【完結】優しき世界にゼロ点を 〜Sランクヒーラーだった俺、美少女を蘇生した代償に回復能力を失いました〜

七星点灯

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最終章 故に世界はゼロ点を望む

第三十九話 私の過去も愛して?

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とある女の子の話。

 少女はアタッカーとして名を馳せた夫婦の娘だ。彼女は両親からたんまりと愛され、それ故にアタッカーへと憧れるのも必然だった。

 今日も彼女は小さい体で、父のいる書斎に向かってトテトテと走る。口の周りには米粒が一つ二つ、さっき食べた昼食の名残りだ。しかし膝には大きな絆創膏が貼ってあり、まだ血が滲んでいる。

「おとうさま、今日も教えてほしいな?」少女は書斎の大きなドアを開けて聞く。

「……昨日の続きからだな」彼女の父は口角を上げて喜びを露わにした。

 父は不安だった。いつものように庭で剣術の練習をしていた昨日。娘が転倒して、膝から出血するというアクシデントがあった。

「怪我、もう痛くないのか?」娘を抱き抱えて父親は言う。

「うん、もう大丈夫!」彼女は満面の笑みを浮かべて足をバタつかせた。

 結局娘はその日もコケて大泣きするハメになるのだが、二人の日課はだいたい毎日続くこととなる。


──それから数年後

「おりゃゃああ!」ツインテールが大きく揺れる。

「力が分散している、判断が遅い、足の運びが雑……」

 エレナと父親は真剣で戦っていた。練習場も庭ではなく、山の中の少し開けた場所である。

「せいっ! せいっ!」エレナは父親に容赦なく剣を振りかざす。

ブン! カキンッ!

 しかし空振り、または剣で軽く捌かれるのみ。エレナの剣術はかすり傷ひとつつけられずにいた。

「エレナ、私を殺そうと考えていないだろう?」

「はぁ? あたりっ、まえでしょ!」エレナは会話の最中でも攻撃を続ける。

 このエレナと父親が戦っている場所の地面には、大量の切り傷が残されており、事態の激しさを物語っている。

「私を侮るな、たとえお前の全力でも一生殺せん。だから──」

「だから本気で戦ってこい、いつもそれ言うわよねっ!」

 エレナは父親の言葉を乗っ取ると父親から離れる。そして短剣を懐から出した。エレナは大きな剣を左手に、短剣を右手に持って父親を睨む。

「これでどう? とっておきっ!」

キンッ! キンッ! ヒュン!

 剣と剣の衝突音に混じって、軽い短剣の音も聞こえる。しかし父親の表情に変化はない。変化しない間合い、パターン化された回避ステップ。この状況は、エレナの体力を余計に減らすだけになった。

数時間後。

「はあっ、はあっ、はあっ……」エレナは地面に仰向けで転がっている。

 肩で息を整える他にも、汗で濡れた身体中。その日の運動量は常人の域を越えていたのは確かだ。
 そんな彼女に近づく影。正体は紛れもなく父親で、エレナを見下ろしていた。

「太陽もじきに見えなくなる、さっさと帰るぞ」

 彼はエレナの剣と短剣を手に取り、一足早く歩き出した。エレナも起き上がり千鳥足で追いかける。

「まってよー」

こんなやりとりも二人の間では日常と化していた。


──それから一年後

「あれ? 今日もいないの?」私は父の書斎を開けた。部屋には誰もいない。

 最近、父はよく外出する。今日みたいに朝から家を出ている機会も珍しくなく、私には不思議でたまらない。父は仲の良い友人も少なく、これといって趣味もない。

「やっぱり、最近の強盗事件かな……」私はふとそう口にする。

 その日は一人で山へ向かい、走り込みと素振り、たまに休憩がてら動物と戯れてヒールの練習。そして陽が沈む前に「ただいまー」と言った。

 家に帰ると驚いた。てっきり父はもう帰宅していると思ったが、リビングのテーブルの上には二人分の食事しか置かれていない。

「お母さん、お父さんは?」私はリビングを見渡して尋ねる。

「仕事よ」と淡白に母は答えた。お茶を飲みながらゆっくりとしている。

 「ふーん……」『仕事』と言われた部分が気になったが、深く聞く必要もなかったので聞き流す。「私も」と言って母からお茶をもらって飲んだ。

その日はよく眠れなかったし、むしろ眠れなくて幸運だった。

──ギィィ

 私の部屋のドアがゆっくりと開く音が届いた。現在はたまたまドアに背を向けていたため、誰が入ってきたのかは分からない。ただ、同時に差す筈の光がないことを私は不審に思った。

