44 / 58
最終章 故に世界はゼロ点を望む
第四十三話 ゲシュタルト崩壊
しおりを挟む──時間軸で言えば、現在より少し前の話。
いつかの山、二人の男とドラゴンが天と地を境に向かい合っている。
ガルルゥ!
「どう、どう……」背の高い男は、懐からタバコを取り出して火をつける。
「畜生風情が、デカい口叩くんじゃねぇよ!」背の低い男はご立腹のようだ。
失礼、背の低い男と言うよりかはもう少し、正しい表現がある。彼に限って『青年』と訂正させていただこう。
空中舞うドラゴン、その名は天照大神。
かつて、カトレア・アズラエル率いるSランクパーティを壊滅にまで落とし込んだ厄災。
もう一つ、当時クソガキだったあのアスト・ユージニアにトラウマを植え付けた張本龍(張本人)である。
「にいちゃん! アイツ、殺しちゃっていいよね!?」
「ダメだ、今は半殺しだ。絶対に殺すんじゃねえぞ」
この物騒な話し合いをしている兄弟について一言。彼らもまた、天照大神と同じ立場……もっと言うと、彼らこそが防御学の始祖である。
男の名は『ミルフィ』、青年の名は『ユウ』。この世に生まれたのは天照と同時期。今時の神は見た目にも気を使うのだ。彼らはスーツに全身を包み、ミルフィに至っては、サラリーマンと言われても遜色ない風貌だ。
ガルルゥ!(お前達、私の邪魔はやめてくれ)
「うわっ! 脳にくる、脳にくる! 気持ちわりぃ声が直接聞こえるよ!」
青年は耳を押さえてゴロゴロと地面を転がる。駄々をこねる子供の典型例。
「……ユウ、ウルセェのはお前だ馬鹿。その茶番、いちいちコイツと会う度にしなくていい」
ミルフィは再度タバコに火をつける。彼の足元には吸い殻が無数に転がっており、またポトリと落とされる。どうやらミルフィはタバコを一息で吸っているようだ。
ガルルゥ(邪魔はせんどくれ。私はアストを取り返さねばならんのだ)
バサリ、バサリと空中で優雅に飛んでいるように見えるアマテラスだが、内心はかなり焦っていた。
「うん、やだ!」ユウは清々しいほどの拒否。笑顔満点ながらにして狂気的だ。
「まぁ、コイツの言う通りだ……。わりぃが、俺たち防御学も結構ヤバいんでね……」ミルフィは新しいタバコに火をつける。
ガルルゥゥ!!
(二百年だ、二百年でいい。アストの件を終わらせるまでとは言わん、少し時間をくれないか?)
「却下! 却下ー! お前には、そう言って三百年くらいチョロまかした過去がありまーす!」
ユウはこの見た目にして人類の歴史よりも長く生きている。彼らは死ぬ要因がないため当然のキャリアだ。
「アンタ、随分と必死だ。アストをそんなに愛してるのか?」
カルル(……言わせるな、恥ずかしい)
「あははっ!! アストのことメッチャ好きじゃん! なんで!? どこが決め手なの!?」ユウは性格上、こうなったら話すまで止まらない。
アマテラスも長年の知り合いの習性なんて熟知している。やれやれといった様子でボッと火を吐き力説する。
ガルルルゥゥ!! ガルガルゥゥ!! ガルルル……ガルゥ!
数秒、数十秒、数分間……。アマテラスの力説は止まらない。どれくらい止まらなかったのかと言うと、 ミルフィの足元を見れば一発だ。
「ふぅうーっ。あれ? 無くなっちまった」
タバコの吸い殻に紛れて、箱が一つ二つ……。ミルフィが今日のために持参していたタバコは一本たりとも吸われ尽くしていた。
「ちょっとちょっと、そんなに好きなの歴代初じゃん! ヒューヒュー、いっそ付き合っちゃえよ!」
ユウは最後まで聞き入ったのち、やはり典型的な方法で囃し立てる。どこまで行っても神臭さが抜けない神様である。
ガルルゥ?(つき、あう? 何だその儀式は?)
いつの間にか、アマテラスは地面に座っていた。翼を悠々と広げて、戦闘体制ではなく、少々リラックスしている。
逆に、現代に染まっていないというのも考えものだ。この世を統べる以上、俗世に多少なりとも目を向けることも神としての立ち振る舞いだと。
「だからぁ、付き合うっていうのは、えーっと、にいちゃん教えて!」
「……番いになる」ミルフィは興味のない話に不機嫌だった。
「そうそれ! アストと繋がっちゃえってこと!」
カルル?(私が? この姿でってなると、まず誤解を解かなくては……)
「違う違う! 人間の姿になっちゃえばいいんだよ! ほら、アストの気に入りそうな姿で誘惑してさ!」
ガルルゥ!? ガルガルゥゥ!!
(人間!? わっ、私はなったことないぞ、大丈夫なのか?)
ユウはその言葉を聞いて少し黙り込んだ。「うーん」と頭を抱えて、何かについて検証している。そしてたっぷり十秒ほど時間を設けた後、パァッと目を輝かせてこう言い放つ。
「むしろチャンスだって!」と語り始める。
「初めてってことはまだ人間の姿に固定されたヤツがないってことでしょ? そしたらむしろ、『アスト好みの姿』に簡単になれるってことなんだよ!」
アマテラスは首を傾げた。ドラゴンの姿で約何万年、人間になるという思考には微塵も至らなかったため、そういう事情には疎い。しかし目の前の友人がそう言うのだ、きっと正しいこと。
カルルル(じゃっ、じゃあ私はアストと番いに成れるのか? 愛してもらえるのか?)
「愛してもらえるかはアマテラス次第だけど、可能性はあるよ」
ユウは背筋を伸ばすストレッチをしながら答える。その姿がアマテラスには人間らしく映り、初めてユウを羨ましく思う。
ガルルゥ!!(よし、それでは教えてくれ! 人間になる方法とやらを!)
「よっしゃあ! アマテラスちゃんの恋を叶えてあげよう!」
ユウは胸の辺りでガッツポーズをつくり上に振り上げる。
──俺は現在、エレナとマリオン先輩の二人と登校中。
エレナに付けられた首輪に違和感を感じつつも俺は校舎を目指す。教室に入ったら何を言われるかダービーも煮詰まった頃、つまり学校まであと少しというところ。
ドンッ
「オイオイ! にいちゃん、どこ見てあるいてんのー!?」
俺はぶつかったスーツ姿の男に絡まれる。背は低い、俺より低い。ソイツは俺を下からグラサン越しに睨みつける。
「イッテー! これは慰謝料だわ! 慰謝料!」
そう男がゴネていると、エレナの右パンチが炸裂。男は数メートル先まで吹っ飛ぶ。
「はい、もう終わり。アスト行くわよー!」
エレナはそう言って俺の手を握る。
──戦いの歯車の存在に、俺達はまだ気づいていない
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
どうしようもないヤンキーだった俺の転生物語。回復職なのに前線でバトルしまくる俺は、いつしか暴れ僧侶と呼ばれているようです。
蒼天万吉
ファンタジー
モンスターや魔法が溢れるファンタジーな世界に転生してきたアマタは元超絶ヤンキー。
女神の使いに与えられた加護を使って人々を癒す、僧侶になったものの……
魔法使いのルルがと共に、今日も前線で戦っているのでした。
(小説家になろうにも掲載しております。)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
母娘丼W
Zu-Y
恋愛
外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。
左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。
社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。
残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。
休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。
しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。
両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。
大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。
ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる