俺を彩る君の笑み

幸桜

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出会い

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 20XX年 元旦 午前5時

  進行方向、長く東西に伸びる川が朝日を受けて、その内を眩しく強調する。

  それと同時に河川敷の植物達も一斉にその顔を覗かせる。

  今では日課となった朝練で迎える初の朝日である。

  汗か朝露か、柔らかな光に照らされた身体も、周りと等しくその恵みを反射している。


(そろそろストレッチでもしますか)


  既に走り始めて一時間、川沿いの道を12キロ程走り、身体の酸素は程よく循環し、筋肉もほぐれている。

  近所を流れる川、それは150メートル程ある川幅で約1キロメートルおきに向こう岸へ渡る橋がかかっている。
  親切な事に、その橋の架かる所には両側ともに木のベンチが一つ置かれていた。

  そこに創られた小さなスペースの一つが俺の朝の〝特等席〟である。
 
  朝の静かな自然と、柔らかな陽光。
  そこで練習の最後となるストレッチをしたら朝練の終了である。

  高校に入学して一年八ヶ月。いつもの変わらない日常である。



  だから────今日という日に彼女と出会ったのは全くの不意打ちであった


  軽やかに刻まれるリズム。
  一定の速いペースでアスファルトを蹴る音。

  その音は徐々に俺の特等席の方へと近づいてくる。

  ちなみに、先程まで走っていた道とこのスペースの間には俺の腰くらいの高さの木が植わっている。
  よく公園等で目にするブロッコリーみたいなやつだ。

  つまり、何が言いたいかと言うと、座ってストレッチ中の俺からはその音の発信源は見えていない。

(珍しいな)

  俺が朝練をしている時、人と出会ったことは一度もない。
  ここで人が現れ出すのは少なくとも時計の針が2周ほど回った頃だ。

  その時間になら多数の制服姿がこの道を歩いていく。
  もちろんそこには俺も含まれる。


  一人。川沿いの道を歩いていく。

 ────いや、別に俺がボッチというわけでなく、単純に家の近いものがいないだけだぞ!


  ……ごほんッ!


  気を取り直して……。

  音源はすぐ側まできている。
  微かな息づかいも聞こえる。

  ふと、珍しい客人の顔を見たくなる。
  俺と同じようにこの道を走っているのならもうすぐここを通過するはずだ。

  それなら、木が途切れる瞬間にその横顔を拝むことが可能なはず。

  また、音が近づく。その音源はすぐ側だ。
  数メートル以内の足音なら、部活柄その距離を判別可能である。

  おそらく時速は15キロメートルほど。

(よし、……今っ!)


「はっあああああ────っ!!!」

「きゃあああああ────っ!!!」


  顔が見えた。横顔? 否、全部見えた。

  〝空に浮かぶ女の子〟

  彼女が現れたのは、〝木の上〟
  確かにジャンプすれば超えられない高さではない。

 しかし、……────普通飛ばんだろ!?

  その思考にコンマ数秒。

  目の前に女物のランニングシューズが迫る。
 
  空を飛ぶ女の子の目が、驚きから鋭いものへと変貌する。


  (あっ、こいつアスリートだ)


  こんな状況ながらに、そんな感想が浮かぶ。
  それほどまでに彼女の目は真っ直ぐだ。

  彼女の足が空中で大きく前に伸び、更に両腕をゆっくり後ろに引くとそのまま前に振り抜く。
 
  とんでもない跳躍力。
  それに空中で腕を移動させ、重心をずらす。

  それら反動は、間違いなく彼女の飛距離が伸ばす。


(こいつ、俺を飛び越すつもりか?)


  彼女の身体は放物線を描き落下し始める。


(やっぱりな)


  その落下はお尻から。まるで走幅跳の見本のようなフォームである。
  まぁ仕方がない。


(やっぱりな。……こいつ俺の上に落ちる)


  いくら飛距離を伸ばしたと言っても限度がある。
  それに、これは常人なら思考はまだ何とかと言うレベルである。
  そもそも俺には、身体が動く時間も余裕もない。

  彼女だけがはっきり動く世界。
  彼女の頬が緩み、いたずらっ子のような顔が覗く。

  やっとこさの動作で俺の頬も緩む。

  彼女の尻は俺のお腹に向けて落ちてくる。

  そこで俺の意識は一旦途切れる。


 ────皮肉にも最後に脳裏に浮かんだのは、頬への命令を腹筋硬化に伝達しなかったことへの後悔と


  朝日のような和みの笑顔
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