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花人の謎

不幸ヤンキー、”狼”に奪われる。【6】

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 監視カメラから見えた赤い髪をなびかせた色黒の…いや、愛しくて愛しくて堪らない恋人の存在に、哉太は唖然してしまった。両翼を生やしたその青年の姿は普段と打って変わりとても儚げで美しいと考えてしまうほどだ。そしてその大きな翼はとても力強い生命力を感じさせるほどだが、それでも尊さを感じてしまうのはなぜだろう。―そんな幸の姿と彼に抱かれている心の姿を見て、意識が明瞭になってきている哉太は悠然と椅子に腰掛ける玉緒に啖呵を切る。
「てめぇ…、幸や心に手を出したら殺すからな」
「お~、怖いな~。さっすが最強の”狼”や。…下手したら殺されるなぁ~」
「…今はなぜか使けど、お前の首をへし折れることは出来る」
「じゃあその前に…あんたの首でも貰おうか?」
 こちらも低い声で視線を向けられる玉緒に哉太は頭を巡らせる。能力を使用できぬように拘束もされているがそれだけでは無い。実際、哉太は手を使わなくとも音さえ響ければ能力を行使出来る力があるのだ。…にも関わらず、拘束されている間に色々と試し模索したものの、能力が使えないのだ。
 だから吠え掛かっていても玉緒は余裕な態度で最強の”狼”を侮蔑し嘲笑出来るのだ。悔しいがなぜそれが出来るのかは今の哉太には分からない。
「俺の命なんてどうでもいい。だから2人から…、幸から手を引け」
 それが切なる哉太の望みであった。しかしこの男には通用などしないのだ。
「それは出来ひん願いやな。…ワイの”リングスワン”で異空間に飛ばされて、能力を使えなくて、しかもワイが兄さんに殺されんようにしっ~かりと極太のロープで結わえているあんたになにが言える?」
 黒いダイヤの指輪を輝かせてにたりと笑う玉緒に哉太は普段よりもかなり口が悪い。
「…てめぇ、俺が意識が飛んでいたからっていい気になってんじゃねぇよ。…金髪のクズ野郎」
 額に青筋を立て力ずくで縄を解こうとする。だがやはり哉太でも解けないほどの太いロープなので舌打ちをした。そんな哉太の姿を見て愉快に笑う玉緒は哉太と同じく、捕えて気絶をしているフライとスピードにも汚く笑う。クツクツと笑う玉緒に哉太はブチギレていた。…こんな惨めな思いをするのは御免だが、愛しい幸が心配でならない自分も居るのだ。
「この金髪クソクズ野郎…。てめぇみてぇな卑怯なクズに幸やこころのシルバーを奪われてたまるかよ!」
「そりゃあこちらはげせんな~。じゃあ、この異空間から出たら兄さんはワイをどうする?」
「…この異空間から出たら、俺がてめぇをぶっ飛ばす」
 一瞬の間が空いたかと思えば、玉緒はソファから立ち上がり哉太の顎を掴んだ。そして自身に顔を寄せ、にたりと笑うのだ。
「…ええんか、そんなけったいな口聞いて。…兄さん、いや。兄さんが大事に、だ~いじにしてるこの…赤い髪の兄さんやかわええ女の子がこっちに来るんやで?」
「そ、それは…」
「…あんたの綺麗な顔が苦しんでもがく姿を見て…恐怖するかもせぇへんのに?」
「なに言って―」
 すると哉太は口も訊けないほどの激痛に襲われたのだ。
「ぐぁっ…がぁっ!??」
 それに満足をするように玉緒は再び優雅に椅子に座る。頭の中にムカデが這いずり回るような激痛に襲われた哉太はうずくまると商人の彼は冷酷な態度で示すのだ。
「この空間はワイがにしか能力が使えんのや。だからお前ん能力なんて使えないで」
「うがっ…、あぁっ…!」
 …苦しいし痛いし、…なんだよこれ? こんなクズに…幸や、心が…!
「さぁ~て、金づる2人を待たんとな。…じゃ、そういうことやから」
 汚く笑う玉緒に哉太は憤りと殺意で満たされるが、それでも哉太は愛しい2人を守りたかった。
「さ…ち、ここ…ろぉっ、来ちゃ…だめ…だ!!!」
 激痛で叫ぶ哉太の赤い瞳に映った花々の中には儚げに咲く赤と青の彼岸花が見事に咲いていた。
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