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酔っ払いお断り
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打ち合わせが終わった午後
頼んでいたお棺が届いた。
16時ごろだったかな。
来訪者が切れた頃を見計らって
身内のみで兄の湯灌が行われた。
湯灌と言ってもお風呂に入れるわけではなく
身体を綺麗に拭いて死装束に着替えさせ お棺に入れるところまで。
葬儀担当のイケメンさんに習い、みんなで次々と身体を拭いていく。
私は右脚担当。
「脚も裏の方まで綺麗に拭いて差し上げてください」
はいはい。
分かってますって。
私は脚の上側から拭き始めた。
ドライアイスのせいなのか?それとも時間が経っているからか?
兄の脚は異様なほど…まるで氷のように冷たかった。
さて 脚の裏側を…
あれ?
脚が…持ち上がらない⁉︎
重っっっ(汗)
こんなに重いものなの?
反対側の叔母は持ち上げている。
なぜ⁉︎
なぜ私は持ち上げられないの?
そんなに柔じゃない!
なんで?
ハッ⁉︎
お兄の嫌がらせか⁉︎
ワザと力入れてるんじゃないよね?
いや絶対ワザとだよね?
でないとおかしいよね⁉︎
悩んだ末に
…拭いたような事をして誤魔化してしまった…
兄よ
済まんね。許したまえ。
無事拭き終えて
いざお棺の中へ。
イケメンの言葉が頭をよぎる。
『大き過ぎると詰め物がいるし、小さ過ぎるとご遺体が入らない。丁度いいのはこれぐらい…でも入るかな…ギリギリか…』
ギリギリか?
ギリギリなのか(汗)
みんなでゆっくりお棺に入れた。
「あ、ちょっと横に。もうちょっと」
イケメン担当が指示している。
やや難航気味の様子。
最後は無理矢理押し込んでたように見えた。
ギリギリだったんだな…(笑)
草鞋とか笠とか 旅の準備品を入れて 蓋は閉められた。
義姉が泣きだす。
「合掌~!」
イケメンの美声が響きわたる。
兄は顔だけ見える状態になってしまった。
箱に入ってしまうと 存在自体が少し遠くに感じるから不思議。
呆気ないものだな。
こうしてまた一歩 葬儀への準備が進んだ。
通夜は翌日の18時から
告別式はその翌日に決まり、また明日と言ってイケメンは帰って行った。
その夜のこと。
20時ごろになって兄のバンド仲間たち数人がやって来た。
男性ばかりで、中には酒に酔っている人も居た。
「みんなで寄って話をしてたら、遅くなったけど行ってみようって事になって。すみません」
1人の精悍そうな人が言う。
どうやら兄のために 何処かで弔いの会を開いていたようだ。
普段から付き合いのある人達のようで、一人心細かった義姉も嬉しそうに見えた。
私も席を外し、リビングで休憩。
「お茶を持って行ってあげるか。ジュースがいいか?」
母が気遣う。
母も疲れていたので、代わりに私が運ぶ。
部屋に入ると
さっきの酔っ払いが何やら大声を出して兄の頭元で騒いでいた。
ジュースを出そうとすると
「酒だ酒!酒をもってこい。呑まんとやってられんわ!」と手で払おうとする。
他の人も「おいおい、やめろ」程度になだめている。
気を取り直して
「お酒はないのでこれで申し訳ないですが」と
コップを並べようとした時
「酒だって言ってんだろ!そんなもん要らん!」と宣いやがった。
プッツン‼︎
あ、やば。
私 切れちゃった。
「あのなぁ⁉︎ここをどこだと思ってんだ💢バーじゃねぇんだよ!人が死んでるんだ。酒飲む場所じゃねぇよ。飲むなら帰れ‼︎」
と思わず大声で(しかも可愛げのない言葉で)怒鳴ってしまった。
(なんて口の悪い…)
「はぁ~⁉︎偉そうにうるせえ!オメェ誰だ⁉︎」
「そこで寝てる人の妹だよ💢文句あるか⁉︎」
喧嘩勃発。
