しているが敏捷性や攻撃力などは変化していない。あくまで防御力のみが強化されている。すなわち、『固くなって』いるのだ。
これをさらに推し進めればどうなる?皮膚も、関節も無限に硬質化してしまえば――。
(いずれ、ゲルトさんの筋肉では自分の体を動かせなくなる)
それがルカの導き出した結論だった。無論、あくまで推測でしかない。完全な的外れという事も考えられた。だが、邪神の牙という異形との融合。ゲルトアルヴスの体に何らかの歪み…欠陥が生じていてもおかしくはない。少年は、その可能性に欠けた。
「く、クソがっ…!」
ゲルトアルヴスはルカから離れようと足を動かす。これ以上の過剰回復が進めば、いずれは指一本動かせなるなる可能性もある。関節が固い。だが、全力を振り絞れば今ならまだ動かせる――。片足を後ろへ下げ、もう片方を下げようとした所で…その足を掴まれた。
「どこへ…行こうというのだ?ゲルト殿」
足を掴んだ女剣士…アレクシアは、ゲルトアルヴスを見上げた。
「きさ、ま…!」
アレクシアはゲルトアルヴスの足元で倒れながら、その足に抱き着いている。彼女の体に練気は残されていない。立ち上がる気力すらない。だが、これくらいの事はできる。
「くそっ…!」
ゲルトアルヴスは移動する事を諦めた。膝関節ごと固定するように抱きかかえられては、おそらく今の自分では足を動かす事ができない。だが、逃げる事ができないのならば――
(殺す…!)
ルカを殺す。そうすれば、『ホーリー・トリートメント』も終了しこれ以上の過剰回復は避けられる。
「■■■――!」
古代魔術の呪文詠唱。地面に落ちた剣から黒炎が迸り、とぐろを巻きルカに襲い掛かった。しかし、
「俺は、Cランクだが――!」
ルカと炎の間に、一人の男が割り込んだ。
「Sランクの実力を持つ男!」
ジョゼフが、迫りくる黒炎を剣で受け止める。中伝剣技『不動受け』。
「ぐうっ…あああ!」
練気の込められた剣で炎を受け止める。だが、延焼の効果がジョゼフの腕を焦がす。
そもそも、彼は槍使い。剣の扱いは専門ではない。槍を失ってしまったため剣を使用しているに過ぎない。じりじりと黒炎の勢いに押されている。
しかし――引き下がらない。腕を焼かれ、炎が眼前に迫ろうとも、痛みと恐怖に耐え剣を構え続ける。
「き、貴様まで…貴様、如きが…!」
ゲルトアルヴスの顔が怒りに歪む。
「ああ、俺如き…頑張った所で大した事はできねえかもしれねえよ!」
炎を受け止めながら…痛みと恐怖で顔に冷や汗を浮かべながら、ジョゼフはゲルトアルヴスに答える。
「けどな、俺ぁリーダーだからよ…仲間は、守らねえと…なあ!」
「ざ、雑魚共の分際で…!」
ゲルトアルヴスが唯一警戒していたのは、アレクシアただ一人。ルカとジョゼフ。しょせん、初伝と修伝。邪神の牙と融合した自分にとっては雑魚でしかない。そう高をくくっていた。だが、その雑魚に今追い詰められている。
「私…わ、我から…離れろ!」
腕を軋ませながらルカの体に手を近付ける。手刀を作り、ルカの肩に当て…力を込めた。
「――ッ!」
ルカの肩の骨がみしり、と音を立てる。ゲルトアルヴスは元々体格が良く、少年の骨を折る程度の力は持っている。それに加え、ルカは現在魔術に集中しているため練気で体を守る事もできない。
みしみしと骨が軋む音が体の中から響く。しかし、ルカは動かない。顔を上げ、ゲルトアルヴスを睨みつけた。
「うっ…」
その瞳に、ゲルトアルヴスは気圧される。邪神の牙と融合し、S+相当の実力を手に入れいずれは『厄災』になりうる可能性すらある男が…少年の瞳に、恐怖を覚えた。
例え骨が折れようと、砕かれようと。魔力が尽きるその時まで、魔術の行使を止めるつもはない覚悟の瞳。
「馬鹿な!わ、我が…こんな…わ、私が、こんな、所で…!」
「――…ぐっ…ぅ…あああああ!」
ルカは体内の残る魔力、その最後の一滴を絞り出し…『ホーリー・トリートメント』に込めた。
「や、止めろ!わ、私は、エルフの…古のエルフの力を取り戻し――」
そこでゲルトアルヴスの言葉は止まった。同時に、ルカの意識は暗闇へと落ち全身から力が抜ける。膝が折れ、地面に倒れ伏した。
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