【完結】優しき世界にゼロ点を 〜Sランクヒーラーだった俺、美少女を蘇生した代償に回復能力を失いました〜

七星点灯

文字の大きさ
上 下
52 / 58
最終章 故に世界はゼロ点を望む

第五十一話 親しき中にも瓦解あり

しおりを挟む
「二人共、楽しくなっちゃうのは分かるけど、ここは図書室だから静かにね?」私はシーッとジェスチャーをして二人を注意する。

「すっ、すみませんイザベル先輩!」
「ティファニー、他の所行こうか……」

私が注意した途端に、彼らは図書室を出て行ってしまう。

そんなこんなで、私がいつも利用する図書室は閑散としている。

 しかし、それに反比例するかの如く湧き出す、いい感じの男女とカップル。別に憎たらしいとかは思わないけど、私の前でイチャつくのは如何なものかと。

「はぁ、私も彼氏欲しいなぁ……」私は今日も呟くのだった。

イザベル・ウィンター、彼氏いない歴イコール年齢。

学園に入学してできた女友達よりも、読んできた本の数の方が多い女。

「このままじゃ私、一生彼氏なんて……」

バーン!!

 私が悲しき妄想に浸っていたところ、背後の扉が勢いよく開いた。私が驚いて振り向くと、そこにはオリヴィアちゃんが。

「イザベルせんぱーい!! 緊急事態です!!」彼女は珍しく焦っていた。

 オリヴィアちゃんは男子を背負っていて、彼女の様子からも、彼が事態の原因と考えてよさそうかな。

「オリヴィアちゃんどうしたの?」私はオリヴィアちゃんに急いで駆け寄る。「それに、後ろの男の子って……」

 私は彼に見覚えがあった。たしかつい先日、ドラゴンと戦った際にいた男子。彼はオリヴィアちゃんの背中で、気持ちよさそうに寝息を立てている。

「この子はアスト君です! 彼、私の薬を飲んじゃって。しかも! その薬はよりにもよって無色透明!」

「無色透明?」何か、良くない薬なのだろうか。

私はオリヴィアちゃんの薬については詳しく知らない。

「詳しい説明は後です! とにかく彼を隔離してください!」

 オリヴィアちゃんは物凄い剣幕で言い放つ。私は『アスト』という名前に既視感を覚えつつも、隔離する場所を提案した。

「分かったわ。とりあえず資料室に行きましょう」私は図書室の奥を指差して言った。「私、鍵持ってくるから。オリヴィアちゃんは先に行ってて」

「はい!」

オリヴィアちゃんはいい返事をして、資料室のドアまで走っていった。

 対する私はカウンターへ。「たしか、このあたりに……あった!」私はカウンターを後にして、資料室へと急ぐ。

──キィィ

 資料室は狭くて、壁にびっしり置かれている本棚、部屋の中央に机と椅子が二脚といった構造。そして今は放課後のため、舞っている埃がオレンジ色の光に照らされてしまっている。

