追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

散士

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アレクシア

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「お、お、奥伝…!?う、嘘だろ!?」

 ジョゼフが素っ頓狂な声をあげる。

「んな馬鹿な!…いや、その…あんたの事を疑う訳じゃないんだが…」

 そう慌ててフォローしたが、ジョゼフはアレクシアの言葉を信じ切れていないようだった。ゲルトについても同様で、口にこそ出さないが訝しむような表情をしている。

 奥伝。九位階制において、初伝、中伝、修伝、皆伝の上に当たる位階。上から五番目、下からも五番目に位置する中央の位階。だが、奥伝に達する事のできる人間は一握りだ。

 そもそも、九位階の上位三位階…叡意、覚意、極意は一般冒険者には『関わり合いのないもの』として認識されている。

 一流派において、叡意は世界で数人。覚意は世界に一人。極意にいたっては数百年に一人出てくるかどうかという存在である。普通に生きていれば出会う事はそうそうないだろう。

 冒険者が最も多く関わり合うのは初伝、中伝、修伝の下位三位階だ。

 一般的に、初伝で駆け出し、中伝で一人前、修伝で一流の使い手とされる。それ以上の位階を有する者はめったにいないからだ。

 皆伝であれば上級貴族に大金で雇われるレベル。奥伝ともなれば小国の国王に国賓待遇で迎えられるレベルだろうか。

 少なくとも、Fランク冒険者のアレクシアが奥伝というのは…あまりにも異質だ。

「アレクシアさんの言葉は本当だと思います」

 ルカが発言した。

「僕は、アレクシアさんが皆伝剣技を使用してヒュージマッドゴーレムを倒す所をこの目で見ました」

 あの時アレクシアは、苦も無く皆伝位階の技を使用していた。奥伝レベルの実力があったとしても不思議ではない。

「でもよ、十代で奥伝の剣士なんて聞いた事もないぜ。俺の師匠は一応奥伝の槍使いだが…それでもその位階に達したのは六十を過ぎてからって話だ。にわかには信じられね……ん…待ってくれ」

 そこで、ジョゼフが何かを思い出すような仕草をした。

「そういえば、さっきアレクシア・ツヴァイクって名乗ってたよな…」

「はい」

 アレクシアは頷く。

「ツヴァイクってよ、もしかして…あの剣の名門、ツヴァイク家か?」

「いかにも」

「ま、まじか…!」

 驚きのあまりジョゼフがのけぞる。

(そうか…ツヴァイク家って、あの…)

 ルカも、二人のやりとりでアレクシアの強さに対してようやく合点がいった。しかし、ゲルトのみは理解していないようで、

「…すみません、人間族ヒューマンの家柄については詳しくないもので…ツヴァイク家というものについて教えてもらっても?」

 と疑問を口にした。

「ああ、そうだな…!」

 ジョゼフがやや興奮したように身を乗り出した。

「ツヴァイク家ってのは、剣術一家って呼ばれててな…一族みんながアルトゥース流剣術の使い手なんだ。一族からは代々叡意や覚意の剣士を輩出してる。ツヴァイク家こそが剣聖アルトゥースの正統後継者、なんて呼ぶ奴らもいるくらいだ。…で、合ってるよな、アレクシア殿」

 そう言ってアレクシアの方へ顔を向ける。彼女は頷いた。

「でも…どうしてそんな家柄のアレクシアさんが冒険者に…?」

 今度は、ルカが疑問を口にする。ツヴァイク家の人間という事であれば、貴族の御曹司に対する剣術指南なり王族の警護なり、然るべき仕事に就く事ができるはずだ。

「すまない、君にはもっと早く話しておくべきだったね」

 アレクシアはそう前置きして言葉を続けた。

「私は、幼い頃より祖父に剣技を教え込まれてきた。しかし、同時に…私は自分の実力に疑問を持ってもいた。私は実戦というものを経験した事がないからね」

 アレクシアはヒュージマッドゴーレムとの戦いで練気プネウマを急激に消費したため一時的に動けなくなっていた。もし実戦経験があれば、新たな敵の存在を想定し力を温存していたはずだ。今思い返せば、それは実戦経験の少なさから来た判断ミスだったのかもしれない。

「いくら剣技を叩き込まれようと、実戦経験がなければいざという時にしくじってしまうだろう。そもそも、奥伝の位階を授かってはいるが正直自分がそれに見合った実力の持ち主だとは思っていないしね。そう考え私は、お…」

 と、そこで何かを言いかけ…一度言葉を区切った。

「…家を飛び出し、冒険者となった。私なりの武者修行という訳さ」

(そうだったのか…)

 これでアレクシアに対する疑問がいくつか解けた。だが、それならそれで初めて会った時に経歴を語っても良かったのでは…と思わないでもない。アレクシアがツヴァイク家の人間だからと言って、ジムケやドナルドが同行を拒否したとも考えられないからだ。

 ひょっとしたらアレクシアはまだ人には知られたくない何かを持っていて…それを話していないのかもしれない。ルカはそんな風に思った。
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