雨の彼岸花

あやたろす!

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望み

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「露村。……考えは変わらぬか」


先ほどまでの爽やかな表情からは一変し、深刻な様子で相模屋は話し始める。

「あい。わっちは、わっちの力でここを……」

露村はいつもと同じ、客に対する穏やかな微笑みで応える。

「私なら明日にでも、いや、今日にでも廓など出してやれる。もちろん、二人とも」

「政之進様。それは禁忌でありんす。通人の貴方様が知らぬことではないものを」

露村の肩に手を添え、なお力強く説得するような相模屋とは裏腹に、肩に乗せられた力強さに自身の手を重ね、なだめるような露村。

「お前の気持ちはわかっているつもりだ。だからこそ、お前一人がこんな苦労をしているのは我慢ならない」

その声にも表情にも嘘はなかった。露村もそれは重々承知していた。しかし、ここでほだされていては花魁の名がすたる。

「苦労もなにも、ここのところ政様のお目にばかりかかっておりんす」

相模屋には露村を妻として迎える準備ができていた。その覚悟の手前、他の男に触れさせたくないと、この一か月は露村を昼見世、夜見世すべて独占している。それを引き合いに出し、話をかわす。

「そうだ。だから禿一人増えたところでお前を身請けできるのなら大したことはない。娘として迎え、共に育てよう」

何か月も説得した相模屋も負けてはいない。話をらすつもりはないらしい。

露村は、いつかは相模屋に身請けされたいと思っていた。しかし、今はまだその時期ではない。

「わっちは、見世が少しばかり色をつけてくれてはおりんすが他の女郎らと寝食を同じくしておんす。にと思って買い付けている簪も三百を超えんした。あと少し。あと少しでを身請けすることがきっとできんす。その時こそ、主様についていきとうござんす」

「そんなもの、私が」

「いえ」

言い終わらぬうちに、露村が首を振る。

「これがわっちの……姉の、実の姉の務めでござんす」
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