【完結】優しき世界にゼロ点を 〜Sランクヒーラーだった俺、美少女を蘇生した代償に回復能力を失いました〜

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第一章 美少女、蘇生しました

第二話 デートの約束、叶うといいね

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 俺が目を覚ました時には、あの試合から2日が経過していたらしい。俺は現在、地図を片手に所持し、あの謎の建物の窓から見えていた校舎に向かっている。

「ここが学校かぁ……街みたいだな」俺は周囲を見渡す。

 俺が志願した学園は大まかに学園エリア・居住エリア・アミューズメントエリア、と3つのエリアに分かれている。

 俺は現在アミューズメントエリアにいて、校舎に向かう道を進んでいる。ここでは、数十人ほどが余裕で交差できるような道を基盤として、両サイドに服屋などが立ち並ぶ。

ショッピングを楽しむためのエリアだ。

 そしてこの道をまっすぐ歩けば学園につき、途中で左に曲がれば居住エリアに着くという構成になっている。 

「あっ! アンタ生きてたのね!」視界の外から、聞き覚えのある声がした。

 ちょうど俺が服屋の前を通りかかった辺りで声をかけられる。

 俺が振り返ると、自動ドアの前にツインテールの少女がいた。彼女は両手にふっくらとした紙袋を持っており、今まさに買い物を終えたことは想像に容易い。

しかし、過去の記憶が曖昧なもので、名前がなかなか出てこない。

「……ええっと、ごきげんよう?」俺はぎこちない笑顔をつくる。

「んー?」と彼女はこちらを勘ぐるように見てくる。

 ジトっとした目は俺に不満があるって言いたいらしい。やはり、目は口ほどに物を言う。

「まっさか、アンタ私を忘れたの? あーんな酷いことをして?」

彼女はわざとらしく口に手を当てて話す。

「人聞きの悪いこと言わんでください。……むしろ君の方が切り刻んでたよ?」

俺がそう言うと、更に少女の機嫌が悪くなる。

「キ、ミ、じゃなくて! 私にはエレナってステキな名前があるの! 忘れたなんて言わせないわ!」

「エレナだよな。うん、覚えてる。いい試合だったよ」

 そうだエレナだった。俺を切り刻んだ素敵な名前……っと。俺は脳内辞書に新たな名前として登録する。

「うそついた?」エレナは笑顔で、しかし威圧を纏って尋ねる。

「うそ、なんてついてないよ? 元からエレナのことも知ってたし……」

「ん?」

「すみません、本当は忘れていました」

 怖い、怖いよ。なんかずっと心を覗かれてるみたいな、形容し難い恐怖だよ。それゆえ、俺が謝罪するのも時間の問題でした。

「私はアンタの名前覚えてるのに……。失礼よねアストくん?」

「エレナ様に覚えていただき光栄です……って言えばいい?」

「うるさい! もう知らない!」エレナは頬を膨らましてそっぽを向く。

 あーあ、拗ねちゃった。やっぱり、女心はよく分からん。しかも人生において必修事項なのに文献が少なすぎるんだよ。

しかしそんなことを考えていると、エレナはケロッと話題を変える。

「てか、アンタはなんで入学出来たの? 私に1回戦負けてたじゃない」

「ああ、そう言えば」エレナにとっては不思議な状況なのか。

 そもそも、一回戦突破が入学の条件。しかし俺は負けたくせにノコノコと学園内を徘徊している。不審に思われても仕方がない。

