澄清の翼

幸桜

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1章 サバイバル

勝鬨の炎

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  銃声

  山のあちこちで戦闘が始まった。

  夜空の視界は既に色を無くしている。
  あの時の感覚と同じ。

  しかし、一部だけ、されど大きな違いがある。

  道を創る二つの存在。

  夜を照らす〝月〟と〝星〟
  迷い出た生物たちはその身体を金色に貫かれ、離脱する。

  ────まず2人

  夜空、ケイリー組の会敵は早かった。

  理由は主に2つ。

  一つ目はBチーム中、二番目に派手な戦闘開始。
 二つ目は視界良好な斜面からの進撃である。

  そしてここまでの流れは計画どおり、これからの計画は2パターンが用意してある。

  それを決めるのは二回目の会敵。

  よりリスクが高く、それでいて2人の本命であるパターンに備え、ケイリーはその銃を山頂へと向ける。
  
  考えられる一つ目のパターンは、敵小部隊による連続攻撃。
  これは、一回目の総攻撃時のパターンと同じ。
  その規模縮小版と思われる。

  しかし、こちらには前回の最大規模で実施された攻撃を返り討ちにした夜空がいる。
  他の組は別として、少なくともこの組に仕掛けてくるのは可能性は低いであろう。


  二つ目のパターンとして、第一小隊、そのスナイパーによる狙撃である。
  これについては相手が出した手札のみで考察した、敵の最有力手である。

  しかし、これはこちらの主観だよりのため、決定面にかける点で不安要素が大きい。
  そのためその可能性は決して低くはないにしろ、高いとも言い難い。

  そこでその可能性を上げるために行われたのが、戦闘開始のパフォーマンスであった。

  まず第一段階、Bチームの主力2組が激しい狼煙を上げてその存在を強調。
  それを隠れ蓑にして残りの一組が進撃を開始する。

  第二段階、初会敵をしりぞけ、主力2組のみが真っ向から進撃を行う。
  この間、戦力に劣る残りの組────磯崎等2人の第四小隊が前作戦で戦場に放棄してあった〝MG42〟を回収する手はずになっている。

  その後は小隊のタイミングで隠れながら前進し、山頂までの距離を詰めるのだ。


  そして、第三段階、────敵主力の削り



  〝月〟と〝星〟が煌めく大地、その周囲は文字通りの静寂に包まれている。

  その静寂に異質な〝沈黙〟が侵入する。

  注意しておかなければ、そもそも来ることが予測できていなければ。
  その沈黙は確実に静寂を包み込んだ事だろう。

  夜空の身体が前に倒れる。
  傍目には気を失ったことを疑うほどの無駄のなさ。

  そして一瞬後に襲う、沈黙の一撃。
  それは、先程まで夜空の頭があった位置を通過し、その新路上の岩肌をごっそりと削り取る。

  続けて二発目、正確な〝狙撃〟は今度もまた、夜空に向けて放たれる。

  跳躍。今度は横っ跳びに身を投げたしてその一撃を回避する。
  夜空はその勢いを殺さぬように回転すると岩肌の窪地へと飛び込んだ。

  またその直後に窪地の端に3発目が命中する。

  ────……スナイパー!

  一回目の総攻撃においてBチーム壊滅への引き金を引いた敵。

  結局、前作戦では夜空の活躍中に離脱され、取り逃がした。言わば前作戦の続きとも取れる敵であった。

  それらを踏まえた上で、スナイパーは夜空とケイリーの今作戦での初期第一目標に指定されている。

  そのための〝掴み〟は成功した。
  スナイパーを倒す上でのノルマともなる条件、敵位置の把握である。

  


  激しい息遣い。先程から頭痛と目眩は強烈な酸素不足を訴え続けている。
  しかし、夜空の呼吸は未だ遅い。

  深呼吸でもしようものなら、そこで緊張が緩み、筋肉が緩み、隙が生まれる。

  ……もう少し

  私は1人じゃない。
  それに……元々〝狙撃手〟の相手は私じゃない。

  周りの音が増えてきた。どれも好き勝手に意味を持たないように。
  否、私が意味を認識出来ていないだけ。

  集中力が途切れ始めている。
  そろそろ限界だ。



  〝夜〟の正体は、一言で言えば脳の活性化である。

  その内、主となる恩恵は大きく分けて2つ。

  脳の〝演算能力の向上〟による早期の状況把握、それと情報を処理する前の段階での〝情報の精選〟である。


  夜空の動作が機敏になるのはこの演算能力による早期の状況把握に由来する。

  そして本命、〝情報のより分け〟それこそが〝夜〟を創り出す本質であった。

 ────夜の色彩は昼に比べ……
 ────夜の音は比べ……
 ────夜の匂いは昼に比べ……
 ────夜の生命は昼に比べ……


              少ない


  昼。その情報過多とも言える状況下において、必要な情報のみを認識し、その限定された情報のみを演算する。

  つまり、〝昼の夜〟である。

  そこに月や星を創る、もしくは夜そのものを背景とする等の応用は使い手次第と言ったところか。


  世界に色が戻る。白黒の世界は今や元の景色を取り戻そうとしている。

  それが完全に元に戻る瞬間、夜が最後に写し出した金色の光。
  地上に現れた星。一等星の輝きは夜空の頬を照らした。

  
 ★


  外した!?


