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ルフェールへの道中
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しばらくして商隊は積み荷の点検を終えた。いよいよ出発となる。
商隊のメンバーは、隊長である老人を入れて四人。護衛はルカを入れて三人。計七人の編成だ。
老人の名前はジムケ・ラムケルといった。他の三人は、全員がジムケの親戚であるとの事だ。
ジムケも、商隊メンバーも人当たりのいい性格をしていた。積極的にルカに話しかけてくるという事はなかったが、必要な事は質問すれば教えてもらえた。
ルカは、出発前にジムケの雇った護衛…褐色肌の男女二人組について話を聞いた。
ルカを見下すような物言いをした男の方が、ドナルド・エルミート。男と一緒にいた女性がデボラ・エルミート。二人ともDランク冒険者だという事だ。ドナルドの方がアルトゥース流剣術の中伝、デボラの方が攻撃魔術と回復魔術の中伝だという。ルカと出会う少し前に雇った人物で、それ以外の情報についてはジムケもよく知らないとの事だった。
(両方エルミートっていう姓って事は…夫婦なのかな?)
ドナルドの方は、言動に落ち着きがない。二十代の中盤程度に見える。一方、デボラの方はちょっと年齢不詳な感じがある。化粧が濃いせいもあるが、口数も少なくどうにも年齢が掴めない。
(…まあ、あんまり人の事を詮索するのはやめよう)
ルカとしては、ドナルドが剣術の中伝、デボラが攻撃および回復魔術の中伝《レベル1》という事さえ分かっていればいい。
(二人とも、剣術、魔術で僕よりも上のランクだ。戦闘になったら、僕はサポートに徹しよう)
まだ日が中天に登り切る前、早めの昼食を取った後に商隊は出発した。
◇
街と街を繋ぐ街道を、ルカたち七人が進んでいる。街道とはいっても、石畳などのしっかりとした舗装がなされている訳ではない。ただの荒地を進むよりはマシと言った程度の道だ。
隊長のジムケのみが馬車に乗り、残りの六人は徒歩だ。現在の季節は春、天気は晴れ。移動に適した気候といえる。魔物に遭遇する事もなく、一行は順調に進んでいく。
「ふぁーあ」
ドナルドは何度もあくびをしている。退屈なのだろう。護衛として油断しすぎなのではないか…と思いつつも、ルカにはドナルドの気持ちも少しだけ分かる気がした。
この辺りでは、強力な魔物が出る事は稀だ。気が緩んでしまうのだろう。
(でも、僕らは護衛なんだし…あんまり気を抜かないようにしよう)
そう身構えるも、結局その日は大きなトラブルに遭遇する事もなく一日が過ぎた。夜は、ルカ、ドナルド、デボラの三人で交代して警戒を務めた。
続いて二日目。この日は戦闘があった。シェルバッファローが一匹、街道の端でこちらを睨みつけていたのだ。
シェルバッファローはその名の通り、全身が甲羅のように強固な外皮で覆われたバッファローだ。体長は二メートル程度。
討伐ランクはF。とはいえ、最底辺のFランクであろうとも冒険者ではない一般人が相手をすれば命を落とす危険性がある。それが魔物というものだ。
シェルバッファローの姿に最初に気が付いたのは、ルカだった。
「あれは…」
最初、街道に岩でも転がっているのかと思った。そして徐々に近付いていくにつれて、それがシェルバッファローであると気が付いた。
「むう…魔物か」
ジムケが眉をひそめる。
街道には、魔物が近寄り辛くなるよう一定間隔ごとに領域魔術が施されている。随分前に施されたものでその力は弱まっているが、それなりの効力はある。魔物が街道に入ってくるのは稀だ。とはいえ、移動していれば何度かは出くわす事になる。そのための護衛だ。
「…あたしが仕留めるわ」
デボラが口を開いた。彼女が積極的に動くのは珍しい。しかし、彼女の発言は間違っていない。
シェルバッファローの外皮は固く、Fランク魔物の中では群を抜いて物理防御力が高い。しかしその反面、移動速度が遅いという欠点を持つ。遠距離から魔術で仕留めるのがセオリーだ。中伝攻撃魔術の使い手であるデボラが相手をするのが順当だろう。
「まあ待てって」
ドナルドがデボラを押し留めた。
「ちょうど退屈してたんだ。俺が片付ける」
そう言って、前へ進み出る。デボラも特にそれを止めようとはしなかった。
シェルバッファローは近付いてくるドナルドを睨みつけた。移動速度自体は遅い魔物だが、雑食性でその顎の力は強い。噛みついて腕の骨を折るくらいの力は持っている。
そんな事はお構いなしにつかつかと歩み寄り、腰の剣を抜いたドナルド。シェルバッファローはドナルドに向かって歯をむき出しにして噛みつきにかかった。体が重いため移動速度こそ遅いシェルバッファローだが、首の動きは速い。しかしドナルドの速度はそれを上回っていた。シェルバッファローの攻撃を避けると、横に回り込み剣を上段に振りかぶる。そして全身に気合を漲らせた。
「ふっ!」
呼気と共に剣を振り下ろす。刃はシェルバッファローの固い外皮をものともせず、その体を両断した。練気を刃に乗せて振り下ろすアルトゥース流中伝剣技、『兜割り』。
「まあ、ざっとこんなもんよ」
ドナルドはシェルバッファローの血を払い、剣を鞘に納めた。
「初伝剣士如きにゃあ使えねえ技だろ?」
ルカに対し、勝ち誇ったように言うドナルド。デボラは、そんなドナルドの事を横目でじっと眺めていた。
商隊のメンバーは、隊長である老人を入れて四人。護衛はルカを入れて三人。計七人の編成だ。
老人の名前はジムケ・ラムケルといった。他の三人は、全員がジムケの親戚であるとの事だ。
ジムケも、商隊メンバーも人当たりのいい性格をしていた。積極的にルカに話しかけてくるという事はなかったが、必要な事は質問すれば教えてもらえた。
ルカは、出発前にジムケの雇った護衛…褐色肌の男女二人組について話を聞いた。
ルカを見下すような物言いをした男の方が、ドナルド・エルミート。男と一緒にいた女性がデボラ・エルミート。二人ともDランク冒険者だという事だ。ドナルドの方がアルトゥース流剣術の中伝、デボラの方が攻撃魔術と回復魔術の中伝だという。ルカと出会う少し前に雇った人物で、それ以外の情報についてはジムケもよく知らないとの事だった。
(両方エルミートっていう姓って事は…夫婦なのかな?)
