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最終章 故に世界はゼロ点を望む
第四十七話 暁
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「アカツキを守れって……。にいちゃんさぁ、最後までカッケェことすんなよ……」
コンビニとは反対方向、ユウは涙を流していた。周りには誰もいない、ただ彼は路地裏で泣いていた。
「アスト……」ユウは青いゴミ箱に腰掛け、兄のライターを握りしめる。
今日、アストがミルフィを殺したその瞬間、世界から防御学が消えた。記憶や記録はそのまま、再現する技術が消え去ったのだ。
「俺が、俺が記憶を守らないと……。俺が死んだら、本当に防御学が、この世界からなくなる……。そんなのやだよ……」
ユウは縋るようにライターを点火する。ユラユラと揺れる炎、それはミルフィが最後に残した物。
世界は少しだけ、優しさを失ったのかも知れない
キーンコーン、カーンコーン……
「アストさん!! お願いがあります!!」ユイナは頭を下げる。
彼女は昼休みに入るなり俺の席に直行し、何やら変な様子でお願いをしてきた。俺の目に狂いがなければ、面倒ごとだろう。
「……なんかあった?」俺は出来る限り『乗り気じゃないですよ』感を出す。
俺は机に肘をつき、申し訳なさそうなユイナを見守った。
「その、部室にハンカチを忘れちゃって、アストさんと取りに行きたいなーって。どうですか、行きませんか?」
「ふーん……」俺はユイナが言わんとすることを察する。
彼女は両手を後ろにしており、モジモジと何かを言いたげな様子。しかし腰の辺りか見え隠れする弁当箱は、ユイナの本心を代弁していた。
「俺と弁当食べたいの?」頬杖をついて、俺は少しニヤリと笑う。
「なあっ、なんでそんな事になるんですか」ユイナは俺に近づき慌てて呟く。
「別に恥ずかしいことでもあるまいし……。まぁ、ハンカチ、取りに行こうな?」俺は椅子から立ち上がり、鞄から弁当を出す。
ちなみに、これはエレナの手作り弁当。そんじゃそこらの弁当とは重みが違う。しかも全部食べないと一日中犯されるというオプション付き。
「……日に日に増えてるよなぁ」俺は小さく呟いた。
──キュルリ
やはり老朽化の異常に進んだ扉。新品同然のこの学園からも見捨てられたという、この部活の廃れ具合を再認識する。
「けほっ……ちょっと埃っぽいですけど、窓を開けたら大丈夫です。さあさあ、アストさんも入ってください」
「こほっ……まぁ静かだし、たまにはこういうランチもいいかもな」
俺は部室の中央、そこの机に弁当を置く。ユイナは部屋の奥に鞄を置き、ついでに窓を開ける。その後は俺の隣に座って、持参した弁当を置くといった流れ。
「アストさんは、私に隠し事をしてます」しかし彼女は箸を持たない。
ユイナは俺の方に体を寄せ、肩を密着させる。スン、スンと彼女は鼻を鳴らし、まるで犬みたいに俺に抱きついてくる。
「……」ユイナは俺の匂いを嗅ぎ、何かを探しているようだった。
「ユイナ?」
「……ここ、ですね」彼女は俺の左胸を指差す。
「なに? 俺の体がどうかしたの?」俺はユイナを受け止めておくことしか出来ず、ずっとモヤモヤとした時間を過ごす。
「……アストさんの体から、違う女の魔力を感じます。……ねぇ、どうして? ……まさか、他の女に変なことされてないよね?」
ユイナの感情の篭っていない声に、俺の胃はキリキリと痛む。……思い当たる節しかない。
「俺に女の子? 何もないから弁当食べよ?」
「……なんで嘘つくの?」ユイナの瞳は大きく開き俺を飲み込む。
「嘘じゃないって、その、それはユイナの魔力だと思うよ?」
「……」ユイナの抱きつく力は、次第に常軌を逸したものへと変貌してゆく。
少しずつ、少しずつ締め殺される様な感覚は、エレナに抱かれているものと同等の恐怖だった。
「人って、嘘をつく時に魔力が濁るの。女の魔力は汚いし、アストは今、私以外の女のことを考えてた。ふふっ……全部分かるんだ」
「……ユイナさん、痛いです」
「私の心も痛いよ? アストよりずっと、ずーっと痛いよ?」
ユイナはそう呟くと、がっしりと俺の両腕を掴む。跡が残るくらいの力、それほどまでに彼女は怒っていた。
「アストは理解してない。私の気持ちと、アストの気持ちを知らないふりしてる。……アストは私が好きなんだ」ユイナは虚な目で言葉をこぼす。
「違う、俺が好きなのはアカツキ先輩だ」
「……ふーん? アカツキって、この女?」
ユイナは天井を指差す。
