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変わりゆく日常
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あれから一週間、俺の日常には大きな変化が訪れている。
毎朝、川沿いの道を走る、そんな固定されていた一日の始まり。
俺は今日もその道を走っている。
つまり、変わったのは俺じゃない。
一日の始まりが2人になった。
動いた日常。川の流れが常であるように、この変化は必然だったのかもしれない。
それを言葉にする術は知らない。
だからこそ、俺はそれを心に感じ、そして刻む。
忘れたくない想いだから。
二日目には一緒に走るようになり、三日目には一緒に家を出るようになり、四日目には学校生活など、陸上以外の話もするようになった。
だからであろうか、学校が始まる日、家の前で江川と合流し、一緒に学校へと登校するのに違和感は感じなかった。
学校は徒歩で15分程の距離がある。
俺の登校時間は人より少し早い。
理由はいくつかあるが、常に余裕を持っていたいという事が核となるのは確かだろう。
(早く学校に行けば、宿題や予習を忘れていても補填がきくからな)
俺達は他の通学者を邪魔すること無く、道に並び談笑しながら、目的地への距離を縮める。
そんなこんなで学校に着くのはだいたい7時30分。
朝のホームルームが8時15分なのを踏まえると、ほんとに気持ち早い程度の時間である。
江川とは校舎の1階で一旦のお別れである。
校舎は三階建てで1階が一年生、2階が二年生、3階三年生の教室になっており、それぞれ一学年5クラスの田舎にありがちな小規模な高校である。
「じゃあまたな。放課後、競技場で練習するけど来る?」
「はい! もちろんです!……でも」
彼女にしては珍しく歯切れが悪い。
一週間は長いわけではなかったが、密度は大きく、これくらいの事は容易に感じとれた。
都合の悪い事も良い事もさらけ出す彼女が周囲を気にする素振りを見せる。
例のごとく、人通りは少ない。
僅かな数の生徒も気に止めることなく素通りしていく。
それに対し分かりやすく安堵する彼女。
「あの、私まだ学校に詳しくないので競技場の場所も知らなくて……案内とかしてもらえますか?」
音が消えていく感覚、反復される一つの音。
それが意味なす形として認識されるのにほんの少しの空白が生まれる。
それでも、深い思考はしたくなくて。
「……なんだそんなことか」
ちょっと、ぶっきらぼうな音を空白へと続かせた。
彼女の瞳が不満そうにこちらを見上げる。
何故恥ずかしがっているのかは分からないが、時間が経つにつれて、その瞳は潤いを増していく。
(いや、ずるいよ)
全くこのままでは周りからいらぬ誤解を招きかねない。
後輩をいじめた等という噂をたてられた日には、本当の意味で独りになる可能性がでてくる。
────それに、単純にこれは男子キラーの構図である。
このままだと平静を保てないのは、こちら側である。
「了解。じゃあ昼休みに」
顔が上気しているのを見られたくなくて、顔を逸らしがちに、短い言葉を返す。
傍から見たら耳まで赤い為一目瞭然なのは、彼だけが知らない事実である。
「ありがとうございます! じゃあ、楽しみにしておきますね」
彼女は教室に戻りながら、一度振り返り頭の上で大きく腕を振る。
俺も仕方なく、胸の前で小さく手を振ってそれに答える。
それに満足したのか、彼女は満足そうな笑を浮かべて今度こそ背を向けた。
紛れもなく、いつもの江川だ。
それを見届けると俺の足も教室へと向かう。
今までは苦痛だった階段が、何故か少なく感じられる。
ふと、気づくともう3階までの階段を登りきっていた。
「おはよう」
大きい声ではないが、朝の数人の教室ではその声はよく響く。
「「おはよう」」
前にも言った通り、俺は別に独りという訳ではない。
窓は全て締め切られているが、夜の内に冷えた空気はまだその存在を感じさせる。
だからであろうか、寒気の中に入ってきた暖気に対し、教室内の反応は早い。
「何かいい事でもあった?」
「うん」
何でもないはずの朝の一コマ。