ドナルドの方は、言動に落ち着きがない。二十代の中盤程度に見える。一方、デボラの方はちょっと年齢不詳な感じがある。化粧が濃いせいもあるが、口数も少なくどうにも年齢が掴めない。
(…まあ、あんまり人の事を詮索するのはやめよう)
ルカとしては、ドナルドが剣術の中伝、デボラが攻撃および回復魔術の中伝《レベル1》という事さえ分かっていればいい。
(二人とも、剣術、魔術で僕よりも上のランクだ。戦闘になったら、僕はサポートに徹しよう)
まだ日が中天に登り切る前、早めの昼食を取った後に商隊は出発した。
◇
街と街を繋ぐ街道を、ルカたち七人が進んでいる。街道とはいっても、石畳などのしっかりとした舗装がなされている訳ではない。ただの荒地を進むよりはマシと言った程度の道だ。
隊長のジムケのみが馬車に乗り、残りの六人は徒歩だ。現在の季節は春、天気は晴れ。移動に適した気候といえる。魔物に遭遇する事もなく、一行は順調に進んでいく。
「ふぁーあ」
ドナルドは何度もあくびをしている。退屈なのだろう。護衛として油断しすぎなのではないか…と思いつつも、ルカにはドナルドの気持ちも少しだけ分かる気がした。
この辺りでは、強力な魔物が出る事は稀だ。気が緩んでしまうのだろう。
(でも、僕らは護衛なんだし…あんまり気を抜かないようにしよう)
そう身構えるも、結局その日は大きなトラブルに遭遇する事もなく一日が過ぎた。夜は、ルカ、ドナルド、デボラの三人で交代して警戒を務めた。
続いて二日目。この日は戦闘があった。シェルバッファローが一匹、街道の端でこちらを睨みつけていたのだ。
シェルバッファローはその名の通り、全身が甲羅のように強固な外皮で覆われたバッファローだ。体長は二メートル程度。
討伐ランクはF。とはいえ、最底辺のFランクであろうとも冒険者ではない一般人が相手をすれば命を落とす危険性がある。それが魔物というものだ。
シェルバッファローの姿に最初に気が付いたのは、ルカだった。
「あれは…」
最初、街道に岩でも転がっているのかと思った。そして徐々に近付いていくにつれて、それがシェルバッファローであると気が付いた。
「むう…魔物か」
ジムケが眉をひそめる。
街道には、魔物が近寄り辛くなるよう一定間隔ごとに領域魔術が施されている。随分前に施されたものでその力は弱まっているが、それなりの効力はある。魔物が街道に入ってくるのは稀だ。とはいえ、移動していれば何度かは出くわす事になる。そのための護衛だ。
「…あたしが仕留めるわ」
デボラが口を開いた。彼女が積極的に動くのは珍しい。しかし、彼女の発言は間違っていない。
シェルバッファローの外皮は固く、Fランク魔物の中では群を抜いて物理防御力が高い。しかしその反面、移動速度が遅いという欠点を持つ。遠距離から魔術で仕留めるのがセオリーだ。中伝攻撃魔術の使い手であるデボラが相手をするのが順当だろう。
「まあ待てって」
ドナルドがデボラを押し留めた。
「ちょうど退屈してたんだ。俺が片付ける」
そう言って、前へ進み出る。デボラも特にそれを止めようとはしなかった。
シェルバッファローは近付いてくるドナルドを睨みつけた。移動速度自体は遅い魔物だが、雑食性でその顎の力は強い。噛みついて腕の骨を折るくらいの力は持っている。
そんな事はお構いなしにつかつかと歩み寄り、腰の剣を抜いたドナルド。シェルバッファローはドナルドに向かって歯をむき出しにして噛みつきにかかった。体が重いため移動速度こそ遅いシェルバッファローだが、首の動きは速い。しかしドナルドの速度はそれを上回っていた。シェルバッファローの攻撃を避けると、横に回り込み剣を上段に振りかぶる。そして全身に気合を漲らせた。
「ふっ!」
呼気と共に剣を振り下ろす。刃はシェルバッファローの固い外皮をものともせず、その体を両断した。練気を刃に乗せて振り下ろすアルトゥース流中伝剣技、『兜割り』。
「まあ、ざっとこんなもんよ」
ドナルドはシェルバッファローの血を払い、剣を鞘に納めた。
「初伝剣士如きにゃあ使えねえ技だろ?」
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