俺は恐る恐る、ゆっくり、じわりじわりと天井を見た。
──そこには
「え? 違いますけど……」まぁ、確かに人ではあった。
コンビニとは反対方向、ユウは涙を流していた。周りには誰もいない、ただ彼は路地裏で泣いていた。
「アスト……」ユウは青いゴミ箱に腰掛け、兄のライターを握りしめる。
今日、アストがミルフィを殺したその瞬間、世界から防御学が消えた。記憶や記録はそのまま、再現する技術が消え去ったのだ。
「俺が、俺が記憶を守らないと……。俺が死んだら、本当に防御学が、この世界からなくなる……。そんなのやだよ……」
ユウは縋るようにライターを点火する。ユラユラと揺れる炎、それはミルフィが最後に残した物。
世界は少しだけ、優しさを失ったのかも知れない
キーンコーン、カーンコーン……
「アストさん!! お願いがあります!!」ユイナは頭を下げる。
彼女は昼休みに入るなり俺の席に直行し、何やら変な様子でお願いをしてきた。俺の目に狂いがなければ、面倒ごとだろう。
「……なんかあった?」俺は出来る限り『乗り気じゃないですよ』感を出す。
俺は机に肘をつき、申し訳なさそうなユイナを見守った。
「その、部室にハンカチを忘れちゃって、アストさんと取りに行きたいなーって。どうですか、行きませんか?」
「ふーん……」俺はユイナが言わんとすることを察する。
彼女は両手を後ろにしており、モジモジと何かを言いたげな様子。しかし腰の辺りか見え隠れする弁当箱は、ユイナの本心を代弁していた。
「俺と弁当食べたいの?」頬杖をついて、俺は少しニヤリと笑う。
「なあっ、なんでそんな事になるんですか」ユイナは俺に近づき慌てて呟く。
「別に恥ずかしいことでもあるまいし……。まぁ、ハンカチ、取りに行こうな?」俺は椅子から立ち上がり、鞄から弁当を出す。
ちなみに、これはエレナの手作り弁当。そんじゃそこらの弁当とは重みが違う。しかも全部食べないと一日中犯されるというオプション付き。
「……日に日に増えてるよなぁ」俺は小さく呟いた。
──キュルリ
やはり老朽化の異常に進んだ扉。新品同然のこの学園からも見捨てられたという、この部活の廃れ具合を再認識する。
「けほっ……ちょっと埃っぽいですけど、窓を開けたら大丈夫です。さあさあ、アストさんも入ってください」
「こほっ……まぁ静かだし、たまにはこういうランチもいいかもな」
俺は部室の中央、そこの机に弁当を置く。ユイナは部屋の奥に鞄を置き、ついでに窓を開ける。その後は俺の隣に座って、持参した弁当を置くといった流れ。
「アストさんは、私に隠し事をしてます」しかし彼女は箸を持たない。
ユイナは俺の方に体を寄せ、肩を密着させる。スン、スンと彼女は鼻を鳴らし、まるで犬みたいに俺に抱きついてくる。
「……」ユイナは俺の匂いを嗅ぎ、何かを探しているようだった。
「ユイナ?」
「……ここ、ですね」彼女は俺の左胸を指差す。
「なに? 俺の体がどうかしたの?」俺はユイナを受け止めておくことしか出来ず、ずっとモヤモヤとした時間を過ごす。
「……アストさんの体から、違う女の魔力を感じます。……ねぇ、どうして? ……まさか、他の女に変なことされてないよね?」
ユイナの感情の篭っていない声に、俺の胃はキリキリと痛む。……思い当たる節しかない。
「俺に女の子? 何もないから弁当食べよ?」
「……なんで嘘つくの?」ユイナの瞳は大きく開き俺を飲み込む。
「嘘じゃないって、その、それはユイナの魔力だと思うよ?」
「……」ユイナの抱きつく力は、次第に常軌を逸したものへと変貌してゆく。
少しずつ、少しずつ締め殺される様な感覚は、エレナに抱かれているものと同等の恐怖だった。
「人って、嘘をつく時に魔力が濁るの。女の魔力は汚いし、アストは今、私以外の女のことを考えてた。ふふっ……全部分かるんだ」
「……ユイナさん、痛いです」
「私の心も痛いよ? アストよりずっと、ずーっと痛いよ?」
ユイナはそう呟くと、がっしりと俺の両腕を掴む。跡が残るくらいの力、それほどまでに彼女は怒っていた。
「アストは理解してない。私の気持ちと、アストの気持ちを知らないふりしてる。……アストは私が好きなんだ」ユイナは虚な目で言葉をこぼす。
「違う、俺が好きなのはアカツキ先輩だ」
「……ふーん? アカツキって、この女?」
ユイナは天井を指差す。
俺は恐る恐る、ゆっくり、じわりじわりと天井を見た。
──そこには
「え? 違いますけど……」まぁ、確かに人ではあった。
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