【完結】優しき世界にゼロ点を 〜Sランクヒーラーだった俺、美少女を蘇生した代償に回復能力を失いました〜

七星点灯

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第一章 美少女、蘇生しました

第七話 アホとバカは超重力

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エレベーターの手前、白髪の少女の質問はスッと耳に入る。

「・・・恋愛的な意味で?」

彼女はポーカーフェイスを貫き通し、心情が表に出ない。揶揄っているのか、単純

 おそらくは誤解です。この状況を見て反射的に俺たちの関係を『そういう仲』だと想像しただけに過ぎません。
しかしねぇ、記憶が無くなってるからとも言いづらい。

「いや・・・」と俺が質問を濁そうとする直前に、エレナが立っている方向からお淑やかな声が聞こえてきた。

違和感を感じた俺は声のした方向を見る。

 そこにいるのはエレナに変わりない。しかし声色をガラリと変えたエレナで、端的に言えば猫をかぶっていた。

「私と彼には、何もございません。これは私の不注意による事故ですので、ご心配なさらず」

 おいおい、誰だよこの人は。いやエレナなんですけど。さっきまで人を殺そうとしてた人間がここまで変化するとは・・・。

「誤解を招いてスミマセン、ええっと白髪の方。そういうことです」

 彼女は納得してくれるだろうか。そもそも質問の意図が分からない時点で、何を弁明しても空回りしているような気がしてならない。ニーズに応えられたかどうかは不可視なのだ。

「・・・名前違う」

「え?そっち?」大の字に転がりながら素っ頓狂な声が出てしまった。

「私は」と何故か白髪の少女は俺の発言に対して食い気味に言葉をつづける。

「カトレア・アズラエル。覚えて、私の名前。忘れないで」

カトレアと名乗る少女。俺は瞬時に脳内辞書に顔と名前を登録する。

 カトレアさんは俺を覗き込んだ。白い瞳、サラサラと揺れる髪はカーテンのようで、妙に湿気を感じる。
一瞬だけ、二人だけの世界が見えた気がした。

「忘れ・・・ません。」吸い込まれるような感覚を味わった俺は、自然とそんな言葉を吐いていた。

──ポーン

 俺たちのデコボコした会話を聞き飽きたエレベーターは、扉を閉めてそそくさと下へ向かう。カトレアさんとエレナ、そして俺はゆっくり現状を思い出しつつあった。

遅刻するか否かの瀬戸際であることを。

「よいしょ。・・・初日から遅刻はマズいっすよね」俺はさすがに立ち上がった。

現在時刻を正確に知ることはできないが、なんとなく時間を浪費してしまった気がする。

 ここから学園の校舎まで走って10分。まだチャイムが聞こえていないところから、まだ間に合うかもという希望が残っている。

後から気がついたが、チャイムなんて聞こえるはずがございません。

「カトレア様、ワタクシも遅刻してはいけないと思いますの。申し訳ございませんが、失礼いたしますわ」

もはやエレナではなくなっている。

「うん。じゃあね」カトレアさんは手を振っていた。

「エレナさん、いったい何を・・・」しかし俺は彼女の行動に首を傾げる。

エレナはバッと柵の上に飛び乗った。

片手に鞄を引っ提げ、空中を見ている彼女はどうやらここから飛び降りたいらしい。

マンションの向こうから風が吹き、彼女のツインテールを揺らしている。

ここ六階ですよ? せっかく助けた命を大事にして欲しいんですけど?

