【完結】優しき世界にゼロ点を 〜Sランクヒーラーだった俺、美少女を蘇生した代償に回復能力を失いました〜

七星点灯

文字の大きさ
上 下
48 / 58
最終章 故に世界はゼロ点を望む

第四十七話 暁

しおりを挟む
「アカツキを守れって……。にいちゃんさぁ、最後までカッケェことすんなよ……」

 コンビニとは反対方向、ユウは涙を流していた。周りには誰もいない、ただ彼は路地裏で泣いていた。

「アスト……」ユウは青いゴミ箱に腰掛け、兄のライターを握りしめる。

 今日、アストがミルフィを殺したその瞬間、世界から防御学が消えた。記憶や記録はそのまま、再現する技術が消え去ったのだ。

「俺が、俺が記憶を守らないと……。俺が死んだら、本当に防御学が、この世界からなくなる……。そんなのやだよ……」

 ユウは縋るようにライターを点火する。ユラユラと揺れる炎、それはミルフィが最後に残した物。

世界は少しだけ、優しさを失ったのかも知れない




キーンコーン、カーンコーン……

「アストさん!! お願いがあります!!」ユイナは頭を下げる。

 彼女は昼休みに入るなり俺の席に直行し、何やら変な様子でお願いをしてきた。俺の目に狂いがなければ、面倒ごとだろう。

「……なんかあった?」俺は出来る限り『乗り気じゃないですよ』感を出す。

俺は机に肘をつき、申し訳なさそうなユイナを見守った。

「その、部室にハンカチを忘れちゃって、アストさんと取りに行きたいなーって。どうですか、行きませんか?」

「ふーん……」俺はユイナが言わんとすることを察する。

 彼女は両手を後ろにしており、モジモジと何かを言いたげな様子。しかし腰の辺りか見え隠れする弁当箱は、ユイナの本心を代弁していた。

「俺と弁当食べたいの?」頬杖をついて、俺は少しニヤリと笑う。

「なあっ、なんでそんな事になるんですか」ユイナは俺に近づき慌てて呟く。

「別に恥ずかしいことでもあるまいし……。まぁ、ハンカチ、取りに行こうな?」俺は椅子から立ち上がり、鞄から弁当を出す。

 ちなみに、これはエレナの手作り弁当。そんじゃそこらの弁当とは重みが違う。しかも全部食べないと一日中犯されるというオプション付き。

「……日に日に増えてるよなぁ」俺は小さく呟いた。




──キュルリ

 やはり老朽化の異常に進んだ扉。新品同然のこの学園からも見捨てられたという、この部活の廃れ具合を再認識する。

「けほっ……ちょっと埃っぽいですけど、窓を開けたら大丈夫です。さあさあ、アストさんも入ってください」

「こほっ……まぁ静かだし、たまにはこういうランチもいいかもな」

 俺は部室の中央、そこの机に弁当を置く。ユイナは部屋の奥に鞄を置き、ついでに窓を開ける。その後は俺の隣に座って、持参した弁当を置くといった流れ。

「アストさんは、私に隠し事をしてます」しかし彼女は箸を持たない。

 ユイナは俺の方に体を寄せ、肩を密着させる。スン、スンと彼女は鼻を鳴らし、まるで犬みたいに俺に抱きついてくる。

「……」ユイナは俺の匂いを嗅ぎ、何かを探しているようだった。

「ユイナ?」

「……ここ、ですね」彼女は俺の左胸を指差す。

「なに? 俺の体がどうかしたの?」俺はユイナを受け止めておくことしか出来ず、ずっとモヤモヤとした時間を過ごす。

「……アストさんの体から、違う女の魔力を感じます。……ねぇ、どうして? ……まさか、他の女に変なことされてないよね?」

 ユイナの感情の篭っていない声に、俺の胃はキリキリと痛む。……思い当たる節しかない。

「俺に女の子? 何もないから弁当食べよ?」

「……なんで嘘つくの?」ユイナの瞳は大きく開き俺を飲み込む。

「嘘じゃないって、その、それはユイナの魔力だと思うよ?」

「……」ユイナの抱きつく力は、次第に常軌を逸したものへと変貌してゆく。

 少しずつ、少しずつ締め殺される様な感覚は、エレナに抱かれているものと同等の恐怖だった。

「人って、嘘をつく時に魔力が濁るの。女の魔力は汚いし、アストは今、私以外の女のことを考えてた。ふふっ……全部分かるんだ」

「……ユイナさん、痛いです」

「私の心も痛いよ? アストよりずっと、ずーっと痛いよ?」

 ユイナはそう呟くと、がっしりと俺の両腕を掴む。跡が残るくらいの力、それほどまでに彼女は怒っていた。

「アストは理解してない。私の気持ちと、アストの気持ちを知らないふりしてる。……アストは私が好きなんだ」ユイナは虚な目で言葉をこぼす。

「違う、俺が好きなのはアカツキ先輩だ」

「……ふーん? アカツキって、この女?」

ユイナは天井を指差す。

俺は恐る恐る、ゆっくり、じわりじわりと天井を見た。

──そこには



「え? 違いますけど……」まぁ、確かに人ではあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

どうしようもないヤンキーだった俺の転生物語。回復職なのに前線でバトルしまくる俺は、いつしか暴れ僧侶と呼ばれているようです。

蒼天万吉
ファンタジー
モンスターや魔法が溢れるファンタジーな世界に転生してきたアマタは元超絶ヤンキー。 女神の使いに与えられた加護を使って人々を癒す、僧侶になったものの…… 魔法使いのルルがと共に、今日も前線で戦っているのでした。 (小説家になろうにも掲載しております。)

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

母娘丼W

Zu-Y
恋愛
 外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。  左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。  社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。  残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。  休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。  しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。  両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。  大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。  ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...