【完結】優しき世界にゼロ点を 〜Sランクヒーラーだった俺、美少女を蘇生した代償に回復能力を失いました〜

七星点灯

文字の大きさ
上 下
55 / 58
最終章 故に世界はゼロ点を望む

第五十四話 百花繚乱、最終決戦

しおりを挟む
「……朝か?」俺は窓から入ってくる朝日に目を細める。

ボヤけた脳内。昨日の出来事など覚えてないし、せいぜい変な薬を飲んだくらいだな。

資料室には誰もいない。

「カトレア先輩? ちょっと、だれに刺されたんですか?」

誰もいないと思われた資料室、俺が座っている椅子の横、カトレア先輩は血を流して倒れていた。彼女は浅い呼吸を繰り返し、腹部を抑えている。

「私は、アストに愛されてない……。だから、ここに、傷が……」

カトレア先輩から流れ出ている液体に、俺はなぜか懐かしさを感じた。液体から香ってくるのは、かつてのドラゴンと対峙した時の香りと同じもの。

「傷なら、俺に見せて下さいよ」俺は興奮を抑えて淡々と話す。

「はあっ、はあっ……」カトレア先輩は一言も発さず、そのかわり腹部に置いていた手をどける。

俺は椅子を降りて彼女に近づき、そっと傷口に手を入れ込む。

「あがっ、いだいいだい!! ゔゔゔっ!」カトレア先輩は痛みで体をよじるが、俺の手は依然として彼女の内臓を掻き回していた。

この辺りにあった筈だ。カトレアに俺の能力を渡した時、たしかこの辺に手を添えたが……。

「あったあった。これよ」俺はカトレアの内部にあったアレを掴み、一気に引き抜く。

「いががぁ!!」カトレアの絶叫は資料室に響き渡り、俺の鼓膜を艶やかに揺らす。聞き心地は最高だった。

彼女は背筋をピンと伸ばして、足先までフルフルと震えている。痛みを耐えているのだが、快楽を受け取る時と同じ体勢だった。

俺はカトレアの体内をグチャグチャと探し回り、やっと例のアレを見つけた。

これこれ、過去を塗り替える能力……。ったく、自分の物みたいに貼り付けるから、取り出す時に痛くなるんだよ。

「カトレア、これで終わりです。もう痛くしないので」

──改造・修正

彼女の腹の傷はすぐに治った。それはまるでヒールみたいに素早く、正確に彼女の傷を癒す。

「……私の過去はどうなるの?」カトレアはボソリと呟く。

「さあ? 知りませんよ、そんなこと」

彼女は『努力した過去』を自身で創り出してあの地位まで昇り詰めた。今ではそんな過去はなんて空想に過ぎず、彼女は今しか経験していない。

俺は立ち上がって窓の外を見つめる。ギラギラと輝く太陽が眩しい。

「でも、5分前から世界が始まって、水槽に浮かんでたら面白いですよね。パラレルワールドの存在は、シノミヤ・アカツキが証明しました。もしかしたら宇宙が複数あるのかも」

「……私に関係ない」

「そうでしょうか?」俺は振り向いてカトレアを見下ろす。「俺の見ている世界と、カトレアが見ている世界とでは違いが生じています」

「現に、」と言って俺は話を続ける。

「カトレアの世界では俺の能力が分からない。だけど、俺はそのことを知っている。俺とカトレアとで、二つの世界が出来上がっていますよね」

「アストは改造学の始祖。……世界は同じ」

カトレアは未だに肩で息をしており、床にへばりついている。だが俺の思想と対立していることは伝えたいようで、瞳の奥は死んでいない。

「最低限の知識をありがとうございます。だけど、カトレアの改造学と俺の改造学、ニュアンスが少しだけ違うんですよね」

「ニュアンス……」カトレアはしっくりこないらしい。俺は補足した。

「駄洒落ですよ、解像と改造。……レンズと創造」

もはや天災の時は訪れていた。俺の思想と思考は始祖に相応しいものへと至っており、俺は常に自分を捉えている。

「アスト、目覚めたんだ」カトレアはゆっくりと上半身を起こす。

「ええ。だから今から、ババアに能力を返してもらうんです。『因果応報の能力』を……」

「回収してどうするの? 世界征服?」

「そんなのつまらないですよね。……俺はただ、この世界から学問を消し去りたいんですよ」

────────

「皆んな、私のためにありがとうねぇ。それに、ユウもアマテラスもいいのかい?」

同日同刻。学園のグラウンドには、沢山の生徒と始祖が集まっていた。もちろんそのA組に属する少女も同伴している。

学園長の周りには、マリオン、エレナ、シシリー、オリヴィアの姿が。ついでにユイナやユウ、アマテラスの姿もあった。

イザベルやアカツキの姿はない。

全員が神妙な面持ちで集まっているため、普段のような軽口などは不相応である。

「今日は私の人生史上最悪な日だよ。なんせ改造学の始祖様がお目覚めになったんだからねぇ」

輪の中心、学園長は杖に体重を預けて全員を見渡す。

「さあ、戦闘開始だよ」

ガシャガシャガジヤ!!

