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不安定な足場
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「先輩っ! 頑張りましょうね!」
「ああ、お互いにな」
今日はシーズン明け最初の試合。
俺達はどちらも800メートルにエントリーしている。
スタート時間は女子が9時20分、男子が9時40分となっていた。
久しぶりに来る県の総合グラウンドはとても広く感じた。
アップは試合の1時間半前から始めるのが俺のやり方である。
時計の針が8時10分を指した。
靴紐を下から順に一つ一つ丁寧に締めていく。
痛くない程度に、足の形を変えない程度に。
しかし、それでいて足にはフィットさせる絶妙な加減。
結び終わると軽くジャンプしてその感覚を確認する。
俺の本日のアップメニューはストレッチ5分、ジョギング15分、200メートルを一本としている。
サブグラウンド迄の数十メートルの間に、気持ちを走り一点へと切り替えさせる。
ストレッチ。口を閉ざし、心に問いかける様にゆっくりゆっくりと身体の筋肉を伸ばしていく。
(よし)
静かにその完了を語り、まずは歩き出す。
腕を後ろに引き、その時一番足が反応する強さ、角度を再確認する。
腕振りのスピードを上げるに従い、足の回転も速くしていく。
無意識にジョギングの態勢に入ったら成功だ。
後は気持ちを切らさないように15分間走り続ける。
心臓の鼓動が早い。
足の裏の感触が鋭い。
少しの傾斜に反応し、身体が左右に揺れる感覚がある。
15分が過ぎた。
徐々にスピードを緩め、それで完全には止まらず歩きながら、サブグラウンド第三コーナーに移動する。
その200メートル。俺の足は心は、まだ左右に揺れていた。
★
「1組目の最終コールを始めます」
補助員の先生の声が響き、1組目の8人が先生を囲むように集まった。
今日の800メートルは6組。つまり、計48人がエントリーしている。
シーズン明け直ぐということがあるのか、エントリーは総体の半分程度である。
「7レーン、401番」
俺のゼッケン番号が呼ばれた。
「はい」
右手を挙げて存在を示すと、次は下ジャージを下げて、腰に付けてある〝7〟という数字を見せる。
ゼッケン番号は選手一人一人に割り当ててあり、それは一年間変更はされない。
腰ナンバーの方は試合毎に変わり、自分の走るレーンがその番号に相当する。
俺は呼び出しに備え、ジャージを脱いでユニフォームだけの服装になる。
ちょうどその時
「では、1組目はスタートラインに移動してください」
俺の鼓動が一段早まる。
正直俺はこの感覚が好きではない。
どうしょうもない不安にかられるからだ。
もう逃げ出す事は出来ない。
〝オン・ユア・マークス〟
機械を通した音。
「お願いします」
全員が言ったのであろうが、聞こえたのは自分の声だけ。
白線をギリギリ踏まない所に左足を置き、次に右足を下げる。
スパイクのピンが上手くトラックに刺さらず、姿勢が安定しない。
(まぁ、しょうが無い)
体重をかけて無理やり、ピンを刺すと、視線をやや先のトラックへと向ける。
パアン!
始まりの音は乾いていた。
「ああ、お互いにな」
今日はシーズン明け最初の試合。
俺達はどちらも800メートルにエントリーしている。
スタート時間は女子が9時20分、男子が9時40分となっていた。
久しぶりに来る県の総合グラウンドはとても広く感じた。
アップは試合の1時間半前から始めるのが俺のやり方である。
時計の針が8時10分を指した。
靴紐を下から順に一つ一つ丁寧に締めていく。
痛くない程度に、足の形を変えない程度に。
しかし、それでいて足にはフィットさせる絶妙な加減。
結び終わると軽くジャンプしてその感覚を確認する。
俺の本日のアップメニューはストレッチ5分、ジョギング15分、200メートルを一本としている。
サブグラウンド迄の数十メートルの間に、気持ちを走り一点へと切り替えさせる。
ストレッチ。口を閉ざし、心に問いかける様にゆっくりゆっくりと身体の筋肉を伸ばしていく。
(よし)
静かにその完了を語り、まずは歩き出す。
腕を後ろに引き、その時一番足が反応する強さ、角度を再確認する。
腕振りのスピードを上げるに従い、足の回転も速くしていく。
無意識にジョギングの態勢に入ったら成功だ。
後は気持ちを切らさないように15分間走り続ける。
心臓の鼓動が早い。
足の裏の感触が鋭い。
少しの傾斜に反応し、身体が左右に揺れる感覚がある。
15分が過ぎた。
徐々にスピードを緩め、それで完全には止まらず歩きながら、サブグラウンド第三コーナーに移動する。
その200メートル。俺の足は心は、まだ左右に揺れていた。
★
「1組目の最終コールを始めます」
補助員の先生の声が響き、1組目の8人が先生を囲むように集まった。
今日の800メートルは6組。つまり、計48人がエントリーしている。
シーズン明け直ぐということがあるのか、エントリーは総体の半分程度である。
「7レーン、401番」
俺のゼッケン番号が呼ばれた。
「はい」
右手を挙げて存在を示すと、次は下ジャージを下げて、腰に付けてある〝7〟という数字を見せる。
ゼッケン番号は選手一人一人に割り当ててあり、それは一年間変更はされない。
腰ナンバーの方は試合毎に変わり、自分の走るレーンがその番号に相当する。
俺は呼び出しに備え、ジャージを脱いでユニフォームだけの服装になる。
ちょうどその時
「では、1組目はスタートラインに移動してください」
俺の鼓動が一段早まる。
正直俺はこの感覚が好きではない。
どうしょうもない不安にかられるからだ。
もう逃げ出す事は出来ない。
〝オン・ユア・マークス〟
機械を通した音。
「お願いします」
全員が言ったのであろうが、聞こえたのは自分の声だけ。
白線をギリギリ踏まない所に左足を置き、次に右足を下げる。
スパイクのピンが上手くトラックに刺さらず、姿勢が安定しない。
(まぁ、しょうが無い)
体重をかけて無理やり、ピンを刺すと、視線をやや先のトラックへと向ける。
パアン!
始まりの音は乾いていた。
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