そして兄は猫になる

Ete

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お寺 de LIVE!

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告別式当日。
空は青く晴れていた。
そう言えば事故当日から今日までずっと晴れてる。
お兄 持ってんなぁ~。

義姉はほとんど何も食べてなくてふらふらだ。
いつ倒れてもおかしくない状況。
母も顔に疲労が見られる。
父は意外に元気だった。

「喪主挨拶はどうしたらいい?何を喋っていいのか分からん。お前、台本書いてごせ」

父の1番の弱点。お口が上手くないこと。
もっと早く言ってくれたらいいのに!もう時間がない‼︎
慌てて紙に書きまくる。

父と兄もあまり仲が良くなかった。
いつも喧嘩してた気がする。
父は普段兄の事をどう思ってるのだろう?全く分からない。
ええぃ!適当だ!
詰まらないようにフリガナふってメモを渡す。
上手く読めるかなぁ。

和尚さんも、私たち同様、実家→お寺→火葬場→また自宅→お墓への時間刻みのスケジュールにお付き合いいただく。
近所の方々もお見送りに集まって来られ、家の前にはあの真っ黒なセンチュリーが待機。
いい。すごくいい。
兄にお似合いだ。
ってか、この狭い道によく入ったな…

お経をあげられたあと、男性親族で兄のお棺を運ぶ。
重そうだ。

ねえ お兄
ちゃんと見てる?

この家ともお別れだよ。

ここでいっぱい喧嘩したよね。
お正月には母の作ったお節を囲んで「美味い、美味い」って食べたよね。
下にある古い家では、夜中遅くまでバンドの練習してたよね。
我が家は隣で ドンチャカうるさくて仕方なかったよ。
沢山のCDや楽器が置かれた 思い出いっぱいの家
覚えててね。

今度帰ってくる時は…
もう その目では 見ることは出来ないんだよ…。

義姉も母も涙が止まらない。
それぞれ車に分乗し、さぁお寺へ行こう!
兄の最後のステージへ!

ファアァァアアアアアアアアア~ン‼︎

長いクラクションが鳴る。
出棺の時。
みんなが手を合わせて拝んでくれた。

お寺に着くと 夫の言った通り、すごい数の花台!
反対側には花輪まで!
凄すぎる。
コリャ家では到底無理だ。

お棺は本堂に運ばれた。
告別式に参列されるたくさんの人と、バンドメンバーが待機していた。
メンバーの真ん中には 兄のためのマイクとベースギターが置いてあった。

告別式はイケメン担当に従って動く。
横にやって来ては指示してくれるので安心する。
和尚さんは2名もいらした。
これもすごいな。

中央には母がこだわった遺影が置かれた。

「斜め向いてるじゃん?やめたら?」
「これがいい。毎日観るのは私だけん」
それはアロハシャツを着て 三線を持った姿。
最近は沖縄の音楽にハマっていたらしい。
バックはもちろん海だ。

長いお経が読まれて喪主焼香へ。
続いて親族の焼香。
母や義姉が続く。
私はそれを見ながら この後の七日法事の段取りなど頭がいっぱいだった。

次 私の番だ。
席を立って遺影に向かう。

もうお兄はいないんだなぁ。
兄妹2人から 私1人になっちゃうんだ。
私1人…。
そんな事を考えながら手を合わせ…

…あれ?あれあれ?

汗?
えっ⁉︎ 涙⁉︎
涙が出て来て止まらないんですけど⁉︎

拭いても拭いても止まらない。
嗚咽が漏れそうになるのをグッと堪える。
その姿に義姉がもらい泣きを始めてしまったのが横目に見える。
どうしよう。

お兄の死から 今まで涙なんて出なかったのに。
時が止まったように、私の頭も止まってしまった。
お経は続いている。
手順 まずどうするんだったっけ?
早く拝んで移動しなければ(汗)

しばらく何度も深呼吸。
何とか無事焼香出来た。
深くため息。
すかさずイケメン担当から時間が押してるの合図。
涙を拭って、外へ出た。

参列者の前で、喪主の挨拶。
父は私が渡したメモを読み始める。

出だしは問題なかった。
だけど、
『息子は身体がえらい えらいと言いながらも…仕事を頑張って…』でいきなり話が止まる。
どうした⁉︎読めない字でもあったか?

「すみません。もうこれ以上悲しすぎて話せません。すみません。息子のために今日はありがとうございました」と泣き出してしまった。

父が泣くのを初めて見た…。

その姿がより一層深く みんなの悲しみを誘った。
何も言わないけど
父も淋しかったんだね…。

式が終わり、兄のお棺が本堂から外へ出され、参列者の中央に置かれた。
上蓋が全部取ってあり、兄の寝ている姿が見える。

『お兄さんからみんなが みんなからお兄さんが見えるように』
との、和尚さんの計らいだった。

バンド仲間が演奏を始める。
兄を前にして ここからは旅立ちのためのラストライブだ。
名前を付けるとしたら そうだなぁ?
《お寺 de    LIVE》
なんてどうだろう?

お寺でライブ!
私からの最後のプレゼントだよ。
私はお兄みたいな嫌がらせはしない。
あんたが主役‼︎
私が提案したライブだから 絶対文句は言わせないから‼︎

演奏を聴きながら 義姉が歌いたくてウズウズしているように見える。
「ほれ、一緒に歌って来な」と背中を押した。
「いいのかな」義姉は不安そうに聞いてくる。
「いいんじゃない?やっちゃえ」
義姉は小走りにバンドに合流。
さっきまで泣いてた人とは思えないほど、高らかに綺麗な声で歌い出した。
この声 お兄に届いたかな。
届いたよね。


音楽が流れる中、イケメン担当の誘導で みんなで兄を囲み、お棺に花を入れた。
たくさん たくさん 本当にたくさんの花が入れられた。
みんながそれぞれの言葉で 兄に別れを告げていた。

青タンも見えなくなるほど花でいっぱいになった。
娘が描いてくれた 兄のバイクとベースギターの絵も一緒に入れた。
本物は入れられないから、あっちで好きなほど乗って、弾いてくれたまえ。

顔のまわりに 兄が好きだった三色団子🍡が何本も放り込まれた時は、流石にみんなで笑ってしまった。
泣きながらでも 笑えてよかったな…。

その後 蓋は閉じられ、再び霊柩車へ。
出発の合図が鳴り響く。

その間ずっと演奏は続いた。
ちょっと変わった葬送曲になったけど、兄の最後のステージ。
たくさんの人たちに温かく見送られ 
そして幕を閉じた。

みんなありがとうございました。

私たちも参列者にお礼を述べて 待機中のバスや車に乗り込み、一路火葬場へと向かった。

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