酔っ払いはとにかく嫌いだ。
時と場所を考えない。
善悪つかないほど酒に呑まれてんじゃないよ‼︎
うちはみんな タバコもお酒も飲まない 吸わないなので そう言う人は特に敬遠。
義姉がお棺の顔の部分を開けていた。
その人はまたそこに行き、兄の顔に向かって
「何で死んだんだ。起きろよ!おい!」と指で顔を触ろうとした。
私は酔っ払いの服をグイッと引っ張り
「やめて!やめろ!出てけ!」と怒鳴った。
(まるでヤ◯ザ…(泣)
「やかましい!誰だオメェ」
「さっきから妹だって言ってんじゃん!」
外に追い出してやとうと揉み合いになった。
「妹さんだよ。さっきから言ってるじゃないか。やめろよ」
初めに断りをしてくれた精悍な男性が割って入る。
どうせならもっと早く止めてよ。
「すみません。迷惑をかけました。連れて帰りますので。おい、謝れ!」
と酔っ払いの頭を手で押さえて下げさせた。
「とにかくお帰りください!」
酔っ払いは最後まで暴言を吐きながら、みんなに引きずられて車に乗せられ帰って行った。
兄の事を思って…に関しては感謝するが、流石に疲れ切ってる私には、笑って許す事など出来なかった。
余計疲れた…。
義姉も「ごめんね。悪い人じゃないんだよぉ」と謝ってくる。
「お兄の顔の蓋、人が来た時はちゃんと閉めといてね」
「うん。私が見てたからいけなかったね。そうする」
せっかくの来客に 義姉には申し訳なかったけど、ご遺体に何かあってからでは遅い。
こうしたのは正しかったと自分は思った。
そう。
翌朝 兄の顔を見るまでは。
2日目の朝が来て、今日はいよいよお通夜だ。
朝から何台も何台も何台も何台も何台も……一体何台⁉︎って言うぐらい
色んな場所からスタンド式の立花がやってきた。
朝のうちだけでザッと十数台。
実家の玄関周りはあっという間に花台だらけになった。
「うちは花屋かよ…」
「あとまだ花輪も届くんで。車の残りは何処に置きます?」
と配達の人が車を指す。
「え…?」
まだ載ってる~⁉︎
「とりあえず家の中にお願いします~」
お棺の周りは花だらけになった。
「よかったね~。すごいね~」
母が喜ぶ。
いや…いやいやいやいや 喜んでる場合じゃないよ。
マズイでしょ?
まだ届くって言ってたよね?
花輪も来るって言ってたよね?
もう置くとこ無いって‼︎
どうする⁉︎どうしたらいい?
と、考えていたら
ひらめきの神様が降りて来た‼︎
「そうだ!告別式はお寺でやっちゃえ‼︎」
頼んでいたお棺が届いた。
16時ごろだったかな。
来訪者が切れた頃を見計らって
身内のみで兄の湯灌が行われた。
湯灌と言ってもお風呂に入れるわけではなく
身体を綺麗に拭いて死装束に着替えさせ お棺に入れるところまで。
葬儀担当のイケメンさんに習い、みんなで次々と身体を拭いていく。
私は右脚担当。
「脚も裏の方まで綺麗に拭いて差し上げてください」
はいはい。
分かってますって。
私は脚の上側から拭き始めた。
ドライアイスのせいなのか?それとも時間が経っているからか?
兄の脚は異様なほど…まるで氷のように冷たかった。
さて 脚の裏側を…
あれ?
脚が…持ち上がらない⁉︎
重っっっ(汗)
こんなに重いものなの?
反対側の叔母は持ち上げている。
なぜ⁉︎
なぜ私は持ち上げられないの?
そんなに柔じゃない!
なんで?
ハッ⁉︎
お兄の嫌がらせか⁉︎
ワザと力入れてるんじゃないよね?
いや絶対ワザとだよね?
でないとおかしいよね⁉︎
悩んだ末に
…拭いたような事をして誤魔化してしまった…
兄よ
済まんね。許したまえ。
無事拭き終えて
いざお棺の中へ。
イケメンの言葉が頭をよぎる。
『大き過ぎると詰め物がいるし、小さ過ぎるとご遺体が入らない。丁度いいのはこれぐらい…でも入るかな…ギリギリか…』
ギリギリか?
