追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

ラナキア洞窟攻略9

「エルフの寿命か…んー、よく知らねえけど、300歳か…400歳くらいか？」

　顎に手を当てつつジョゼフが答える。彼は今まで、エルフと行動を共にした事がなかった。しかし長命という噂は聞いている。おそらくそのくらいではないかと推察したのだ。

「僕もそのくらいなんじゃないかなって思います。もしくはそれ以上とか…」

　ルカも同意した。ルカの場合は、ジョゼフよりも知識があった。エルフについて書かれた本を何冊か読んだ事があるからだ。その本に出てくるエルフには、200歳、300歳…さらには400歳を超えているものも多くいた。

「私は、もう少し短いのではないかと思う。200歳くらいだろうか」

　というのはアレクシアの意見だ。

「なるほど」

　ゲルトは全員の意見を聞き終えゆっくりと頷いた。

「おそらく、多くの方々は皆さまと同じような認識なのでしょうね。200歳か、400歳か…それともそれ以上か。しかし、現実は違います」

　そう言って、ゲルトは寂しそうな視線を中空に向けた。

「現在、エルフの平均的な寿命は100歳を少し超える程度と言われています」

　三人にとって意外な答えだった。もちろん、100年という平均寿命は人間に比べれば長い。人間ヒューマンの中で100年以上生きる者など一握りだろう。だが、今まで三人が聞いてきたエルフの長命伝説に比べればかなり短く感じてしまう。

「太古の昔、エルフは今よりもずっと長命でした。500年…いや、千年の時を生きたエルフもいたと伝えられています。しかし、時代が下るにつれてエルフの寿命は短くなり…300年、200年と減少。そして現在の寿命は100年と少し。おそらく、今生まれたばかりのエルフたちの多くは100年と生きられないのではないでしょうか」

「…なんでエルフの寿命は短くなってんだ？」

　ジョゼフが問う。

「さまざまな説がありますが…エルフがその体内に持つ魔力が関係しているのではないかと言われています。太古のエルフは、その体内に老化を遅らせる魔力を宿していました。しかし、それが代を重ねるにつれて薄くなって来ているのではないかと。あくまで、一説ですが」

「なるほどな…」

「そのせいもあり、世界に対するエルフの影響力は年々減少してきています」

「だが、大陸三大国のひとつアルフヘイムはエルフの統治する国なのでは？」

　と、アレクシア。

　大陸三大国…すなわち、今現在ルカたちがいるフィアハ大陸で覇権を争っている3つの大国の事である。そのひとつが、エルフの国アルフヘイムだ。

「確かにアルフヘイムは大陸三大国のひとつですが…逆に言えば、エルフの支配する大国は世界においてアルフヘイムただひとつ。それ以外のエルフの多くは、森の中でひっそりと暮らしています。私は、そのようなエルフの現状を変えたいのです。エルフの寿命を延ばし、かつての力あるエルフを取り戻したい…。世界を旅すればその手掛かりがあるのではないかと考え、私は冒険者という道を選んだのです。私の悲願は…」

　そこまで言って、ゲルトはハッと我に返る。

「…すみません。べらべらと喋りすぎてしまいましたね。エルフの影響力を増やしたいなど、あなた方にとっては不快な話だったかもしれません」

「いえ…興味深い話でした」

　ルカがゲルトに、ハーブティーの入ったカップを差し出しながら言った。彼は話を聞く間に焚火を使ってお茶を淹れていたのだ。

　ゲルトは「どうも」と言ってカップを受け取る。続いてルカはアレクシアとジョゼフにもカップを手渡した。二人も礼を言って受け取った。

「エルフの寿命についてというのは今まで考えた事がなかったのでとても勉強になりました」

「そうだな。身近にエルフがいねえと、そういう事を考える機会はないからな」

　ジョゼフがうんうんと頷く。

「それに、自分の種族の未来を考えて冒険者になったゲルトさんはとっても立派だと思います」

「そうですか。…ありがとうございます」

　そう言って、ゲルトはカップに口をつけた。