「ところでオリヴィアちゃん、アストくんの飲んだ薬って? 」

私は、対面の椅子に座って寝ているアストくんを見ながら質問をした。

「前、ドラゴンと戦いましたよね。その時に、アスト君も今みたいに羽が生えててましたよね?」

オリヴィアちゃんは、睡眠中のアストくんを支えている。

「ええ、覚えてるわ」

「で、私は龍の鱗で作ったわけですよ。とびきりの薬を」

「????」私はオリヴィアちゃんの話に繋がりを見出せずにいた。

「帰りのテレポートする直前、私は森に入っていきました。そこで私は、アスト君が落とした鱗を回収しました」

「えっと、もしかしてその鱗を使ったの?」

「はい!」

 オリヴィアちゃんの衝撃的な告白を聞き、私の中には雷が舞い降りる。私は恥ずかしながらも、オリヴィアちゃんに教えなければならなかった。

あまり、人様に言うようなことではないけど……。

「おっ、オリヴィアちゃん。龍の鱗はね、その、古来から……」

「媚薬に使われてたんですよねー! いやぁ、私もつい昨日知りました!」にこやかに、純粋な瞳を輝かせてオリヴィアちゃんは言った。

「そうよ、びっ、媚薬に使われてたのよ」ああ、顔から火が出そう……。

 昔からドラゴンは厄災としての側面が強かった。しかし人々は、鱗に関してだけ受け入れており、薬などによく利用していたらしい。

 嘘か誠かは分からないが、『ドラゴンは回復学の始祖である』とその本には記載されていた。

「イザベル先輩? でもそれって、官能小説の設定ですよね? 私もよく調べたんですけど、あの本以外に情報が無くて……」

「あっ、あの本だけの!?」私は耳を疑った。

 ノンフィクションと侮るなかれ、しっかりとソースは確認するように。私は密かに、心の中でメモをとる。

「どうしたんです? あれ? もしかして、本当に媚薬になると思ったんですかー?」オリヴィアちゃんは私を嘲笑するかの如くニヤニヤしている。

「そっ、そんなことは……」

「イザベル先輩って…意外とムッツリ?」

「あれはちょっと、勉強のために……」

 私は俯くことしかできない。原因は、オリヴィアちゃんの科学者とはかけ離れた言葉責め。

「あっ、イザベル先輩、アスト君が起きそうですよ?」

「えっ? 待って、まだ心の準備が──」

 アスト・ユージニア。もし、オリヴィアちゃんの薬が媚薬だったら、私達は襲われてしまうのだろうか。

 あの逞しい腕で組み伏せられ、あの大きな胸板に抱かれ。そして、私の一番大事なトコロを、私の初めてを……。

「んんっ、ふわぁー」アストくんは大きな欠伸して、背筋を伸ばす。

「…‥ゴクリ」私は片唾を飲んで見守る。

「アスト君、どう? ムラムラする?」

「ちょっと、なに聞いて……「いいんですよ、いざとなったら逃げましょう」

 私の言葉にオリヴィアちゃんは被せて言う。どうやら彼女、薬の効果が気になって仕方がないらしい。

「ええ? 突然なに聞くんすか!?」

「いいからいいから。とりあえず、体の変化を教えて?」

 彼、私が見た感じ、背中の羽以外は普通だと思う。顔色も、声色も、呼吸も平常と大差ない。

「体の変化って言っても。──アイス! ……特に何かあるわけでも」

「アスト君? 今、なに飛ばしたの?」そう言って、オリヴィアちゃんは私の方を見る「イザベル先輩、何か見えました?」

「見えてないわ、何かあったの?」

「そうならいいんですが……」

「──アイス! 別に、俺はなにもしてませんよ?」

 アストくんがそう言ったのち、この部屋が少し暗くなる。それに、なんだか肌寒いような……。

「お二人共、今日は予定とかあるんですか?」

「私は別にないよー? 強いて言うなら、アスト君の変化を記録するくらいかな?」

「私も予定はないわね」

「ならよかったです。これから、長くなりますからね……」

 アストくんはゆっくり、まるで、怖い話のオチに差し掛かる様なテンションで言う。私は寒さを感じてしまい、部屋の外に出ようとする。

そう、出ようと……。

「ねぇ、オリヴィアちゃん。イタズラは良くないよ?」私は唯一の出入り口に立って言う。

「イタズラって、なんのことですか? 私、なにもしてませんけど……」

 オリヴィアちゃんも出入り口にやってきた。くだんの扉の前、私達は絶望する。

「どう言うこと? ドアノブに触れないわよ?」

 私がドアノブに触ろうとすれば、その直前に『何か』に触れる。そう、冷たい何かに。

「イザベル先輩、氷ですよ。このドアノブに氷がついてるんですよ」

オリヴィアちゃんの震える理由は寒さから? それとも恐怖から?

「二人とも、いい声で鳴きそうですよね……」

 背後からアストくんが近づいてくる音。狭い部屋だし、追いつこうと思えばすぐに追いつける。しかし彼はゆっくりと近づく。

「──ヒート! ──ファイア! イザベル先輩! 全然溶けません!」

 オリヴィアちゃんが幾ら魔法を放っても、ドアノブの氷は一切溶けない。それならば、と私は窓に目をやる。

「ウソ……」私は絶句した。

 アストくんが近づいて来るその背後、この部屋にある窓にも氷が貼られている。正に八方塞がり、袋のファイアーバード。

「俺、襲うのは初めてなんですよ……」

ポンと私の両肩にアストくんの手。

──捕まっちゃった




「すみませーん。返却に来たんですけど……」

 斜陽注がれる放課後の図書室。女子生徒は返却のため、カウンターに本を置いた。本来ならここで、イザベル先輩が笑顔で手続きをしてくれる。

 しかしそこには誰もおらず、カウンターの上には、鍵の入った箱が放置されている。

一つだけ、資料室の鍵がない。

「そこにいるのかな?」女子生徒は資料室に歩みを進める。

──ガタッ

カウンターから音がした。女子生徒は音に反応して振り返る。

「あれ? 本がなくなってる?」

 女子生徒は不思議に思ってカウンターに戻る。するとカウンターの上には置き手紙が。

「なんだ、イザベル先輩、いたんですね」

置き手紙を読んだ女子生徒は、そのまま図書室を後にした。

──バンバン!!

資料室の扉は叩かれる。

──だれかぁ!

扉の向こうから、イザベルとオリヴィアの助けを呼ぶ声。

しかし、次第にその声も艶やかに響くようになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

どうしようもないヤンキーだった俺の転生物語。回復職なのに前線でバトルしまくる俺は、いつしか暴れ僧侶と呼ばれているようです。

蒼天万吉
ファンタジー
モンスターや魔法が溢れるファンタジーな世界に転生してきたアマタは元超絶ヤンキー。 女神の使いに与えられた加護を使って人々を癒す、僧侶になったものの…… 魔法使いのルルがと共に、今日も前線で戦っているのでした。 (小説家になろうにも掲載しております。)

【完結】魔術師リュカと孤独の器 〜優しい亡霊を連れた少女〜

平田加津実
ファンタジー
各地を流れ歩く旅芸人のリュカは、訪れた小さな町で、亜麻色の髪をした自分好みの少女アレットを見かける。彼女は中世の貴族のような身なりの若い男と、やせ細った幼女、黒猫の三体の亡霊を連れていた。慌てて彼らを除霊しようとしたリュカは、亡霊たちを「友達だ」と言い張るアレットに面食らう。リュカは、黒猫の亡霊に彼女を助けてほしいと頼まれ、なりゆきで一人暮らしの彼女の家に泊まることに。彼女らの状況をなんとかしようとするリュカは、世間知らずで天然な彼女と、個性的な亡霊たちにふりまわされて……。 「魔術師ロラと秘された記憶」の主人公たちの血を引く青年のお話ですが、前作をお読みでない方でもお楽しみいただけます。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

母娘丼W

Zu-Y
恋愛
 外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。  左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。  社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。  残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。  休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。  しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。  両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。  大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。  ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...