  ケイリーの放った弾は敵スナイパー近くに着弾し、小さく砂埃を上げた。

  彼女の腕に抱えられるのは〝M1ガーランド〟
  弾は残り7発。リロードをする事は大きなスキを生み、敗北を近づけさせてしまう。

  敵との距離、およそ500メートル。

  夜空の頑張りによってその位置は正確に確認出来ている。

  500メートル。これは、この銃の最大有効射程であると同時に、〝空〟において彼女の愛機〝F6Fヘルキャット〟の必中射程距離でもあった。

  空と陸。その違いを挙げていけばキリがない。
  だからこそ、ここで敢えて目を向けるのはその共通点。

  絶対の自信、空において培われた技術に裏付けられた自信は、場を変えてなお、それを価値あるものへと保ち続ける。


  発泡炎!


  前方のそれが見えるとほぼ同時に数メートル左側の地面が爆ぜる。

  次弾照準、東よりの風。
  この銃の弾道はまだ掴みきれていない。

  発射!

  今度の弾は初弾より若干敵に近く命中する。

  再び前方より発泡炎。

  左方1メートルに砂埃。時間が無い。弾は後6発。────これは使いたくはないが最終手段用にガーランドに使用可能なグレネードランチャー、それと弾となるグレネード3発も携帯している。

  しかし、その射程距離は350メートル。期待は出来ない。


  次弾照準。発射!
  更に砂埃が敵の影へと近づく。

  そしてまた同じように、〝沈黙〟もケイリーへと近づいてくる。
  

  ……よし、後一発────っ!


  弾着の競走はもうすぐ決着がつく。
  そう、これを当てれば。

  「キャッ!」

  直近に着弾っ!!

  岩が爆ぜ左側からバランスが崩れる。そこに追い込むような衝撃波。
  身体が仰け反り、仕方なくその反動を利用して2メートルほど後方の岩陰へと滑り込む。


  一応準備していた回避経路だ。

  
  案の定その隙を狙い敵の弾が襲ってくる。
  左足に僅かな衝撃、程度は分からないが、結果的にその弾の勢いで回避の勢いが加速し、命は無事に岩陰への侵入を果たす。


  しかし、これは敗北である。
  次にあのスナイパーの弾丸は標的を変え、他の仲間を襲う事だろう。

  そうなってしまっては勝ち目はない。
  スナイパーの一番の利点、それは認識外からの攻撃である。

  不可視の距離からの訪れる突然の死のお告げ。

  その怖さがあるからこそ、夜空たちはまずスナイパーの位置を割り出したのだ。

  負けるのか……

  ケイリーの頬を伝って雫が落ちる。
  一滴、また一滴。

  岩石に落ちた涙は染み込まず、水面に落ちたかのように微かな反射を持って音をたてる。

『まだだ』

  その音が聞こえたからなのか、励ます声が聞こえる。
  だがこの優しさは逆にケイリーを追い詰める。

  そう、もう既にこちらの手札は切った
  

『まだだ』


  今度は優しさに力を込めた声。

「……どうして、どうしてそんな声が出せるの?」

  涙声を隠すこともせずにケイリーの言葉は紡がれる。

『あなたが私を、小隊長を信じてくれるのだから私の言う通りに動いて』

  ────しょう、た、いちょう?

  その響きにやっと彼女の心が反応する。
  岩に雫が染み込んだ。

  雫は見えない隙間を伝い、ゆっくりと、されど深く深く侵入する。

  熱い涙。

  やがて、核へと至った涙。
  それは、その片隅に置かれた思いを覆う。

   ────小隊長────




『────という事よ、やれる?』

  そこにあるのは眼に光を宿した少女達。
  潤った瞳のその奥、確固たる光は戦意の光。

「じゃあ私のタイミングでいいのね?」
  
『もちろん! いつでもどうぞ~』

  ケイリーは〝その〟準備を始める。
  「準備オーケー」
  
  無言の信頼に答えるのは無言の行動。
  後の意思疎通は言葉では間に合わない。

  私も空に生きる女だ。意地をを魅せてやる。


  爆発する。生じるのは勝鬨の炎。
  燃える。熱き魂を糧としてそれは燃え上がる。

  「ファイヤァァァァ!!!」

  一番星が地上に降り立ち、


 咆哮をあげた。
  



  
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