そして兄は猫になる

Ete

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時の流れに…任せ過ぎてしまった件

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母の訴えに、町は「分かりました。伺います」と返事したらしい。
町が?猫のために?
「今までそんな話聞いたことがないけど?」母に言う。
「伺いますって言った!」母は信じて疑わない。
「いつ来るの?」
「それは知らん」
そこ大事でしょ(笑)
いつもこうなんだから。

本当かどうかはさて置いて、迎えが来るまでは構ってやるしかない。
母は「面倒なことになった」と言う割に嬉しそうだ。
毎日、いや度々か?猫に声をかけて、ご飯を食べろと誘き寄せている。

黒は相変わらず警戒心が強かったが、茶トラは徐々に母の横でご飯が食べれるようになった。
2匹は寝ている時も、遊ぶ時もいつも一緒にいた。
並んでいるとさすがに可愛い。
でも情が移る前に、何とかしたかった。

1ヶ月を過ぎても、2ヶ月を過ぎても、町の職員は来なかった。
やっぱり。そうだと思った。

近所の人はみんな高齢だから、猫の面倒など見れず貰ってくれはしない。
保健所しかないかなぁ。

母は「町は来るって言った」と何度も言いながら、そのうち猫に名前を付けていた。
茶トラは「チャチャ」黒は「クロ」
クロはまんまだな。
これってもう飼ってるじゃないか(笑)

猫たちは少しずつ倉庫から実家の庭まで遊びに来るようになった。
サッシ越しにその姿が見えて、時々 木の実を転がしたり、木に登ってみたり。
いつしか両親の癒しになっていた。
倉庫には小さな小屋まで用意され、寒くなったからと毛布まで入れてあった。

って絶対飼ってるじゃん(笑)
家に入れる事はなかったが、小さな2匹は元気よく、少しずつ大きくなっていった。

年が明けて春。
「も~町なんて絶対来ないよ~」
2匹は外飼い猫状態になっていた。
そこそこ大きくなって、母が畑に行けばついて行って、その近くで寝転んでみたり、呼べば「ニャー」と鳴いて近づくようになった。

意外だったのはクロで、オヤツを投げると立ってキャッチするという技まで習得していた。

2匹はいつも一緒。
実家の庭にある小さなテーブルに 時には座ったり 寝転んだりするのが日課になっていた。
それも同じ方向を向いていたり 同じ格好をしていたり 背中合わせだったりと 
「ほら、写真撮るなら今だよ」と誘ってるように見える。
もちろん撮らせて頂いた(笑)

テーブルの下に 左右2匹が並んで座った時は 
屋根の下で雨宿りをしているような、何とも言えない可愛らしさ。
素晴らしき被写体‼︎
びっくりして逃げないように窓越しに携帯で写真を撮った。

ただ心配だったのは近親相姦。
どうやらクロはオスで、チャチャはメスのようだ。
このまま放っておくと、子供ができてしまうかもしれない。
飼うなら避妊手術させないと、また可哀想な猫が増えてしまう。
保健所は可哀想だから、捕まえて獣医さんに連れて行くか?と夫と話をしていた。

6月を過ぎたある日のこと。
突然クロが姿を見せなくなった。
チャチャはいつものように庭で遊んでいる。
しばらくすれば出て来るだろうと、ご飯も置いて待っていたが、食べている様子もなかった。
元々捨て猫なのだから、気まぐれに何処かへ行ってしまったのか?
母は「面倒が一つなくなってよかったわ」と言いつつも、いつか帰って来てもいいように、クロ用のご飯を置き続けた。


クロが居なくなって1週間後、悲しい事が起こった。


近所の人が
「国道で猫が死んでいた。お宅に居た猫に似てる」と母に教えてくれたのだ。

父と一緒に見に行くと、チャチャが車に轢かれて死んでいた。
お腹からは小さな個体が数匹出ていた。赤ちゃんだった。
彼らも死んでいた。
やっぱり…遅かった。
一番悲しい形での別れになってしまった。

父は、段ボール箱にチャチャを入れて家に持ち帰り、庭の近くの木の下に埋めた。
母は悲しみに暮れて泣いていた。
可愛いがっていたし、何より事故と言う結果が辛すぎる。
一度に2匹 幸せがやってきて、一度に居なくなってしまった。
「だから嫌なんだ!」
兄を失った時の悲しみが、また母に押し寄せた。

野良猫だけど命。
救ってあげられなかったこと、色々後回しにしてしまったこと。
自分たちの考えの甘さが、可哀想な結果を招いてしまった。







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