そして兄は猫になる

Ete

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小さなお客様

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兄の9回目の命日を無事終えて、10年目に入った。
時が経つのは本当に早い。

3回忌までは人を呼び忙しかったが、それ以降は家族のみ。
命日だからといって特別なイベントもしなくなり、義姉と両親が一緒にご飯を食べて過ごす程度。
初めの頃は皆んな情緒不安定で、色んな揉め事もあったけど、それも時間と共に落ち着いていった。
母も畑仕事や集落の女性の集まりに参加して、徐々に日常を取り戻していた。

義姉は勤めていた会社も辞めて、家に引きこもる事が多かったが、それでも兄と続けていた音楽や、その仲間たちが彼女を支えてくれて、少しずつだが笑顔も増えていた。
兄が亡くなる前にハマっていた沖縄音楽で、色んな場所でライブをしたり、施設訪問をしたりと 自分にできることを優先し、静かな日々を送っていた。

父は…変わらない。

私はと言うと…相変わらず兄のイジメに遭っていた。

仏壇のロウソクに火をつけようとすると、着いたはずの火が消える。
もう一回着けて、線香に火をつけようとするとまた火が消える。

「ねえ、火がつかないんだけど?」
母に言うと
「お前その歳になって火もよう着けんだか?」
と普通にロウソクに火を灯す。

着くなぁ?

何でだろう?と思いながらまた線香を近づけるが また消えた。
「ほら見て!消えるんだよ」
「お前、お兄にイジメられてるんじゃないか?ハハハ」思いっきり母が笑う。

…仏になってもイジメかよ。


命日が終わって1週間後のこと。

仕事に行こうと車庫に向かうと、兄が音楽の練習に使っていた古い家の方から、変な鳴き声がした。
覗きに行くと鳴き止むが、じっとしているとまた鳴き始める。

「猫…?」
猫には程遠い変な嗄れ声。
でもやっぱり猫みたい。

空き家なので、誰かが捨てに来たのか、それとも親猫が連れて来たのか?
姿も見えないし、仕事に遅れるのでその時は放っておいた。

翌朝。
夫と2人、仕事のため車庫に行くと、またあの鳴き声がする。
しかも今度は車庫に近い。
横にある実家の物置場を覗いてみると、いた!やっぱり猫だ。
しかも2匹⁉︎

まだ両手に乗るぐらいの小さな仔猫。
1匹は茶トラ。もう1匹は黒。
どちらも顔が小さく、尻尾が異常に長い。
捨て猫だから汚れているし、顔は正直可愛いと言う感じではない。

いつも仕事前。
まるで「見つけて」と言わんばかりだ。
近づくとすぐに逃げてしまい、物陰に隠れてしまう。
捨て猫だから仕方ないが、見てしまったからには放っておけない。

母に教えると、早速様子を見に出て来る。
実家は私が幼い頃から犬や猫を飼っていた。
夫も猫を飼っていたし、今は犬が2匹いる。
いわゆるみんな可愛いもの好きである。

「来い来い」母が誘き出そうとするが、奥の方の物陰に入ってしまい、顔が見えない。
キリがないので母に任せて私たちは仕事に行った。

帰って来ると2匹が気になり倉庫を覗く。
物陰からスタタタっと逃げていく。
まだ居る!
手前の方に茶碗が2つ置いてあった。
これは母の仕業だな。

夫が帰ってくる。手にはコンビニ袋。
「えへへ、猫用ご飯買って来ちゃった」
「えへへって、飼うの⁉︎」
「飼わないけど、ほっとくのも可哀想だし、人間用のご飯あげるわけにもいかないし。ここで餓死されても嫌だしな」
おっしゃる事はごもっともです。

では早速とばかり、茶碗にお水とご飯を入れてみる。
「仔猫って、硬いキャットフード食べれるの?」
「え?知らん。仔猫でも大丈夫なの買ってきたつもりだけど」
まったく…。
可愛いもの好きの人間ときたら…。

それでも匂いに釣られて、恐る恐る2匹は出たり入ったりを繰り返す。
茶トラの方は早く食いついたが、黒はなかなか出てこない。
怖がりさんのようだ。
自由に食べれるようにそっとしておいた。

さて、これからどうするかなぁ。
実家も「可哀想だから口のあるものはもう飼いたくない」と言う。
兄のこともあったし、そりゃそうだよね。
うちも犬で精一杯。
そうなると保健所か?
嫌だなぁ。

「町に相談してみる!」
母は妙にムキになっている。

とある家が、猫をいっぱい飼っている。
避妊をしないために、次々と仔猫を産ませて放置している事実があった。
きっとそこの猫が来て産んだんだと母は思ったらしい。
「町に相談してついでに注意するように言ってやる」

そう言って母は本当に町に掛け合った。










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