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それぞれの想い
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兄は結婚しても同居はしなかった。
職場に近い方がいいからだと言っていたが、本当のところは分からない。
バンドの練習だと言えばどんなに遅くなっても実家に帰ってきていたし、連休があっても全く帰って来なかったり。
とにかく『気まぐれ』な人だった。
兄と私は仲も良くなかったし、気の合う女の姉妹が欲しかったので、義姉ができた時はとても嬉しかった。
だが気がつけば一緒にお喋りだとか買い物だとか、全くしてなかった。
近くに居ないし、休みは合わない。
帰ってきても母の機嫌とりに忙しく、必ず側に兄が居て、内緒の話も何もかも、出来ずじまいで帰っていく。
期待しただけ損した気分。
一つ有り難かった事と言えば、今の夫の事である。
兄と夫は中学時代の同級生。
社会人になってから何処かで会ったらしく、度々実家に連れて来るようになった。
その時私は高校生。
一度だけ、兄友数人と一緒にオールナイトの映画に誘われて出かけたことがある。
それがきっかけとなって夫と仲良くなり、結婚に至った。
結婚式の集合写真で、皆んなでVサインをしたのが一枚ある。
出来上がった写真を見たら、兄は1人後ろを向いて両手でVサインをしていた。
全く…普通に出来ない人だ。
面白かったからいいけど。
兄に感謝と言ったらそれぐらいかな(笑)
兄が亡くなってからと言うもの。
義姉は実家に来ても、近くに消防署があって 救急車の音が聴こえると兄のことを思い出すので居たくないと、用事が終わればすぐ帰って行った。
話をすれば涙が出て、楽しい会話など出来なかった。
帰ったのかと思えば、兄の墓に車が停まっているのが見える。
どうしたのかと行ってみると 墓の前で泣いていた。
毎回来るたびに、それを繰り返していた。
母は仏壇の兄に話しかけたり、お供えをすることで その存在がいなくなってしまった事を必死に埋めようとしていた。
お墓も常に綺麗で、せっせと通っているのが分かる。
友達か誰かがコーヒーやコーラを置いて帰って行くと
「今日来たのはきっと〇〇君だ」と嬉しそうに話す。
日々の生活も、元々兄とは別居だったので 父と2人家族に戻っただけだで何の代わりもない。
近くには私たちがいたので、困った時には相談に来ていた。
一番よく分からないのは父だった。
関心がないと言うか、父から兄を語ることはほとんどなかった。
四十九日が過ぎた頃だったと思う。
夜になって父から我が家に電話が入った。
「母さんが出て行って帰って来んのだ」
「はぁ?どこ行ったの?いつから?」私は呑気に聞き返す。
「7時ごろだったかなぁ…。どこいったかわからない」
7時って、今もう8時なんですけど⁉︎
夫と実家に向かう。
「何で出て行ったの?」
父はしどろもどろ。
どうやら兄のことで言い合いになったようだ。
「あんまり何度も名前言うから腹が立って。もう居ないんだから仕方ないが?」
父の話は自分を正当化するための言い訳にも聞こえる。
多分もっとキツいことを言ったのだろう。
でなければ、母も出ていくことまでしなかったのではないか?
もう外は真っ暗だった。
夫が懐中電灯を持って探しに行って来ると言う。
「私も!」
と、行こうとしたが「帰ってきたら教えて欲しいし、もう遅いから家で待ってて」と。
仕方なく父と待つ。
何とも気まずい空気が流れた。
「何でもっと早く教えてくれなかったの?」
責める訳ではないが、いや責めてるか。
「仕方ないがな。ほっときゃ帰って来るわ!」
父は面倒くさそうに言い返す。
じゃあ何で電話して来たんだよ⁉︎
心配だったからじゃないの⁈
全く、問題ばっか起こす!
