【完結】優しき世界にゼロ点を 〜Sランクヒーラーだった俺、美少女を蘇生した代償に回復能力を失いました〜

七星点灯

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第一章 美少女、蘇生しました

第一話 私の名前、忘れないで

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「……ここ、どこだ?」

 俺はたしか、さっきまでエレナと戦っていたはず……。 

  しかし今の状況は、俺があのスタジアムに転がっているわけでもなく、ふかふかのベッドで寝ているだけだ。俺はゆっくりと体を起こして周りを見渡す。

周りはカーテンで仕切られて──本当にどこだ?

「目、覚めた?」

 カーテンの裏から優しい声が聞こえて、シャーっとカーテンが開いた。どうやら近くに窓があるらしく、日の光が差し込んでくる。眩しかった。

あれ? 視覚と聴覚が元に戻ってる。
 
 カーテンが開くとそこには、メガネをかけ白衣を着た女の子が立っていた。

 白髪で、髪は腰の辺りまで伸びており、歳は17歳の俺より1、2歳ほど上だろうか。彼女は物静かな雰囲気を纏い、クールな少女だった。

「ふーん、顔色は良さそう……。で、どこまで覚えてるの?」

「どこまでって? 何のことですか?」

彼女はゆっくりと、淡々と、諭すように話す。メトロノームのように。

「試合のこと。その様子だと……全く覚えてなさそう。それじゃあ……これ見て」

彼女はそう言うと、懐から一枚の紙を取り出して見せてきた。

「えっと……入学許可証? え?」

「うん。おめでとう。ようこそ我が学園へ」

 入学試験は、攻撃学部・防御学部・回復学部と分けられた128名トーナメントで行われる。もちろん俺は『攻撃学部』に願書を出した。
 その試験で入学できるのは半数の64名。つまりどの学部においても一回戦突破が最低条件。

このことから分かるのは……。

「えっ? 俺、エレナに勝ったんですか?」

 エレナに勝たないと入学出来ないなら、エレナに勝ったってことです。しかし彼女は「いや」と首を横に振って、紙の上部を人差し指で示す。
 俺はわけが分からずとりあえず紙を見てみる。そこにはしっかりと『回復学部』と書かれていた。

「回復学部? 俺は攻撃学部に願書を出したはずですよ?」

「それが嫌なら退学……」彼女はピッと親指で首を切るジェスチャーをした。

「ええ、退学? だからって、どうして回復学部なんですか? 攻撃学部でもいいじゃないですか」

「学園長が言ってた。理由は、貴方なら分かるはず」

「たしかに……」あんな戦い方してたら誰だってヒーラーだと思うよなぁ。

 俺はエレナとの試合を思い返す。攻撃はへなちょこで、回復能力のゴリ押しでようやく戦えていたレベル。攻撃か回復、どちらに特化しているかなんて一目瞭然だっただろう。

少女は「あとこれ」と言って、胸ポケットから紙と鍵を手渡してきた。

「今度はなんですか、鍵?」チャリと手渡された一本の鍵。

「紙、開いて……」

 そう言われて何回も折られた紙を両手で開くと、そこには4桁の番号と地図が書かれていた。地図の中には赤丸で囲われた範囲がある。これはどうやらそこの鍵らしい。

「あなたの部屋。好きに使って。私、もう行くから……」

メガネの少女はスッと立ち上がる。
 
ふわりと長い髪の毛が舞った幻想的な姿に俺はつい見惚れてしまう。

「じゃあ、また今度ね……」そう言うと彼女はヒラヒラと手を振って出て行ってしまった。

 さっきまで気付かなかったが、彼女はヒーラーのようだ。彼女が立ち去っても残る香りがそう確信させる。きっと俺を治療してれたのだろう。

窓の外ではファイアーバードが上空を舞っていた。
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