しかし、俺がこの時点において学校の日常をも変わり始めていた事に気づくのは、数時間後のことである。
毎朝、川沿いの道を走る、そんな固定されていた一日の始まり。
俺は今日もその道を走っている。
つまり、変わったのは俺じゃない。
一日の始まりが2人になった。
動いた日常。川の流れが常であるように、この変化は必然だったのかもしれない。
それを言葉にする術は知らない。
だからこそ、俺はそれを心に感じ、そして刻む。
忘れたくない想いだから。
二日目には一緒に走るようになり、三日目には一緒に家を出るようになり、四日目には学校生活など、陸上以外の話もするようになった。
だからであろうか、学校が始まる日、家の前で江川と合流し、一緒に学校へと登校するのに違和感は感じなかった。
学校は徒歩で15分程の距離がある。
俺の登校時間は人より少し早い。
理由はいくつかあるが、常に余裕を持っていたいという事が核となるのは確かだろう。
(早く学校に行けば、宿題や予習を忘れていても補填がきくからな)
俺達は他の通学者を邪魔すること無く、道に並び談笑しながら、目的地への距離を縮める。
そんなこんなで学校に着くのはだいたい7時30分。
朝のホームルームが8時15分なのを踏まえると、ほんとに気持ち早い程度の時間である。
江川とは校舎の1階で一旦のお別れである。
校舎は三階建てで1階が一年生、2階が二年生、3階三年生の教室になっており、それぞれ一学年5クラスの田舎にありがちな小規模な高校である。
「じゃあまたな。放課後、競技場で練習するけど来る?」
「はい! もちろんです!……でも」
彼女にしては珍しく歯切れが悪い。
一週間は長いわけではなかったが、密度は大きく、これくらいの事は容易に感じとれた。
都合の悪い事も良い事もさらけ出す彼女が周囲を気にする素振りを見せる。
例のごとく、人通りは少ない。
僅かな数の生徒も気に止めることなく素通りしていく。
それに対し分かりやすく安堵する彼女。
「あの、私まだ学校に詳しくないので競技場の場所も知らなくて……案内とかしてもらえますか?」
音が消えていく感覚、反復される一つの音。
それが意味なす形として認識されるのにほんの少しの空白が生まれる。
それでも、深い思考はしたくなくて。
「……なんだそんなことか」
ちょっと、ぶっきらぼうな音を空白へと続かせた。
彼女の瞳が不満そうにこちらを見上げる。
何故恥ずかしがっているのかは分からないが、時間が経つにつれて、その瞳は潤いを増していく。
(いや、ずるいよ)
全くこのままでは周りからいらぬ誤解を招きかねない。
後輩をいじめた等という噂をたてられた日には、本当の意味で独りになる可能性がでてくる。
────それに、単純にこれは男子キラーの構図である。
このままだと平静を保てないのは、こちら側である。
「了解。じゃあ昼休みに」
顔が上気しているのを見られたくなくて、顔を逸らしがちに、短い言葉を返す。
傍から見たら耳まで赤い為一目瞭然なのは、彼だけが知らない事実である。
「ありがとうございます! じゃあ、楽しみにしておきますね」
彼女は教室に戻りながら、一度振り返り頭の上で大きく腕を振る。
俺も仕方なく、胸の前で小さく手を振ってそれに答える。
それに満足したのか、彼女は満足そうな笑を浮かべて今度こそ背を向けた。
紛れもなく、いつもの江川だ。
それを見届けると俺の足も教室へと向かう。
今までは苦痛だった階段が、何故か少なく感じられる。
ふと、気づくともう3階までの階段を登りきっていた。
「おはよう」
大きい声ではないが、朝の数人の教室ではその声はよく響く。
「「おはよう」」
前にも言った通り、俺は別に独りという訳ではない。
窓は全て締め切られているが、夜の内に冷えた空気はまだその存在を感じさせる。
だからであろうか、寒気の中に入ってきた暖気に対し、教室内の反応は早い。
「何かいい事でもあった?」
「うん」
何でもないはずの朝の一コマ。
しかし、俺がこの時点において学校の日常をも変わり始めていた事に気づくのは、数時間後のことである。
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