ほんっと!嫌いだ‼︎
事故とかならなきゃいいけど…。
平静を装ってはいたが、内心、またあの時のような思いをしなくちゃいけないのではないかと、不安でいっぱいだった。
30分ぐらい経って夫が帰って来た。
家の周りや線路や国道、墓まで行ったが姿は見つからなかったらしい。
「自分たちが居ると、余計に帰り辛いかもしれないから、ちょっと家で待ってみよう」
ここは夫の言う通りにすることにした。
父にも、母が帰って来たら連絡するよう伝えて、一旦家に帰った。
家についてから、夫から衝撃的な話を聞いた。
「実はな、墓まで行ったら、墓前の砂一面に、兄の名前がいっぱい書いてあったんだ。何度も何度も…指で書いたのかな…
私は言葉が出なかった。
普段はそんな素振りは見せなかった。
最近は仕方ない 仕方ないと口癖のように言っていた。
ほんとは淋しくて 思い詰めていたのか。
息子に対する愛情と、自分より先に逝ってしまった悲しみとに挟まれて、思いが溢れちゃったのかなぁ…。
とにかく事故にだけは合わないように、変なことを考えないようにと願いながら、帰って来るのを待った。
私たちが引き上げて10分ぐらい経った頃、父から電話があり 母が帰って来たと一報が入った。
そのまま黙って自分の部屋に入ってしまったらしい。
「よかった!」心からホッとした。
翌朝、母の様子を見に行ってみる。
何事もなかったかのように、テレビを観ながら朝食を食べていた。
父を無視した姿勢で。
私は「おはよう」とだけ声をかけて、知らん顔をして仏間に行った。
これからこんな2人を私が看ていかないといけないんだよね。
親だからいいけど…でもだからって 本当はお兄夫婦が看るのがほんとであって、私たちはフォロー程度のはずだったのに。
私…やっていけるかな…
クッソォ~!
線香を立てながら
「ほんとに~!あんたのせいなんだから💢」
チン!チーン‼︎と思いっきり『りん』を叩いてやった。
※『りん』小さい鐘のこと
職場に近い方がいいからだと言っていたが、本当のところは分からない。
バンドの練習だと言えばどんなに遅くなっても実家に帰ってきていたし、連休があっても全く帰って来なかったり。
とにかく『気まぐれ』な人だった。
兄と私は仲も良くなかったし、気の合う女の姉妹が欲しかったので、義姉ができた時はとても嬉しかった。
だが気がつけば一緒にお喋りだとか買い物だとか、全くしてなかった。
近くに居ないし、休みは合わない。
帰ってきても母の機嫌とりに忙しく、必ず側に兄が居て、内緒の話も何もかも、出来ずじまいで帰っていく。
期待しただけ損した気分。
一つ有り難かった事と言えば、今の夫の事である。
兄と夫は中学時代の同級生。
社会人になってから何処かで会ったらしく、度々実家に連れて来るようになった。
その時私は高校生。
一度だけ、兄友数人と一緒にオールナイトの映画に誘われて出かけたことがある。
それがきっかけとなって夫と仲良くなり、結婚に至った。
結婚式の集合写真で、皆んなでVサインをしたのが一枚ある。
出来上がった写真を見たら、兄は1人後ろを向いて両手でVサインをしていた。
全く…普通に出来ない人だ。
面白かったからいいけど。
兄に感謝と言ったらそれぐらいかな(笑)
兄が亡くなってからと言うもの。
義姉は実家に来ても、近くに消防署があって 救急車の音が聴こえると兄のことを思い出すので居たくないと、用事が終わればすぐ帰って行った。
話をすれば涙が出て、楽しい会話など出来なかった。
帰ったのかと思えば、兄の墓に車が停まっているのが見える。
どうしたのかと行ってみると 墓の前で泣いていた。
毎回来るたびに、それを繰り返していた。
母は仏壇の兄に話しかけたり、お供えをすることで その存在がいなくなってしまった事を必死に埋めようとしていた。
