そして兄は猫になる

Ete

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通夜は続くよ いつまでも

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そうだよ。何で思いつかなかったんだろう。
告別式、お寺でやればいいんだ。

広いから花台も置き放題‼︎
こんなに花が届くって事は、それだけ兄の事を思う人達が多数いるって事。
つまり、家で告別式なんてやった日には、人だかりが出来て大変になる可能性がある。
私ったら頭いい~‼︎

早速 母にその事を相談。
昔は家で全てやっていたため、他所と違う事をするのには少し抵抗はあったようだが、母も疲れのためか、寺の許可があればそうしようと納得してくれた。

母の気が変わらないうちにすぐお寺に連絡。
あっさり許可が出た。
告別式の朝、家から兄を一旦お寺へ。
終わったらそこから火葬場へ‼︎と言う段取りに。
葬儀社に連絡して場所の変更を伝え、スケジュール調整してもらう。

お寺って広いよなぁ…
広いとこで、花があって 人がいっぱいで…

…お兄の葬式って これでいいのかな?
お兄らしい葬式ってなんだろう?

…ハッ⁉︎
またまた閃いた‼︎

そうだ!
『音楽葬』にしちゃえ‼︎

バンド仲間に入ってもらって、大好きだった曲を演奏してもらおう。
お兄メインの最後のLIVE会場。
それはお寺‼︎最高じゃないか?
私って賢い‼︎
(と自画自賛)


思いつくとどんどんやっちゃう私。
お寺に無理を言って許可をもらい、場所はOK‼︎
またまた葬儀社のイケメン担当に連絡。
「すごいですね!いいと思います!」
彼も驚きながら協力しますと言ってくれた。
仕事増やして申し訳ない!
あとは義姉に伝えてバンド仲間へ連絡してもらおう!

悲しいはずが何故かワクワクしてしまった。
でも時間がない。今日はお通夜。
みんなの都合もあるから早く伝えなきゃ。

私は義姉のところに向かった。
相変わらずご飯も食べず、兄の顔を眺めている。
「あのね、葬儀のことなんだけど」
義姉に言いかけて、兄の顔を見た途端 異常に気付く。

「…何だこれは⁉︎」

右上の額に青タンがっ?
青タンが右上の額にっ⁉︎
頭の中で言葉を置き換え繰り返し確認。
しかも少し腫れている。

「何これ⁈」
義姉は黙っている。

もしかして…昨夜の酔っ払いか⁉︎
そう言えば顔の辺りでウロウロしてた!

「もしかして、昨夜の人…お兄の顔 小突いたの⁈」
恐る恐る聞いてみる。
「…うん。ごめんね。私が開けてたからいけないの。あの人は悪くない」

《いや どー見たって悪いでしょ⁉︎
せっかく傷一つない綺麗な顔だったのに?
こーんな青タン作っちゃって!
どーすんの?今日お通夜なんですけどー⁉︎》
(心の声)

ハァハァハァハァハァハァ…
心臓に悪い。

私のワクワクは一気に何処かへ行ってしまった。
まさかこんな展開が待ち受けていようとは。
さすがお兄。
普通には終わらせない奴。

チョイチョイと髪の毛で隠してみる。
隠れる訳がない。
もー仕方ない。
諦めるっきゃない!

「ごめんね、ごめんなさい」
泣きながら謝る義姉を責めても 元には戻らない。
あんの酔っ払い野郎~!許さん‼︎

私は怒りでどうにかなりそうだった。
だけど準備は止まらない。
義姉に事情を話し メンバーを集めてもらうようにお願いした。

次々とやってくる花は、全部お寺に持って行ってもらうように業者へ依頼。
案の定 すごい数だったらしい。
お寺に行った夫がその多さに感心していた。

お寺で葬儀になったので、お香典の返しは 家に100個残して、あとはお寺に持って行った。
兄のお棺の周りは立派な祭壇が出来、所狭しと花が並んだ。

身内と和尚さんが座る場所を確保したが、どう見ても足りない雰囲気。
縁側も使って、座布団は端を重ねた。

ここでまたふと思いつく。
あの花の数から考えて、人がたくさん来ると判断し 告別式は寺にした。
じゃあ通夜は?
当日来られない人とかいらっしゃるのでは…?
家…入れないよ?