学園長がそう言った瞬間、校舎が変形して、空には大量の刃が舞っている。

そして校舎の跡地、そこにはアスト・ユージニアが立っている。

「私の能力はアイツには通用しない。悪いけど、私は後方支援だけで戦わせてもらうよ? なぁに、お前達は好きに動いたらいいさ」

強いんだろ?と学園長は心の中でつぶやいて杖を振りかざす。

「──ライトニング!!」

ピシャアン!!

上空に黒煙が立ち昇ったかと思えば、そこから大量の落雷。全てが自動的にアストを追うようになっている。

「マリオン先輩! 私たちも攻撃するわよ!」

「わっ、分かりましたー!!」

エレナとマリオンは一足先に集団を抜けて、アストの領域へと足を踏み入れていた。彼女達は本能的にアストに対して殺人を行いたいのだ。 

「馬鹿アスト! 今日も私が犯してあげるから、さっさと元に戻りなさいよ!」

エレナは躊躇なくアストへと踏み込み、一撃を振り込む。

しかしガツンと当たったのは彼の周囲に舞っている刃。アストにはかすりもしない。

「俺はいつも通りだぜ? むしろ、元に戻ったんだよなぁ!!」

エレナが着地する周辺には、すでに刃の花弁が舞っている。下から上、竜巻を彷彿とさせる繚乱の舞がエレナを包み込んだ。

「弱いわ! こんなの紙切れ同然よ! 天下のエレナ様はこの程度の攻撃じゃあ怯みもしないわよ!」

「そうかい、おおっと!マリオン先輩も元気っすねえ!」

突如、マリオンの大鎌はアストの首を捉えかけるが寸前で回避される。その結果、大ぶりな攻撃をしていたマリオンの回避行動が遅れてしまった。

「まっ、まずい……」マリオンは周囲の刃を目視した途端、大鎌を手放す。

「──ファイア!あれら? そのな大胆なことあるかい?」アストはマリオンのいた場所にファイアを放つが、当然空振り。

ピシャン、と彼の頬に血液がかかった。

「あ? あー切れてる」アストが気がつくと右手首から先が消失。

切り口は乱雑で、ちぎり取ったようだった。

アストは視線をエレナとマリオンから外し、右手首の在処をなんとなく探した。

「おりゃあ!!」エレナの攻撃をヒラリとかわすと、空から落雷。

それは刃を一瞬で棒状に固め、避雷針を作って回避する。

──改造・工作

「おっけい、これで終わりっと……」アストは自身の手首を刃で作り出し、右手とした。刃の元となっているのは校舎であるから、この方法で無限に回復が可能である。

「ああ、オリヴィア先輩なのね、さっきの攻撃」

アストが右手首を直した途端、左手首を掴まれた。彼は今度は警戒していたため、即座に掴んだ手を振り払う。

アストの視界にオリヴィアの黄色い髪が見えたので、彼は人物を特定した。

アスト周辺のこの空間、実は少し動いただけでも刃に切り刻まれる。しかし彼女達は平然とやって来るのだった。

まぁ、行動の制限はできてるから、無意味ってわけじゃないけどね。

アストはそう考えながら、刃を自身の背後、頭上に集中して配置する。

すると彼の視界には、エレナとオリヴィアとマリオンが捉えられ、人数差を埋めることに成功していた。

パキパキパキ……

しかし背後、謎の音と共に何かが襲ってくる。幸い、漂ってくる冷気である程度の情報を得ていた。

「……邪魔」シシリーは刃をものともせずに切り掛かる。

「凍らすのは反則でしょ……」アストは瞬時にかがみ込み、シシリーの攻撃を透かす。

彼女が通ってきた後には、凍らされて粉々になった刃が大量に、ちょうど足跡のように続いていた。

「──ファイア!」

「無駄、私の氷は絶対零度、火球は消滅する」

シシリーの瞳にハイライトはない。彼女もまた、俺を本能的に殺しにきている。

「いや、火球だったらな?」俺はシシリーの懐に潜り込み、今なお空中に漂う火球を手に取る。

──改造・魔法

──黒点・壱

「あっ……」シシリーの顔から血の気が引いた。

「まずは一人目、ご苦労様です……」

黒点はシシリーの脇腹に付着。その瞬間に彼女の死は確定した。

「バーカ! 俺がいるっつうの!!」

──リフレクト・事象反転
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜

KeyBow
ファンタジー
 1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。  各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。  ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。  その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。  彼らは通称カーヴァント。  カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。  カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。  しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。  また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。  探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。  つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。  数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。  月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。  彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。  そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。  勿論二世だ。  斗枡が持っている最大の能力はカード合成。  それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。  彼はその程度の認識だった。  実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。  単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。  つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。  また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。  斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?  女子が自然と彼の取り巻きに!  彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

どうしようもないヤンキーだった俺の転生物語。回復職なのに前線でバトルしまくる俺は、いつしか暴れ僧侶と呼ばれているようです。

蒼天万吉
ファンタジー
モンスターや魔法が溢れるファンタジーな世界に転生してきたアマタは元超絶ヤンキー。 女神の使いに与えられた加護を使って人々を癒す、僧侶になったものの…… 魔法使いのルルがと共に、今日も前線で戦っているのでした。 (小説家になろうにも掲載しております。)

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

処理中です...