お墓も常に綺麗で、せっせと通っているのが分かる。
友達か誰かがコーヒーやコーラを置いて帰って行くと
「今日来たのはきっと〇〇君だ」と嬉しそうに話す。
日々の生活も、元々兄とは別居だったので 父と2人家族に戻っただけだで何の代わりもない。
近くには私たちがいたので、困った時には相談に来ていた。
一番よく分からないのは父だった。
関心がないと言うか、父から兄を語ることはほとんどなかった。
四十九日が過ぎた頃だったと思う。
夜になって父から我が家に電話が入った。
「母さんが出て行って帰って来んのだ」
「はぁ?どこ行ったの?いつから?」私は呑気に聞き返す。
「7時ごろだったかなぁ…。どこいったかわからない」
7時って、今もう8時なんですけど⁉︎
夫と実家に向かう。
「何で出て行ったの?」
父はしどろもどろ。
どうやら兄のことで言い合いになったようだ。
「あんまり何度も名前言うから腹が立って。もう居ないんだから仕方ないが?」
父の話は自分を正当化するための言い訳にも聞こえる。
多分もっとキツいことを言ったのだろう。
でなければ、母も出ていくことまでしなかったのではないか?
もう外は真っ暗だった。
夫が懐中電灯を持って探しに行って来ると言う。
「私も!」
と、行こうとしたが「帰ってきたら教えて欲しいし、もう遅いから家で待ってて」と。
仕方なく父と待つ。
何とも気まずい空気が流れた。
「何でもっと早く教えてくれなかったの?」
責める訳ではないが、いや責めてるか。
「仕方ないがな。ほっときゃ帰って来るわ!」
父は面倒くさそうに言い返す。
じゃあ何で電話して来たんだよ⁉︎
心配だったからじゃないの⁈
全く、問題ばっか起こす!
ほんっと!嫌いだ‼︎
事故とかならなきゃいいけど…。
平静を装ってはいたが、内心、またあの時のような思いをしなくちゃいけないのではないかと、不安でいっぱいだった。
30分ぐらい経って夫が帰って来た。
家の周りや線路や国道、墓まで行ったが姿は見つからなかったらしい。
「自分たちが居ると、余計に帰り辛いかもしれないから、ちょっと家で待ってみよう」
ここは夫の言う通りにすることにした。
父にも、母が帰って来たら連絡するよう伝えて、一旦家に帰った。
家についてから、夫から衝撃的な話を聞いた。
「実はな、墓まで行ったら、墓前の砂一面に、兄の名前がいっぱい書いてあったんだ。何度も何度も…指で書いたのかな…
私は言葉が出なかった。
普段はそんな素振りは見せなかった。
最近は仕方ない 仕方ないと口癖のように言っていた。
ほんとは淋しくて 思い詰めていたのか。
息子に対する愛情と、自分より先に逝ってしまった悲しみとに挟まれて、思いが溢れちゃったのかなぁ…。
とにかく事故にだけは合わないように、変なことを考えないようにと願いながら、帰って来るのを待った。
私たちが引き上げて10分ぐらい経った頃、父から電話があり 母が帰って来たと一報が入った。
そのまま黙って自分の部屋に入ってしまったらしい。
「よかった!」心からホッとした。
翌朝、母の様子を見に行ってみる。
何事もなかったかのように、テレビを観ながら朝食を食べていた。
父を無視した姿勢で。
私は「おはよう」とだけ声をかけて、知らん顔をして仏間に行った。
これからこんな2人を私が看ていかないといけないんだよね。
親だからいいけど…でもだからって 本当はお兄夫婦が看るのがほんとであって、私たちはフォロー程度のはずだったのに。
私…やっていけるかな…
クッソォ~!
線香を立てながら
「ほんとに~!あんたのせいなんだから💢」
チン!チーン‼︎と思いっきり『りん』を叩いてやった。
※『りん』小さい鐘のこと
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