「俺もよく分かんないだけど、ついさっき『回復学部』に合格したって言われて。まぁ、ギリギリ入学できたよ」

「回復学部ってほんと!? よかったぁ。私、アンタを回復学部に推薦したのよ!」

 エレナはパチンと手を叩いて祝福してきた。可愛い子に祝福されたってのと、目的の学部じゃないって感情でトントンか。

あと、俺が回復学部に入学した元凶はキミでしたか。

「ありがとう」俺はペコリと頭を下げた。

「かっ、感謝するなら私じゃなくて学園長よ! 私が頼みに行ったのだって、ただの気まぐれだし……」

エレナはそっぽを向いて小さい声で呟く。

「──よかった」

 太陽はまだ高い所に鎮座しており、この学園を優しく見守っている。

 目の前に立つエレナはまだ去ろうとしない。しかも突然モジモジと、俺に物言いたげな視線を送ってくる。

「私に回復学を教えてくれないかしら?」エレナの顔は火照っている。

 彼女は視線を逸らさない。ダンスを申し込む時のように、淑女たる振る舞いで聞いてきた。それは一瞬、彼女がドレスを着ている幻覚さえ見えるほどに。

「回復学を……教える? なんで?」俺は理解できない。

「私、子供の頃からヒーラーに憧れてるの」

 赤く澄んだエレナの瞳は邪心を感じない。ただ純粋に憧れを抱く少女の瞳。何度か見たことあるのは、俺がヒーラーだったせい。

「……」俺は無言で立ち尽くす。

──その瞳は苦手だよ

ヒーラーとは、自己犠牲ではなく他人任せな立場だ。

 ゼロに戻すだけの技術を鍛えるより、剣術をピカイチにする方がよっぽど賢明だし、人を守る盾として生きた方が直接的に命を救える。

 俺はあの時そう感じた。あの日、植え付けられたトラウマと共に、この考えは二度と変わることはないだろう。

「わざわざ俺に習うの? 先生とかいくらでもいるでしょ? それにほら、俺なんかが教えても力にならないと思うし……」俺は早口で詭弁並べる。

「アストがいい。私はアストに回復学を教えてもらいたい」

 エレナはそう言い切った。純粋だった瞳はいつのまにかギラギラと光り、俺に突き刺すような視線を向けている。

「絶対、アストがいい」どうやらエレナは引かないらしい。

 今までと矛盾するが、俺は内心チャンスだと考えていた。理由としては単純、エレナに頼みたいことができたということ。

「……分かった。それじゃあ、俺のお願いも聞いてもらえる?」

俺は彼女に交換条件を持ち出す。

「もちろん! そうじゃないとフェアにならならもの!」

 持っていた地図を一度ズボンのポケットに押し込む。そしてエレナの顔をしっかりと直視して彼女の両肩に俺の両手を置く。

「なっ、なにする気!?」エレナは身構える。

「エレナ、俺と(剣術の練習)付き合ってくれないか?」

「へえっ?」間抜けな声と共に、エレナの顔が赤くなった。

 ボンッとエレナの頭がショートして、プスプスと煙を上げている。ドサリと彼女はそのまま気絶し、俺の方へともたれ掛かっている。

「……エレナ?」俺は状況を理解するのに、たっぷりと時間を使った。


────数分後


「ここがビョウイン?」

 俺は現在、さっきまで寝ていた建物の前まで来ております。

 聞いたところによると、『病院』と言うらしい。『怪我人を一時的に預かり治療する場所』と、エレナが倒れた時に周りの人からここを勧められた。

 なぜか現在の彼女は俺のヒールが効かずにずっと気を失ったままなので、しょうがなく背負っている。

正直、両手に服の入った紙袋、背中にエレナはすげー重い。

──俺と(剣術の練習)付き合ってくれ!

