不幸ヤンキー、"狼"に狩られる。〜跳躍〜

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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狼と赤ずきん。

【閑話休題】不幸ヤンキー、”狼”に恥辱される。《前編①》

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 駐車場に停めてある軽自動車に電源を入れてからカーナビを起動させ、哉太が今住んでいる家…彼岸花ひがんばな さちの家の住所を検索して確認し、発進させた。
 彼岸花 幸とは赤い髪を2つに束ね、鋭い目つきをしている色黒で小柄な青年のことを差す。その風貌で喧嘩を吹っ掛けられることが大いにあるのだが、どんな不良達相手でも喧嘩にめっぽう強い…地元では不良にはかなり恐れられている存在。…赤い髪をなびかせ、そして、身体が小さい割にはどんな相手でも半殺しでぶちのめすほどの強さから取られた異名は”不幸の花人はなびと”と呼ばれ、恐れられている。のだが…実は喧嘩は売られることは多々あるが、彼は自分から売ったことは一度も無く、しかも苗字からも分かるほど不幸を振り被っている気苦労な青年で、哉太と出会う前は不幸続きだったらしい。
 麗永が初めて会った際には幸は少々、言葉足らずで無知な一面もあったのだが、最近になっては勉学に励み、様々なことを覚えるようになってきている。
 ―恋人かつ同棲している哉太曰く、『昔の花ちゃんは結構おバカだったし、素直じゃなかったから、口説くのに手間取った~!』とニヤつきながらのろけ話を語っている姿を麗永は車内のクラッシク音楽を聴きながら思い出しては、なんとなく深く息を吐いた。
 …場磁石君のことだ。彼に何かをしたんでしょうね。…全く、彼岸花君が彼のおかげで今が幸せなのかは…。
「彼岸花君にしか分かりませんね…。…そういえば言ってましたか。場磁石君ともで出会ったと聞いていますし…?」
 また息を吐いて彼は音楽に浸る前に呟く。
「…あのクズ人間はどこまで人に迷惑を掛ければ」
 音楽を聴きつつも運転に集中をする麗永は、人間嫌いなくせに信頼している人間には迷惑を掛ける自己中な”狼”哉太に疲れを覚えた。


 車を停めて彼岸花家に向かいインターホンを押すと、出てきたのは幸…ではなく同居人である少女のこころであった。
 囲戸かこいど こころ。小学5年生とは思えないほど達観した性格と大人顔負けの名前の通り、ある意味心が広い少女は、とある事情により幸の家で暮らしている。麗永ともで対立をしたのだが今ではちゃんと和解し、たまに遊びに来ることもある関係となっている。
 インターホンで麗永だと分かった心は、ドアを大きく開けて彼を出迎えた。
「おはようございます。今、撫子さんもいらっしゃってますよ。…こんな早くにすみません。…その、哉太君が悪いとは思うんですけど…」
 心が小学5年生とは思えないほど丁重かつ礼儀正しく挨拶をし、室内へ案内する。
「…とりあえずは、おはようございます…ですね。心さんも、今日はお休みだというのに…。ちゃんと起きられて偉いですね~。場磁石君に関しては散々迷惑を掛けられていますから、お気になさらないで下さい。…それよりも」
 すると麗永は彼女にこのような質問を投げかけた。それは、哉太がなぜこのような状態であったのかというのと…もう1つ。
「心さん。…彼岸花君は部屋にいらっしゃるんですか?」
「あ…はい」
「…恐らく、いや。必ず、絶対に場磁石君が悪いのは承知なんですが…。彼が居ないと話にならないというか…」
 すると心は少々困った顔をしてから首を軽く横に振って悲しげな表情を見せていた。…つまり、彼女にも分からないらしい。…これはかなり困った。
「喧嘩でもされたんですか?」
 すると彼女は不安げで悲しげな顔をして彼を案内し空を見上げる。その瞳は本当に何も分からずに自分でも探りたいが探れないという様子だ。
「…喧嘩、というか。幸君の部屋に入って聞いてみても何も答えないから、分からなくて。…それに」
 ―話さないんです。幸君がどうして哉太君と喧嘩をしたのかが。
「…彼岸花君がですか」
 …そんな酷いことを言ったのか、あのバカ狼は。
「私のを使おうとすると、幸君は…とっても傷付いたような顔をするから使えないし」
 悲しげにうつむく彼女に麗永は考え込んでから本当に何があったのかが気になっていた。優しい彼女のことだ。気を遣って幸が自分から話してくれるのを待っているのだろうが…しかし困った。
「…本当に場磁石君は何をしでかしたのか。…二股だろうが何股だろうが、掛けそうなクズ狼ですが、彼岸花君にはぞっこんの彼です」
 ―じゃあどうして?
 首を傾げている麗永に心は少しはにかんでからリビングのドアを開けた。…その表情はどこか疲れているような、悲しんでいるような様子が伺えた。
「…とりあえずくつろいで下さい。申し訳ありませんが、私は幸君の様子を見に行きます」
 …やはり彼岸花君が心配なのですね。こうやって気に掛けてくれている方が居て、良かった。
 だから麗永は優しげに微笑んでは申し訳なさそうにしている少女へ声を掛ける。それは心の底から思っていることであるから。
「大丈夫ですよ。逆に感謝をします。…行ってあげて下さい」
「…ありがとうございます」
 そして心は彼をリビングへと通し幸の部屋へ行ったのだ。
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