 廊下の照明をつけずに、音をひそめてここまで来た侵入者。大抵の思考はそこに収束する。

「あっ、えっ、れっ」男の声だった。

 弱々しい声の音源はゆっくりと私に向かってくるのがよく分かった。私は枕元に置いておいた短剣を右手でギュウッと握り、震える心臓をなだめる。

「れっ、なっ」のしっと私の上に跨る男、すでに誰かは分かっていた。

 分かっていた。誰かなんて、分かっていた。仰向けになって、すると月の光で顔がよく見えて、信じたくない現実がそこにあった。

「おとう、さま?」変わり果てた顔を見てもそう確信できる。

 虚な瞳、上半身は裸、そしてお腹にはこの部屋よりも真っ黒な穴が空いている。『虚空』と表現するのにそう時間は必要なかった。

 父は私に鳥のような手を伸ばすと「えっ、れっ、なっ」と言って私の胸を揉む。父の手に合わせて形を変える私の胸。

「んっ、やめっ、てっ……」私は体を左右に捻るがびくともしない。

 私は不快の中に逃げ込み、快楽を自覚しないよう努める。どうにか、どうにかして止めないと。

「えっ、れな、いい子だねぇ」父は意味不明な言葉を並べる。

 「いい子だぁ」「よくやったぁ」「自慢のむすめぇ」父は奇怪な内容を、呪文のように並べている。

「んんっ、いやぁ、きもちっ、わるいぃ」私は自由な腕をブンブンと動かす。

 一切動かない下半身と上半身だが、唯一腕だけは自由で思いのまま動かせた。すると全身の動きを補うように腕を振る。当然、短剣を握ったままだ。空を切るにも限界が訪れる。

──ビシュッ!

 運が悪いのか良いのか、私の短剣は父の動脈を切り裂いた。たちまち生ぬるい液体がピュッピュッと父の心音に合わせて吹き出る。

「ちがっ、やあっ! 違うっ!」私は肉を切り裂いた感覚でパニックになる。

そして悲劇の連続。

──ズシャ!

 父の首を再び切ってしまった。しかも今度は深く、首を切り落とすようかのように。父の首は半分までで繋がり、大量の血液を撒き散らす。私の顔にも容赦なく降りかかる。

ビチャビチャ!

 出血と共に、父の手の力が抜けてゆく。段々とお腹の虚空も小さくなってゆく。知らない父が、いつもの父に戻ってゆく。絶えず血を吹き出す父。せめて異形のまま死んで欲しかった。

「エレナ……。聞い、てくれ、『クルス・エマン』、ヤツに、歯向かうな。しあわせ……」

「お父さん?」最後、私が見たのはいつもの笑顔だった。

 我に帰って、私はようやく気がついた。「ヒール! ヒール!」がむしゃらにヒールを唱える。しかし魔力すら込められない。

「ええっと、詠唱、詠唱!」思考は支離滅裂。私は父の死体と一晩過ごした。




──「それ以来、悪党を殺す趣味ができたの」

 ハンバーガー店に相応しくない一言で、エレナは昔話を締め括った。終始笑顔で語るにしては異常すぎる結末。なんだか後味が悪くなった。

「アスト、なんでそれが趣味になったと思う?」エレナの話は終わらない。

「その、クルス・エマンを片っ端から見つけるためとか?」

 「ううん」とエレナは首を横に振った。そして、俺の耳元に口を近づけ呟くように「人殺しを普通にするためなの」と正解を教える。

「ごめん、言ってる意味が分からない」俺の思考は巡る。

 人殺しを普通にしたって、親父を殺した事実は変わらないし、悪党といえどもいい気はしない。それなら、父の仇を討つために……。とかの方が健全な動機付けだと思う。

「レ○プされた女の子は性○為の中毒になるの。そうやって傷を紛らわすために……。セ〇〇○なんて、大したことないって思いたいの」

「だったら」と、吐息混じりの呟きでエレナは話す。

「人殺しの傷も、人殺しで紛らわせなきゃでしょ? 殺すのなんて日常茶飯、ゴミ捨てとかと同じこと……」

 エレナは俺の上に向かい合って座る。乱雑な吐息と高揚した瞳は、ハンバーガー店にやはり相応しくない。

「ねぇアスト、過去って覚えてるものよ、意外と……」

 エレナは顔を接近させる。エレナは鼻と鼻が掠める距離感で、息を吹きかけるように言った。

ゆっくりと唇は重なる。
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