きっとこの世はニャンだふる♪

Ete

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想い

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告別式当日。

今日、俺は答えを出さなくてはいけない。

4日なんてあっという間だった。
俺の40年間もあっという間だった。

時間が経つのが早過ぎて、あれこれ考える余裕などなく 毎日を過ごしていたってことがよ~く分かった。

死んでからだけど。


この日、俺の告別式は 妹の考えで寺で行われることになった。
しかも音楽葬なんて、よく思いついたな。

霊柩車は黒のセンチュリー!

カッコいいじゃん?

あの煌びやかな宮式じゃなくてよかった。
あれじゃ小っ恥ずかしい。

さすが俺の妹。やるじゃないか。

俺は遺体に戻らず、その一部始終を見ておこうと思い、『魂抜け』をしておいた。
来てくれた人、葬儀の様子、家族、友達…
今日が最後だから、みんなこの眼に焼き付けておこう。

寺にはバンドの仲間が準備していた。
俺のベースギターが真ん中に置いてある。
マイクも。

俺はちょっとそこに立ってみた。

やっぱりいいなぁ。

でももう2度と、このベースを持つことは出来ない。

「アー、アー」
マイクに向かって声を出してみる。
この声も誰にも響かない。

告別式も大勢の参列者とたくさんの花に囲まれた。
俺って幸せ者だな。

出棺前に、お棺はみんなの中央に置かれ、バンドの演奏が始まった。

…泣ける…。

叶和子(かなこ)が突然走り出して、マイクの前で歌い始めた。

ああ、いい声だ。
俺はこの声にも惚れてたんだよな。

叶和子。
ありがとう。


みんなが俺の遺体の周りに、山ほどの花と、俺の好きだった三色団子をたくさん入れてくれた。
顔の周りが団子だらけって笑える。
みんなも笑っている。
いいなぁ…ほんといいなぁ…。


そこからは流れるように、さらに早く時間が過ぎた。
長い車列の到着先は火葬場。
みんなが『本当の俺』と最後の別れをする。

親より先に ここに来るとは思わなかったな。

最後のドアが開いて、お棺が入れられ、そのドアは二重に閉められた。
さよなら。
俺の身体。

情けないことに、俺はあの中でどうなっていくのかが怖くて、遺体に入ることは出来なかった。
熱いんだろうな。
抜けられて逆にありがたい。
遺体に入っていたら、一生頭に焼き付いてしまいそうだから。

「行かれなかったんですね」

優しい声で、案内人が出てきた。

「あ、あれだ。その…みんな見ておこうと思って」
怖いからなんて言えない。

「いいですよ。ご自由ですから」

俺の返事を聞きに来たわけか。
「もうちょっと待ってくれ。まだギリギリまで」

「かしこまりました。では火葬後にご自宅で。またお会いしましょう」

案内人は急かす事なく消えていった。


俺は全く考えていなかった。
どうする。
どうしたらいい?

早く考えないと。

答えが出ないまま時間が過ぎた。


次に会った俺は…白い骨になっていた。

これが俺か。

骨はあちこち脆くなって、模型のように横たわっている。

自分のこんな姿を目の当たりにしているのに、不思議と涙は出なかった。

皆んなが骨を拾っていく。

叶和子(かなこ)は、俺の骨を出来るだけ全部拾うんだと意気込んでいる。
俺のお気に入りのアロハで作った袋のような物に、骨粉まで入れていた。

ありがとうな。

骨壺は青い陶器。
これも俺の好きな色だ。
何から何まで…本当に。

感謝しかないよ…。


俺は小さな骨壺に納められ、実家へと戻った。
車についていく途中、この道もよく通ったなと思いながら。

家に着くとすぐにまた七日法事。
お経がより一層心に響く。
まるで俺の成仏の時間が迫っている事を伝えているかのようだ。

お墓に入ってしまえばそこで終わり。

さぁ!どっちを選ぶ⁉︎


答えが出せない。
焦る。

墓までの葬列が始まった。
もう時間がない!

今までの俺を思いっきり頭をフル回転させて思い返す。
もう思い残すことはないか?

眠るか転生か。

転生しても、どこの誰になるのか、幾つになるのか分からない。
一か八かの賭けにするか?

くっそーーー‼︎

あっという間に墓に着いてしまった。
めちゃくちゃ焦る!


俺の足元で 墓石の下が開けられ、いよいよ納骨の時が来た。
お坊さんが父親に、俺の骨を入れるように促している。

その時が来てしまった!


「決まりましたか?」

俺の隣に案内人が出てきた。

「どうしよう⁉︎決められないんだ!」
案内人に返事する。

俺は少々弱気になっていた。
もしかしたら案内人が、沖縄の時のように上手くやってくれそうな気がしてたかもしれない。

「これはご自分で決めてくださいね。私どもは手出し出来ません」

そうだよな…。

自分の人生は自分で決める…。
俺が親に偉そうに言ってた言葉。
今がまさにその時だ。


俺は覚悟を決め、案内人にこう告げた。



「決めた!俺は墓の中で眠る!」
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