ギリギリなのか(汗)
みんなでゆっくりお棺に入れた。
「あ、ちょっと横に。もうちょっと」
イケメン担当が指示している。
やや難航気味の様子。
最後は無理矢理押し込んでたように見えた。
ギリギリだったんだな…(笑)
草鞋とか笠とか 旅の準備品を入れて 蓋は閉められた。
義姉が泣きだす。
「合掌~!」
イケメンの美声が響きわたる。
兄は顔だけ見える状態になってしまった。
箱に入ってしまうと 存在自体が少し遠くに感じるから不思議。
呆気ないものだな。
こうしてまた一歩 葬儀への準備が進んだ。
通夜は翌日の18時から
告別式はその翌日に決まり、また明日と言ってイケメンは帰って行った。
その夜のこと。
20時ごろになって兄のバンド仲間たち数人がやって来た。
男性ばかりで、中には酒に酔っている人も居た。
「みんなで寄って話をしてたら、遅くなったけど行ってみようって事になって。すみません」
1人の精悍そうな人が言う。
どうやら兄のために 何処かで弔いの会を開いていたようだ。
普段から付き合いのある人達のようで、一人心細かった義姉も嬉しそうに見えた。
私も席を外し、リビングで休憩。
「お茶を持って行ってあげるか。ジュースがいいか?」
母が気遣う。
母も疲れていたので、代わりに私が運ぶ。
部屋に入ると
さっきの酔っ払いが何やら大声を出して兄の頭元で騒いでいた。
ジュースを出そうとすると
「酒だ酒!酒をもってこい。呑まんとやってられんわ!」と手で払おうとする。
他の人も「おいおい、やめろ」程度になだめている。
気を取り直して
「お酒はないのでこれで申し訳ないですが」と
コップを並べようとした時
「酒だって言ってんだろ!そんなもん要らん!」と宣いやがった。
プッツン‼︎
あ、やば。
私 切れちゃった。
「あのなぁ⁉︎ここをどこだと思ってんだ💢バーじゃねぇんだよ!人が死んでるんだ。酒飲む場所じゃねぇよ。飲むなら帰れ‼︎」
と思わず大声で(しかも可愛げのない言葉で)怒鳴ってしまった。
(なんて口の悪い…)
「はぁ~⁉︎偉そうにうるせえ!オメェ誰だ⁉︎」
「そこで寝てる人の妹だよ💢文句あるか⁉︎」
喧嘩勃発。
酔っ払いはとにかく嫌いだ。
時と場所を考えない。
善悪つかないほど酒に呑まれてんじゃないよ‼︎
うちはみんな タバコもお酒も飲まない 吸わないなので そう言う人は特に敬遠。
義姉がお棺の顔の部分を開けていた。
その人はまたそこに行き、兄の顔に向かって
「何で死んだんだ。起きろよ!おい!」と指で顔を触ろうとした。
私は酔っ払いの服をグイッと引っ張り
「やめて!やめろ!出てけ!」と怒鳴った。
(まるでヤ◯ザ…(泣)
「やかましい!誰だオメェ」
「さっきから妹だって言ってんじゃん!」
外に追い出してやとうと揉み合いになった。
「妹さんだよ。さっきから言ってるじゃないか。やめろよ」
初めに断りをしてくれた精悍な男性が割って入る。
どうせならもっと早く止めてよ。
「すみません。迷惑をかけました。連れて帰りますので。おい、謝れ!」
と酔っ払いの頭を手で押さえて下げさせた。
「とにかくお帰りください!」
酔っ払いは最後まで暴言を吐きながら、みんなに引きずられて車に乗せられ帰って行った。
兄の事を思って…に関しては感謝するが、流石に疲れ切ってる私には、笑って許す事など出来なかった。
余計疲れた…。
義姉も「ごめんね。悪い人じゃないんだよぉ」と謝ってくる。
「お兄の顔の蓋、人が来た時はちゃんと閉めといてね」
「うん。私が見てたからいけなかったね。そうする」
せっかくの来客に 義姉には申し訳なかったけど、ご遺体に何かあってからでは遅い。
こうしたのは正しかったと自分は思った。
そう。
翌朝 兄の顔を見るまでは。
2日目の朝が来て、今日はいよいよお通夜だ。
朝から何台も何台も何台も何台も何台も……一体何台⁉︎って言うぐらい
色んな場所からスタンド式の立花がやってきた。
朝のうちだけでザッと十数台。
実家の玄関周りはあっという間に花台だらけになった。
「うちは花屋かよ…」
「あとまだ花輪も届くんで。車の残りは何処に置きます?」
と配達の人が車を指す。
「え…?」
まだ載ってる~⁉︎
「とりあえず家の中にお願いします~」
お棺の周りは花だらけになった。
「よかったね~。すごいね~」
母が喜ぶ。
いや…いやいやいやいや 喜んでる場合じゃないよ。
マズイでしょ?
まだ届くって言ってたよね?
花輪も来るって言ってたよね?
もう置くとこ無いって‼︎
どうする⁉︎どうしたらいい?
と、考えていたら
ひらめきの神様が降りて来た‼︎
「そうだ!告別式はお寺でやっちゃえ‼︎」
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