【完結】優しき世界にゼロ点を 〜Sランクヒーラーだった俺、美少女を蘇生した代償に回復能力を失いました〜

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最終章 故に世界はゼロ点を望む

第四十三話 ゲシュタルト崩壊

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──時間軸で言えば、現在より少し前の話。

いつかの山、二人の男とドラゴンが天と地を境に向かい合っている。

ガルルゥ!

「どう、どう……」背の高い男は、懐からタバコを取り出して火をつける。

「畜生風情が、デカい口叩くんじゃねぇよ!」背の低い男はご立腹のようだ。

 失礼、背の低い男と言うよりかはもう少し、正しい表現がある。彼に限って『青年』と訂正させていただこう。

空中舞うドラゴン、その名は天照大神。

 かつて、カトレア・アズラエル率いるSランクパーティを壊滅にまで落とし込んだ厄災。
 もう一つ、当時クソガキだったあのアスト・ユージニアにトラウマを植え付けた張本龍(張本人)である。

「にいちゃん! アイツ、殺しちゃっていいよね!?」

「ダメだ、今は半殺しだ。絶対に殺すんじゃねえぞ」

 この物騒な話し合いをしている兄弟について一言。彼らもまた、天照大神と同じ立場……もっと言うと、彼らこそが防御学の始祖である。

 男の名は『ミルフィ』、青年の名は『ユウ』。この世に生まれたのは天照と同時期。今時の神は見た目にも気を使うのだ。彼らはスーツに全身を包み、ミルフィに至っては、サラリーマンと言われても遜色ない風貌だ。

ガルルゥ!(お前達、私の邪魔はやめてくれ)

「うわっ! 脳にくる、脳にくる! 気持ちわりぃ声が直接聞こえるよ!」

 青年は耳を押さえてゴロゴロと地面を転がる。駄々をこねる子供の典型例。

「……ユウ、ウルセェのはお前だ馬鹿。その茶番、いちいちコイツと会う度にしなくていい」

 ミルフィは再度タバコに火をつける。彼の足元には吸い殻が無数に転がっており、またポトリと落とされる。どうやらミルフィはタバコを一息で吸っているようだ。

ガルルゥ(邪魔はせんどくれ。私はアストを取り返さねばならんのだ)

 バサリ、バサリと空中で優雅に飛んでいるように見えるアマテラスだが、内心はかなり焦っていた。

「うん、やだ!」ユウは清々しいほどの拒否。笑顔満点ながらにして狂気的だ。

「まぁ、コイツの言う通りだ……。わりぃが、俺たち防御学も結構ヤバいんでね……」ミルフィは新しいタバコに火をつける。

ガルルゥゥ!!

(二百年だ、二百年でいい。アストの件を終わらせるまでとは言わん、少し時間をくれないか?)

「却下! 却下ー! お前には、そう言って三百年くらいチョロまかした過去がありまーす!」

 ユウはこの見た目にして人類の歴史よりも長く生きている。彼らは死ぬ要因がないため当然のキャリアだ。

「アンタ、随分と必死だ。アストをそんなに愛してるのか?」

カルル(……言わせるな、恥ずかしい)

「あははっ!! アストのことメッチャ好きじゃん! なんで!? どこが決め手なの!?」ユウは性格上、こうなったら話すまで止まらない。

 アマテラスも長年の知り合いの習性なんて熟知している。やれやれといった様子でボッと火を吐き力説する。

ガルルルゥゥ!! ガルガルゥゥ!! ガルルル……ガルゥ! 

 数秒、数十秒、数分間……。アマテラスの力説は止まらない。どれくらい止まらなかったのかと言うと、 ミルフィの足元を見れば一発だ。

「ふぅうーっ。あれ? 無くなっちまった」

 タバコの吸い殻に紛れて、箱が一つ二つ……。ミルフィが今日のために持参していたタバコは一本たりとも吸われ尽くしていた。

「ちょっとちょっと、そんなに好きなの歴代初じゃん! ヒューヒュー、いっそ付き合っちゃえよ!」

 ユウは最後まで聞き入ったのち、やはり典型的な方法で囃し立てる。どこまで行っても神臭さが抜けない神様である。

ガルルゥ?(つき、あう? 何だその儀式は?)

 いつの間にか、アマテラスは地面に座っていた。翼を悠々と広げて、戦闘体制ではなく、少々リラックスしている。

 逆に、現代に染まっていないというのも考えものだ。この世を統べる以上、俗世に多少なりとも目を向けることも神としての立ち振る舞いだと。

「だからぁ、付き合うっていうのは、えーっと、にいちゃん教えて!」

「……番いになる」ミルフィは興味のない話に不機嫌だった。

「そうそれ! アストと繋がっちゃえってこと!」

カルル?(私が? この姿でってなると、まず誤解を解かなくては……)

「違う違う! 人間の姿になっちゃえばいいんだよ! ほら、アストの気に入りそうな姿で誘惑してさ!」

ガルルゥ!? ガルガルゥゥ!!

(人間!? わっ、私はなったことないぞ、大丈夫なのか?)

 ユウはその言葉を聞いて少し黙り込んだ。「うーん」と頭を抱えて、何かについて検証している。そしてたっぷり十秒ほど時間を設けた後、パァッと目を輝かせてこう言い放つ。

「むしろチャンスだって!」と語り始める。

「初めてってことはまだ人間の姿に固定されたヤツがないってことでしょ? そしたらむしろ、『アスト好みの姿』に簡単になれるってことなんだよ!」

 アマテラスは首を傾げた。ドラゴンの姿で約何万年、人間になるという思考には微塵も至らなかったため、そういう事情には疎い。しかし目の前の友人がそう言うのだ、きっと正しいこと。

カルルル(じゃっ、じゃあ私はアストと番いに成れるのか? 愛してもらえるのか?)

「愛してもらえるかはアマテラス次第だけど、可能性はあるよ」

 ユウは背筋を伸ばすストレッチをしながら答える。その姿がアマテラスには人間らしく映り、初めてユウを羨ましく思う。

ガルルゥ!!(よし、それでは教えてくれ! 人間になる方法とやらを!)

「よっしゃあ! アマテラスちゃんの恋を叶えてあげよう!」

ユウは胸の辺りでガッツポーズをつくり上に振り上げる。



──俺は現在、エレナとマリオン先輩の二人と登校中。

 エレナに付けられた首輪に違和感を感じつつも俺は校舎を目指す。教室に入ったら何を言われるかダービーも煮詰まった頃、つまり学校まであと少しというところ。

ドンッ

「オイオイ! にいちゃん、どこ見てあるいてんのー!?」

 俺はぶつかったスーツ姿の男に絡まれる。背は低い、俺より低い。ソイツは俺を下からグラサン越しに睨みつける。

「イッテー! これは慰謝料だわ! 慰謝料!」

 そう男がゴネていると、エレナの右パンチが炸裂。男は数メートル先まで吹っ飛ぶ。

「はい、もう終わり。アスト行くわよー!」

エレナはそう言って俺の手を握る。

──戦いの歯車の存在に、俺達はまだ気づいていない
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