なぁ~んとなく悪い予感。

イケメン担当さんは終わりまでいますと言っていたので 急いで家の外に焼香台を設置してもらうことにした。
その数3台。
まさかこんなに人は来ないだろうけど、念のため。
普通は身内だけが集まって、焼香台を回すんだけど、もしも外部の人が来たら困るし。
って事は、お香典先に持って来られる人もいるかも?
受け渡し場所がいる⁉︎

これまた万一を考えて 隣のおじさんにお願いをし、車庫を開けてもらってそこに机を準備した。
親戚に記帳と香典返しの対応をお願いした。
ここまでしてあれば大丈夫だろう。

時間はどんどん過ぎていき、夕暮れ。
通夜の時間になった。
部屋は身内であっという間にいっぱいになった。
その間を和尚さんが通られる。
良き声で読経が始まった。
私は前の方にと思ったが、不意な来客のために出入り口付近に移動。
回し焼香をしていた時のことだった。

辺りはすっかり暗くなっていた。
でも外がなんだか騒ついている。
玄関を出てみると あの小児科、内科のスタッフの皆さんが中を覗いていた。
遠路はるばる来てくださったのだ。
「大変だったね。みんなびっくりしたよ」と泣いてくれた。

その後も、仕事終わりに駆けつけてくれた私の職場の同僚たちの姿も。
みんなありがとうございます!

…と思っていたら
何やらもっと賑やかしい。

実家の上の農道から、次々と喪服に身を包んだ方達が ゾロゾロと 本当にゾロゾロと来られるではないか?

これは一体 なに事???
どうやら兄の職場の人たちのようだ。
その数 ザッと数十人は居る‼︎
そしてそれはさらに増え続けた。


国道からはクラクションの音
覗くと 路肩に車列が!
えええええええ⁉︎
こちらも線路を越えて 真っ暗な小道をゾロゾロと人の波が押し寄せて来る⁉︎

ビンゴ‼︎
受付作っといてよかった!
焼香台用意しといてよかった!
家の前には凄い人でごった返した。

代表で来られた方もいらして、人数分の返しを受付でもらっている。
ハッ!返しが足りない‼︎
お寺に持って行っちゃった!
「もらって来てやる!」
隣のおじさんがお寺まで取りに行ってくれた!
助かる!気をつけて!

焼香台には3列に人々が並んだ。
5列あってもよかったかな。
傍らには兄の写真が飾られていた。
イケメン担当さんグッジョブ‼︎

香典返しも何とか間に合った。
でも明日の告別式を考えると増やさねば!
結局700に増やした。
700も要るか~?(汗)

弔問客は入れ替わりで およそ100人近くに増えた。
この集落の人数より多い!
しかもこんな狭い場所にこんな凄い人。

国道にこんなに車が止まって大丈夫なのかな?
兄を侮っていた。
恐るべし交友関係。
告別式の事は頭にあっても、まさかお通夜でこんなことになろうとは想像できなかった。
私は中より外の対応に追われた。

家の中は通夜が無事終了。
外の焼香もひと通済んだ様子だ。

だが、なぜか誰も帰ろうとしない。
しばらく様子をみたが、やはり帰ろうとしない。
和尚さんの読経も終わったし、後はみんな帰るだけなんだけれど。

もしや遅れて来た人は通夜が終わったと知らないのかな。

とっさに思いつく。
せっかく来てくださった皆さんに兄をひと目見ていただいたらどうか。
青タンあるけど、ええい!事故だ事故!
大きな声で参列してくださった皆様に声をかける。

「今日はありがとうございました。もしよろしければ兄の顔を見てやってください。」

ほんとに凄い人の数。
みんなぞろぞろと家の中に順番に入って行かれ、兄の顔を見て義姉に挨拶をし、それからやっと帰っていかれた。
あまりにも人数が多く、6時から始まった通夜は9時ごろまで続いた。

最後は前日のバンドメンバー。
酔っ払いはすっかりお酒が抜けていて
(当たり前だけど)
あの日、自分がしでかした事を覚えていない様子。
「友人に聞きました。申し訳ありませんでした」と謝ってきた。

が、実は私も興奮のあまり相手の顔をよく覚えていなかったのと、通夜の凄さに圧倒されて
『この人だったっけ?』と記憶も曖昧だった。
あまりの忙しさに怒りも何処へやら。

「ちょうどよかった。その代わり明日の葬儀、演奏お願いしますね」と彼らに笑顔で声をかけた。
仕事でどうしても調整がきかない人もいるけれど、来れるメンバーで演奏しますと言ってくれた。
さぁ、いよいよ明日 最後のステージだ!





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