田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

七星点灯

文字の大きさ
上 下
23 / 37

第23話 同じ道を辿っても

しおりを挟む



「──思ったより、稼げなかったな」

そう呟き、足を止めた。
クインをそっと、近くの大きめの岩に寝かせる。
そして不可探知と不可視の古代魔法が解け、俺の姿は顕になった。

この魔法の重ねがけによって“アイツ”から稼ぐことができた距離は、ほんの数百メートルくらいだろうか。
遥か……とも言えないくらいの後方に、『魔王が1番信頼している筈の』ヤツがいる。
アイツの殺気はここに居てもジリジリと伝わってくるし、この場所が戦場になるのも時間の問題だった。

「──今日あったことは、忘れてくれていいんだ……」

俺は誰に言うわけでもなくそう言って、クインの方を一瞥する。
彼女は規則的な寝息を、スゥスゥと立てているだけだった。

それでいい。

いや、むしろ、そうあって欲しい。

今日あったことなんて、彼女の記憶になんか残しておきたくない。

たった1人と1匹で変な所に飛ばされて、牢屋に入れられ。
ガイコツが話しかけてきたと思ったら、嫁に入る話を聞かされて。
その話はあまつさえ、自身の父親も認める形の政略結婚……。

くだらない。

彼女が体験するにはあまりにも、くだらないことなんだ。



そして、俺は冒険者。
依頼主の命令は、彼女の身柄を確実に、トナリーノの街まで送り届けること。

政略結婚だとか、世界の命運だとか、魔物と人間の戦いだとか、そんなことを引き受けたわけじゃない。



「──俺はアイツを倒すだけ」



これが答えだ。

今日の朝、魔王……いや、師匠に問われたことの答え。
俺の導き出した、絶対に間違っていない信念。

政略結婚を阻止するだとか、世界の運命を変えるだとか、魔物と人間の戦いに終止符を打つだとか、そんな難しいことはしない。
ただ、目の前の相手と戦って、倒す。



倒す。



……倒す。



「──だから、もう少しだけ、寝てていいよ」

クインから視線を外し、遠方のアイツを見つめる。
暗くて暗くて仕方がない夜なのに、アイツはどうしても輝いて見えるのだった。



────視点・カゲトラ────



……アレは、魔王様じゃない?

数百メートル先に現れた人影は、青年の形をしていた。
僕の予想とは全く違っていて、混乱状態に陥りはしたが、すぐに立て直す。

大丈夫。

やることは変わっていない。

あの女の子を殺して、魔王様の時代を終わらせる。

たったそれだけ。

彼は、その道中に現れた小さな小さな段差に過ぎない。
僕が本気を出したらすぐに終わる。
だって今の僕なら、魔王様ですら倒せるんだから。

……多分。

そうやって考えながら僕は、地面に影を伸ばして、彼のところまで──

「──っ!?」

突如、背後から、僕の腹は貫かれた。
ゴボッと出てきた呼吸には血液が混じっていて、何が起きたのかすら理解に及ばない。

……?

……あぁ、刺されたのか。

なんだ。

そんなことか。

グルンと首を180度回して背後を確認する。
すると僕の背中に剣を突き立てる、少女が1人。
あと、彼女の後方に、駆け寄ってくる仲間らしき2人。

……と、雑魚が一匹。

「──お前のせいでっ! 2人はっ!」

僕の背中を刺した少女はどうやら怒っている。
親の仇を見る目……それは今までに、何度か向けられた感情。

「……キミは、取り残されたのか」

「っ!?」

どうやら、僕の一言は彼女の琴線に触れてしまったらしい。
彼女は僕に突き刺したその剣を引き抜き、もう一度差し込もうと動く。

「このっ──」

「じゃあ、送ってあげるよ」

影を地面に広げる。
目の前にいる少女がすっぽり入るくらいの。
きっとこの子は、両親を僕に殺されてしまったのだ。

かわいそうに。

「ほら、おいで」

そのまま地面に伸ばした影を流動化させ、沼のようにする。
あとはこの子を飲み込んであげれば終わり。

「ヤミィ!」

この時、後方からようやく追いついた仲間。
だけど、もう遅いよね。

「やめろぉっ!」

そうやって叫んでも、意味はないよね。

「……おやすみ」



──影の棺桶ベッド



少女を飲み込もうとする影の波は渦巻き、彼女の跡形を塗りつぶすように覆い被さる。
暗くて暗くて仕方のない夜だから、こんな事も静かに行われるのだ。
さぁ、キミを両親の元へ連れて行ってあげよう。

