俺を彩る君の笑み

幸桜

文字の大きさ
上 下
28 / 48

ただそれだけの一日

しおりを挟む
  光

  瞼の裏。暖かで儚い光を感じる。

  直接感じたいと思えば、直ぐに出来る。
  でも、……何となく暫くはこのままの体勢でいたい。

  記憶も意識も感覚も。
  覚醒直後にも関わらず、鈍りはない。

  いや、それどころか、今までより、より敏感にさえ思える。

  たくさんの人に呼ばれている……気がする。

  幸せを……。

  そう願い、俺はまた瞼を閉じた────


 ★


 ────よく寝てる

  木の葉が優しくざわめいた。
  葉が擦れ、我慢しきれなくなったものが、ひらりと空中に身を躍らせる。

  くるりと一回転。そのまま先っぽを天に向け、真っ直ぐに昇っていく。

  淡い橙色に、そいつは向かっていく。

  緑の葉は橙に染まり、やがて桃色へと変化を遂げる。

  葉はいつの間にか、夕焼けと同化し、天へと消えた。

  上がった視点を元に戻す。

「あら? お目覚めですか?」

  ちょっとからかい気味に、それでも随分待たされた事への皮肉を込めて言ってみる。
  膝の温もりはちゃんと答えてくれる。

  「……うん、おはよ……う?」

  まだ寝ぼけているのか、あどけない〝彼〟の様子に心がはねる。

 
  先輩、無防備ですよ


  そっと、心の中でつぶやき、その代わりに彼の頭の上に、手を乗せる。

  髪の流れにそって、ゆっくりゆっくりと撫でていく。


  いつもとは逆だ


  飼い主と飼い犬が入れ替わった感じ。

  既に競技場には夕日が射している。

  最初こそ心配して集まっていた仲間も、遠にあとは私に任せて帰ってしまった。

  それからどれくらいの時間が経ったのか、それがどれ程であれ、私達の〝時〟は変わらない。

  膝から伝わる微かな鼓動、肌に置かれた吐息。
  いつもより近い感覚が、私達を一つにする。

  物理的ではない。確かに今、心の距離が近い。

  ふと、膝が軽くなった。

「んっ!」

  とっさに手に力を込めて、その頭を元の位置に戻す。

「……まだ甘えてて下さい」

  行動は反射だった。でも心は正直で────

「まだ……、も少し……」

  言葉にならない。言いたいことが、伝えたいことが。
  ふわふわとしたまま、目の前を泳いでいる。

「……────一緒に」


  そうして、やっと。

  出てきたのはたったの三文字。


  膝に重みが戻った。

  先ほどより重い。

  彼の心の重さだ。彼の全てがそこにあった。

  強がって、隠して、気づかれないように。
  男の子の意地。そんなものは置かせない。

 今のように、私の膝は彼専用なのだ。

  見栄っ張りな一面も。そんな邪魔なものはいらない。


  彼は私に心を見せてくれた。
  私は彼の心を求めた。




  ────ただそれだけの一日────
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

彼女の浮気現場を目撃した日に学園一の美少女にお持ち帰りされたら修羅場と化しました

マキダ・ノリヤ
恋愛
主人公・旭岡新世は、部活帰りに彼女の椎名莉愛が浮気している現場を目撃してしまう。 莉愛に別れを告げた新世は、その足で数合わせの為に急遽合コンに参加する。 合コン会場には、学園一の美少女と名高い、双葉怜奈がいて──?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

処理中です...