 ゴカイ……誤解。

 完全に告白の言葉を使ってしまった。改めて思い返すと恥ずかしすぎて死にたくなります。

「あーあ、エレナの記憶だけ飛んでるといいんだけどなぁ」

 俺の虚しく、しょうもない呟きは空に消えてゆく。ちなみに、俺のヒールは記憶にまで影響することはないので、完全に運に頼ることとなる。

「いっそのこと、夢だったってことにしようかな」俺は真剣にそう考えていた。

「アスト・ユージニア。女の子を背負って、こんなところで何してるんだい?」

 俺が病院の前をウロチョロしていたところ、突然後ろから声をかけられる。俺が振り返ってみるとそこには、怪しい雰囲気を纏った婆さんが。老婆は日傘を開いていた。
 
 紫を基調とした服を全身に纏って、身長は俺(平均的な17歳)の肩くらいまでの婆さんだ。腰の曲がったその姿は、さながら魔法使いだな。

「この子が突然気絶しちゃったんで、俺が病院まで連れて行ってるんです」

 知らない人には極力近づかないで、当たり障りのない会話を心がけましょう。これで人生の生存確率がグッと上がります。

「ウソなんてつかなくていいさ。全く、オマエも隅に置けないねぇ・・・」

 あんまり関わらない方がいいな。俺のセンサーがビンビンに反応して、婆さんの危険さをアピールしている。

 さってと、適当な理由つけて何が何でもこの場を離れよーっと。俺はクルリと回れ右をして、病院の敷地内へ足を踏み出す。

「……何で逃げようとするんだい? まだ話は終わってないよ」

「いやー、ちょっとこの子の容体が悪化しそうなんで。すみません、話はまた今度聞かせてもらいます」

 俺は「よいしょ」っとエレナの体を背中で支え直し、エレナに安眠を提供する。

「ちょっとアスト、あの人誰だか分かってんの?」と思ったら、エレナはもう起床していたらしい

「うーん? なんかヤバめな魔法使い的な人?」

 エレナは俺の背中から離れようとはせず、「はぁ」と俺にため息を吹きかけてから、目の前の状況を示してきた。

「あの方はこの学園の学園長よ、挨拶くらいしときなさい。……私はもうちょっと寝たふりしとくから」

「早く言えって」俺はもう一度クルリと半回転し、婆さんの方を向き直す。

「失礼致しました学園長。今のはちょっとしたお遊戯です」

──こんな感じでどうでしょう?

 エレナは俺の背中にギュウッとしがみつく力を強める。不正解的な意味合いだろうか。なんだか表現方法が可愛らしい。

「まぁ、及第点だよ。ギリギリでお咎めなしさね。……アスト、お前さんに話がある」婆さんはクルリと俺に背中を向け、どこかに歩き出す。

右手でヒョイヒョイと手招きしている。俺も同行すればいいってわけか。

 俺はそのことを察してエリナを背中から下ろした後、両手に持っている紙袋を渡す。

「ふーう、楽になったぜぇ」俺の背中の篭った空気がヒヤリと抜けてゆく。

「アストなんで降ろしたの? このままでよかったのに……」

エレナは寂しそうにコチラを見ている。それは、それはもう美しい赤い瞳で。

「え? そりゃあ、おもっ……」俺は慌てて口を塞ぐ。

 「重いから」なんて言いようモノなら殺されるだろうな。さて、どうやって言いくるめるか……。

「服が新鮮なウチに持って帰りなよ」俺は彼女の袋を指差す。

「は? 何言ってんのよ?」

あまりいい反応ではない。エレナは心底冷めた目で俺を睨んでくる。

「ええっと、ほらね、万物に命って宿るからさ」

「服は腐らないわよ……」エレナの視線はよりキツくなる。

 俺は既にパニック。失言一つでエレナを怒らせ、生かすも殺すも彼女の手の内になってしまう。

「その服たちもエレナに早く着て欲しがってると思うんだよ」

「……それはアストも? アストもこの服着てる私、早く見たい?」 

 ここにきてクリティカル。エレナの雰囲気がガラリと変わる。ウルウル上目遣でそんなこと言われたら答えはひとつだろうよ。

「はい。今日中には見たいです」

「……じゃあ、今日の夜、空いてる? 入学祝いにご飯でも食べに行かない?」

「空いてる。絶対空いてる」俺は心の中でガッツポーズ。

 『よし』っと、エレナは小さくガッツポーズをしている。なんやかんや、心が通じ合っている様な感覚に、俺は親近感を覚えた。

「じゃあ、今夜会いましょう? 6時に学園の前集合ね?」

「はーい」俺は柔らかく返事をした。

 「じゃあね」とエレナは、はにかんだ笑顔を見せる。

「うん、じゃあね」俺は手を振って歩き出す。

俺とエレナ、お互いは正反対の方向に進んで行った。

太陽はまだ高いところに鎮座している。

「……ふーん」

 木の影、その様子を観察する男が一人。スーツ姿に丸眼鏡、一見すると普通の二十代……。
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