「エレナさん、絶対に早まらないで──」

「それでは」と言ってエレナは飛び込んでいった。

「ちょっと危ないって!」

俺は動転し、柵に近づいて下を見る。

しかしそこにエレナの姿はなく、ただの土で舗装された並木道があるだけだ。

どうやら死んではいないらしい。俺はホッとして柵から離れる。

「アスト、行くよ?遅刻する」

 俺が一人で騒いでいる間にエレベーターが帰ってきていたらしい。カトレアさんはすでに乗り込んでおり、『開く』のボタンを片手で押しながらもう片方の手で手招きをしている。

「まぁ、そうですね。俺たちも遅刻しないように」と言って俺はエレベーターに乗り込む。

 エレベーターはゆっくりと扉を閉めて、俺たちを階下まで運んでいった。スルリと降りてゆく感覚が気持ちいい。

俺とカトレアさんは無言でエレベーターに乗っている。この状況、気まずい雰囲気になってもおかしくない。しかしなぜか会話をしなくとも気まずい空気を感じることはなかった。



──ガラガラガラ

「おはようございまーす・・・」

 エレベーターに乗って数十分後、カトレアさんと別れて数分後、俺は教室のドアを開けた。

どうやらギリギリ間に合ったらしい。クラスメイトは着席しておらず、親睦を深めるために会話している。

 横に四つ生徒の席が並べられており、それが二列分あるだけであるからか、教室は広々としている。椅子と机が合計八組しかない教室だ。

 俺の在籍しているクラスは『D組』。もちろん『A組』が1番の優等生クラスで、そこからB、C、Dと成績順に分けられている。

端的に表現すると『1番下』ですね。

クラスメイトも少なく、俺を含めて8名。すぐに名前を覚えられそうです。

「あっ、皆んな!『ゾンビマン』が来たぞー!」

「うわー!」「ホンモノだー!」ガヤガヤと楽しそうな声が教室を駆け回る。とは言っても八名。

おいおい、誰だよ。可哀想に、初日から変なあだ名を付けられて。

「ゾンビマン、よろしくな!」

 声の主はガタイのいい男子生徒で、ヒーラーと言うより、タンクやアタッカーの体つきをしている。
彼は黒板の正面にある教卓に腰を据えて、ニコニコと俺に指を差していた。

ん? ん? もしかして・・・。

「『ゾンビマン』って、俺のことだったりします?」俺も自分を指差す。

「は? そりゃそうだろ。今お前しかそこにいねぇんだからよ」彼は首を傾げながら正論を言ってきた。

終わりました。変なあだ名は俺についているらしい。

 あの時は必死だったから覚えてないけど、そんな悲惨な戦い方をしていたとは。俺はエレナとの一戦を思い出して恥ずかしくなった。

「分かった。俺がゾンビマンであることは間違いない。だけど俺には素晴らしい名前があってだな・・・」

「アストな! 分かってるぜ! それじゃあ、宜しくなアスト!」

彼は教卓から降りて、俺の方へ歩いてきた。

 一瞬であだ名をやめた・・・。「コイツ、根はいい奴なのか?」と心の中で勘繰る。その生徒は全く邪心のない、澄んだ赤い瞳をしていた。

くだんの彼が片手を体の前に出す。握手をしたいらしい。

「俺はガンス・ガンタンク! ガンスって呼んでくれ! ガンスだ! よろしくな!」

すげぇ! こいつバカだ!

発言に全く知性を感じない。バカ特有の崩壊した自己紹介をされた。

「「よろしく!」」

 ガンスと俺は硬い握手を交わす。アホとバカは惹かれ合う運命なんです。

まるでそう、ブラックホールの如く引き寄せ合う。

──ピーンポーン

「只今より、新入生を対象としたテストを行います。新入生はグラウンドまでお越しください」

──ピーンポーン

「いきなりテストだって!」「腕がなるぜ!」ガヤガヤと

皆さん元気がよろしいようで何よりです。

「しまったな、いきなり大ピンチじゃん」

俺は俺にしか聞こえない声で呟く。どうやって能力を誤魔化そうか。

あーでもない、こーでもない。

「アスト! 早く行こうぜ! 俺たちが1番乗りだ!」

ガンスの子供みたいに澄んだ瞳。ガキの頃に会いたかったなぁ。

 利益、不利益で人を判断しない瞳は、皆んな持っていたはずなのに。ヒーラーとして歩むだけそんな人間は消えてゆき、やがていなくなるんだよ。

精神年齢が一時的に下落する。

「レッツゴー!」俺は考えるのをやめた。
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