【完結】優しき世界にゼロ点を 〜Sランクヒーラーだった俺、美少女を蘇生した代償に回復能力を失いました〜

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第二章 オーバーヒールの代償

第三十話 貴方に告げる愛言葉

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 さて、あれから数日後のこと。俺はマリオン先輩に呼び出され、学園の屋上に来ていた。現在は人影のない屋上、待ちぼうけである。

 ここから一望できるのは学園のグラウンド含む数多の施設、その先に雑多としているアーケード。俺は屋上の柵に頬杖をつき、沈みゆく夕日を眺めていた。側から見れば冷静。しかしそれとは対照的に内心ではざわついていた。

「にしても、これってラブレターなのか?」

俺は再度手紙を確認する。

『今日の放課後、屋上に来てください。大事な話があります』

 丁寧な丸っこい字で綴られた文面は、しっかり『マリオン・リーパーより』
と最後に差出人が示されている。つまり魔法の発達した現代に、手紙という古風な呼び出し方をマリオン先輩が選んだということ。

「告白かぁー」

 ため息に混じる歓喜の抑揚。マリオン先輩なら……という心。自分でも単純な脳内回路しているのだなと指摘したいほど。それでもなお、期待を抱いて俺はしばらくそこにいた。

──ガチャリ

 静けさ染み渡る屋上にドアノブが捻られる音。当然、俺の耳にもすんなり入って鼓膜を揺らす。ついでに心も揺らす。

ついに来た、春が来た。

「アストくん、待ちました?」

 マリオン先輩はドアから少し顔を覗かせる。その表情は決心とか、安堵とか、コロコロ変わっていた。

「俺も今来たところなので、全然待ってないですよ」

「よっ、よかったです」

テンプレートの返し文句。

 頭の中で何回かシュミレーションした甲斐あって、すんなりと一言目を成功させる。先人の知恵を借りることも時には必要。マリオン先輩の体から『力み』が消え、表情も心なしか柔らかくなった。

 「それでは失礼します」とマリオン先輩は言って、本格的に屋上へ足を踏み入れる。そのまま彼女は俺の正面へと立つ。ここに歩いて来るまでの歩幅が一定でなかったことからも、まだ緊張が伺える。

 ひーゅっとそよ風が通過する。俺とマリオン先輩は自然と見つめ合い、どことなく雰囲気が引き締まる。

「ああっ、あすとくん、今日は話があって……」

 マリオン先輩はそう言うと口元をキュッと閉める。両手も胸に置いて、その姿は祈りを捧げているようにも見えた。

「ゆっくり、ゆっくり、話してください。時間なんて気にしませんから、マリオン先輩の気持ちを聞かせてください」

 俺は話す速度を落とし、口調も柔らかく、年下の少女に語りかけるような感覚で伝える。その真理には、万全の心の余裕を持ちたいと、ほんの少しだけ俺のエゴも含んでいた。

「はい、ゆっくり。ええっと、その」

「……」俺は瞳で返事をする。彼女のペースで会話を進めるための行動。

「私、最初、小屋の前で会った時から」

「……」

「アストくんのこといいなって思ってて……」

「……」

「ヒーラーだから、ってことじゃなくて。一人の人間として、私達に必要だなって」

 まだ勝利を祝わない。あと少し、数秒後の言葉を聞かなくてはなりません。告白とは古来からそういうものです。

「アストくん、私のお願い聞いてくれますか?」

「もちろん、喜んで」

 マリオン先輩の気持ちを受け止めて快諾。たった一言「いいですよ」と言うだけで春がやって来る。いとも容易く行われる契りに、他の障壁さえ訪れない。

あとは待つのみ。

「じゃあ、ヒーラー部に入ってくれませんか?」

 バサバサっと羽ばたく青い鳥達。光景は祝福のムードを醸し出している。

そう……光景は。

「ヒーラー部? は? え? 今日の話したいことって、部活の勧誘?」

眉間に皺がよる。あれ? いつから、どこで勘違いしていた?

