俺を彩る君の笑み

幸桜

文字の大きさ
上 下
22 / 48

あなたのことを知っていました

しおりを挟む
  五月
  桜の面影は遠に消え、葉と雫の気配がてくてくと迫ってくる。

  久しぶりの1人。
  今日は彩光が早朝から学校へ用事があるという事で、孤独な朝練だ。

  長い河川敷に一本の風が吹く、舞い上がった朝露がぽつんと俺の瞳を潤わせた。


  一年前の今を思い出す。

  あの日の俺もその瞳を潤わせていた。

  800メートル予選 1組目 7コース

  一年経った今でもそれは鮮明に覚えている。
 

 ────


  パァンッ

(準決勝に行けるかも……!?)

  そう思ったのは300メートル通過地点。


  高ぶった気持ちと場の雰囲気が融合し、俺の足は絶好調の動きを見せていた。

  400メートルを通過。

  やや足の動きが鈍くなり、2人に抜かれる。
  前に走るのは計4人。

  準決勝に行くには最低2人を抜くのが必須条件である。

  550メートル通過。

  1位との距離は約15メートル。

(……ギリギリの射程圏内)

  一瞬視界が暗く染まる。

  刹那

  瞼の裏で行われるイメージ。

  先頭を駆ける、勝利のイメージ。

  運命のラスト200メートルのライン。

  それから、数十秒の記憶はほとんど無い。

  俺の記憶が始まるのはその2時間後。
  準決勝の舞台である。

  俺はそこで最下位をとり、泣いた。

  俺の足は限界だった……。

  予選突破を果たすのに、俺は全力を注いだのだ。
  別にそれを悔やむつもりはない。

  俺の力が足りなかっただけなのだ。

  それに……


  仮に力があったにしても、予選だからといって力をセーブするのは俺の性分じゃない。


  だって、そんな走りだと楽しくないから


  俺の脳裏にとある人の言葉が浮かぶ。

『なあ、純。お前、なんで走る?』

『────』

『答えにくかったかな……、なら取り敢えず俺の答えを聞け』

『はい』

『俺はな、俺の走りで会場を笑顔にしたい。思わず身を乗り出して、俺だけを魅せれる。そんな走りをしたい』

『そんな事……、』

『〝笑顔〟それと〝エンターテインメント〟』

  俺の言葉を遮るように置かれた言葉。彼はそれを最後に俺の前から姿を消した。

  彼は俺の最初の師匠だった。



  でもな、でもな……本当に悔しかった

  俺の瞳は誰もいない競技場で1人、潤っていた。

  でも、そんな彼は気づくはずもない。
  誰も居ないはずの競技場、そこにはもう1人、彼を見つめる小さな影があった。



  時間は遡ること数時間。
  800メートル予選が始まる、少し前の頃である。


  競技場のバックグラウンド側。
  トラックの第三コーナー辺りの芝の上にその少女は居た。

  江川彩光

  まだ高校一年の彼女、彼女の瞳は暗く、地面を見つめていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

彼女の浮気現場を目撃した日に学園一の美少女にお持ち帰りされたら修羅場と化しました

マキダ・ノリヤ
恋愛
主人公・旭岡新世は、部活帰りに彼女の椎名莉愛が浮気している現場を目撃してしまう。 莉愛に別れを告げた新世は、その足で数合わせの為に急遽合コンに参加する。 合コン会場には、学園一の美少女と名高い、双葉怜奈がいて──?

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...