……って、絶望すべき状況なんだけどね。

彼女の瞳は輝いて、未来を見ている。
まるで明日がある事を疑っていない子供のような、純真無垢な。
それが恐ろしくて恐ろしくて、恐ろしいほどに虚しくて。

あぁ、こうやって君の両親も……。

死んでいったんだ……。



「……もるとっ」

「──魔力装填エンチャント

僕の背後から声がした。
妙に腹の立つ、心の底から嫌いな声がした。
ソイツはおそらく、僕の腹を貫通した剣に触れると魔力を流し込んだのだ。

魔力装填……エンチャントを行う為に。
僕の目の前の少女を救って尚且つ、僕に致命傷を与える為に。



……結局、彼女が見ていたのは未来でもなんでもなかった。



「そう、だね。懸命な、判断だ」



僕の長所は物理・魔法攻撃への異常な耐性。
魔法の使えないヤツとなら、何千回戦っても負ける気がしない。
これは、僕のクソみたいな生みの親が残した、唯一の救いの道。

これがあるから僕は、魔王様の幹部にまで。



逆に、短所は──



「いけっ! ヤミィ! そのままぶった斬れっ!」

「……うんっ」



彼女の視線が僕を貫いた。
その時に感じたのは、生まれて初めての死の恐怖。
僕は生まれてから一度も、体の内部に攻撃を与えられたことがない。
全部の攻撃は、外側が全部無効化してくれて、内部には傷一つつかないのだ。





僕の短所としてありうるのは、きっと……。



ブシッ!



……内部破壊しか、考えられない。



「──あ゛!」



もしかして、あの雑魚、僕の弱点を……知って……。
それで、アイツらに話して──痛い痛い痛い痛い痛い苦しい苦しいクソがクソがクソが……!

クソがっ!



「クソがっ! 中身を切られたくらいでっ! 僕が死ぬわけねえだろっ!」



僕はずっっっと前から計画してたんだっ!
魔王様が衰えても、死んでも、何があってもっ!
この魔王軍を終わらせないようにっ!

でもアイツだけは違ったっ!

何が政略結婚だっ!
人間の血が入った時点で、魔王軍じゃなくなるんだっ!
なんで分かってくれないんだっ!



……でも、あの人に拾われてから、僕の世界は変わったんだ。



あの人は、僕を捨てたクソ野郎共とは違って、僕の能力を肯定してくれた。
そして正しい能力の使い方、生み出し方、喰らい方、何から何まで教えてくれた。
仲間をたくさん紹介してくれて、共存することの素晴らしさを教えてくれた。

でも僕は最初、仲間と紹介されたみんなに対しても恐怖を抱いてて……。

親に捨てられたから、周りの奴はみんなそうなんだって思ってた。
みんな僕を嫌って、僕の能力を恐れて、僕に石を投げつけるんだって。
だから、最初は怖かった。



でも、それでも、あの人はこう言ったんだ。

『過去に引きづられて、素敵な出会いを逃すなんて勿体無い』って。

その時、その言葉を聞いたその時に、僕はようやく、前を向くことができたんだ。



だから、そんな魔王軍を失いたくなかった。

ずっと、永遠に、僕は魔王軍として生きていたかった。

もし、こんな僕のささやかな夢が叶わないのなら。



それなら。


……それなら!



「……それなら、僕が終わらせて、新しく作り直しますよ。……魔王軍を」



「──ヤミィ! 掴まれっ!」



青年が少女に手を伸ばす。
少女は青年の手に捕まり、そのまま引っ張りあげられる。
その光景が目の前を通過した途端、僕の中の影が溢れ出した。



雲が月を丸々隠して、ようやく、光の差さない世界が訪れたのだ。



────視点・モルト────



「……あれを影と呼ぶには、大きすぎるわね」

「あぁ」

「……うん」

「はい」

アイリスの絶望混じりの声を聞いて、脱力した返事が三つ並んだ。
俺たちは今、クインの眠っている岩場のところまで引き返し、アイツ……カゲトラの動向を探っているのみだ。

もはやアイツは、影に取り込まれた異形。

これまでに影が喰らってきたのであろう者たちの姿を、ぐちゃぐちゃに混ぜた闇鍋状態。
そして、ひたすらに大きく隙がない。
ずるっ、ずるっと地面を這うその姿は、控えめに言っても最悪だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...