「はい、アストさんに『なんでも言うことを聞く』と言われましたので、今日は改めてお願いに──」

「まぁ、言いましたけど。確かに言ったけど!」

 シチュエーション! 不自然、アンナチュラル、勘違いを意図的に誘っているとしか思えない。いや、この人はマジで無意識。これは理解していないな。

「もっ、もしかして……ダメ、ですか?」

 上目遣いと涙目のダブルコンボ。俺の崩れた精神にボディーブロー。脳内摩天楼、ガラガラと音を立てて陥落。

「ダメじゃないです。はい、俺が勘違いしてただけなんで」

「いいんですか!?」

 パァッと差し込むもう一つの太陽。マリオン先輩史上、過去一で可愛い。可愛いは正義、歯向かう精神は悪。別にもとより否定なんてする気はないが。

「アストくん、改めてよろしくお願いします」

 歳上なんだなぁ、と思える笑顔と余裕。ひとまずは魅了された。

あとは流れる水の如く。

 次の日、マリオン先輩は俺の部屋に入部届を投函。俺が必要事項を記入した後に提出。そのまま部室にまで行く流れとなる。そして俺とマリオン先輩は現在、学園の最果てにある部室の扉前に立っている。

 道中もそうだったが、この廊下は全体的に照明が少ない。おそらくは学園の最上階、それまた端に位置するからであろう。この階に踏み入ってから、人の気配を感じなくなった。

「アストくん、気をつけて下さい。このドアから先は魔鏡。入ってすぐに呼吸すると、最悪死にます」

「死ぬって、冗談ですよね?」

 冗談ではないと、マリオン先輩の緊張が教える。俺はいつもより大きめに息を吸った。

「それでは……」

 マリオン先輩がドアノブをゆっくりと掴む。キュリっと鉄製のドアノブが回る。軽く喘ぎつつ開いた鉄製のドア。

「──ふふふっ、へへっ。あとはここに……」

 中には人がいた。緩く癖のついた黄色い髪を肩まで伸ばしている女子生徒。眼鏡をかけ、白衣を纏い、片手でフラスコの掲げて中身を見ていた。

俺の第一印象は困惑。オリヴィア先輩にあまりにも似ていたからだ。

「オリヴィアちゃん、ちょっといいかな?」

マリオン先輩の声は弱々しいが、最も頼りになる。

 先輩が先陣を切って前に出る。しかし、くだんの少女は反応を示さない。決して広いとは言えない部室なのだから、彼女の声が聞こえないという事ではないだろう。集中しているのだ、それも尋常じゃなく。

「オリヴィアちゃーん、いいですかー?」

 そういえば、あの少女の名前もオリヴィアと言うらしい。なぜだろう、まだ他人の空似説を払拭できない自分がいる。

「じゅるり、これで一攫千金……ってマリオン!」

 声のトーンが三段階上がった。その声は、薄い記憶ながらもオリヴィア先輩のものであると記憶いた声。ようやく確信、正真正銘オリヴィア先輩。

「新入生、連れてきたよ」

「新入生!? ってうわぁぁ! ホントだー!」

 この騒がしさ、耳を塞ぎたくなる。俺はそんな欲求を抑制し、とにかく落ち着いて挨拶からする。

「アスト・ユージニアです。一回生、回復学部のD組です」

 俺はペコリと軽く頭を下げ、元に戻ったのちオリヴィア先輩を見る。当然、この短い所作に失礼はなかった。しかしながら、オリヴィア先輩の顔は曇っている。

「ヒーラーかぁ……。うーん、まぁ、イザベル先輩に聞いてみよう? もうすぐ来るみたいだし」

「でもアストくん、ヒーラーだけど回復能力がないの。だから、入部条件は守ってる」

「そう……」

『回復能力がない』それを踏まえてもいい反応は帰って来ず。

 想像を凌駕する微妙なムード。もっと歓迎されると思ってたから、すごくビックリしています。

「まぁいいや。とりあえず二人とも座って。ほら、アスト君も」

 パンッと手を叩いてオリヴィア先輩は切り替える。彼女はスイッチを入れ替えたみたいに弾む口調になった。

「はい、ありがとうございます」

 俺も言葉に甘んじて着席。薬品の香り漂う部室にて、イザベル先輩を待つこととなった。さて、門前払いか否か。

──ガチャリ

とドアノブが入室の合言葉を告げる。
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