上 下
18 / 1,106

ルフェールへの道中11

しおりを挟む
「ん…」

 完全な暗闇の中に陥っていた意識が、徐々に形を取り戻していく。

 嗅覚…森の匂いがする。

 聴覚…パチパチという、焚き木の燃える音。

 触覚…なんだか、柔らかい膨らみに左右から挟み込まれている。いや、頭だけではない。全身が何かに包まれているようだ。

 ルカはゆっくりと瞳を開く。視界が明るい。もう朝になっているようだ。目の前には焚火。

 体を起こそうとする。が、起き上がる事ができない。

「あれ…?」

 どうやら、何者かに後ろから抱きしめられ…その上からさらに、寝袋で覆われているようだ。その事が分かり振り向いた。すると、そこには凛とした佇まいの女性の顔があった。その人物と目が合う。アレクシアだ。

「良かった。起きたんだね」

 アレクシアは微笑んだ。

「え、アレクシアさん?僕は、どうして…?」

 いつの間にか、アレクシアに抱きしめられながら焚火の前で横になっていたようだ。

「覚えているかい?君が魔術でゴーレムを撃退した事を」

「…はい」

 そこまではルカにも記憶がある。自分自身でも想定外だった高威力の魔術によってミドルマッドゴーレムを粉砕し…そして、魔力切れによって失神してしまったのだ。

「あの後、君の体温が急激に低下してね。温めるためにこうやって焚火の前で君の体を抱きしめていたという訳さ」

「そうだったんですか…」

 魔力切れを起こすと体温調節機能がうまく働かなくなると聞いた事がある。おそらく、そのせいで急激に体温が低下してしまったのだろう。

「…!そ、そういえば、ジムケさんやデボラさん…みんなは!?」

「ここにいるわ」

 そう声がして、後方にいたらしいデボラがルカ達の前まで歩いてきた。

「あたしも、他のみんなも全員無事よ。あのあと魔物モンスターが襲ってくる事もなかったわ」

「よかった…」

 はぁ…と安堵のため息を漏らす。

「坊やには助けられたわね。あんな凄い魔術が使えるなんて」

「いえ、あれはなんというか…たまたまです。それに、ほとんどの魔物モンスターを倒したのはアレクシアさんで…僕は大した事はしてませんよ」

「そうそう、てめえがいなくても何とかなってたんだ」

 そう言って姿を現したのはドナルドだ。

「今回は運良く敵を撃退できたかもしんねえが、あんまり調子に…」

 へらへらとした口調で喋るドナルド。そんな彼に、デボラが歩み寄った。

 ――パン、と乾いた音が響いた。デボラがドナルドの頬を平手で叩いたのだ。

「な、何すんだてめえ!」

「あんた!いい加減にしなさいよ!そもそもの話、あんたが夜警の最中に酒なんて飲んで居眠りしなかったらこんな事にはなんなかったのよ!」

「なっ…お、俺が悪いってのかよ…!」

「どう考えてもそうでしょ!?アレクシアちゃんとルカ君がいなかったらあたし達は全滅してた。この子はね、あんたの尻拭いしてくれたのよ。分かってる!?」

「ぐっ…」

 ドナルドがたじろいだ。

「ルカ君にきちんと謝りなさい!」

「なんで俺が…!」

「この子はね、自分を囮にして…自分の命を捨ててまで、あたし達を助けようとしてくれたのよ!?あんたにそれが出来る!?」

「お、俺だってそれくらい…」

「いいえ、断言するわ。あなたには絶対に無理よ」

 その言葉に、ドナルドの瞳が大きく見開かれた。デボラにここまでの事を言われるのは初めての経験なのかもしれない。

「もしどうしてもこの子に謝らないってなら…離婚するわ」

「なっ…な、何言ってんだよ!」

「あたしは本気よ!謝るの?謝らないの!?」

 何か言い返そうとするドナルドだったが、デボラの剣幕に気圧されてしまう。

「う…ぐ…」

 と小さく唸り、ルカとデボラ、二人の顔を交互に見比べた。

 そして何かを決心したようにルカの前まで来て…膝を折った。

「…悪かった」

 呟くように、ぽつりと言った。

「悪かっただけじゃ分からないわ。何が悪かったの!?」

 デボラが叫ぶ。

「…さ、酒を飲んで…居眠りして、商隊キャラバンを危険な目にあわせちまった」

「それだけじゃないでしょ。今までのルカくんに対する言動も謝りなさい」

「い、今までも…何かとつらく当たって…すまなかった」

「頭が高い!」

 デボラがドナルドの頭を地面に向かって押し付ける。ドナルドはそれに抵抗しようとはしなかった。地に頭を付けたまま言葉を続ける。

「本当に、すまなかったと思ってる」

 ドナルドの声は震えていた。

「…お、俺だって…本当は分かってる。お、お前がいなかったら…俺は死んでたかもしれねえ。俺だけじゃねえ、デボラもだ。…助けてくれて、本当に…感謝してる」

「気にしないでください」

 ルカは静かに答えた。ドナルドの頭からデボラの手が離される。

 しかし、しばらくの間ドナルドが頭を上げる事はなかった。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

処理中です...