上 下
40 / 58
花人の謎

不幸ヤンキー、”狼”に奪われる。【3】

しおりを挟む
 …強い胸の痛みで立ち上がることさえままならない。愛しい恋人が…花ちゃんが、危険な状態に晒されてるというのに。
 激しい疼痛と戦っている哉太は能力で跳ね除けようと試みる。だが、玉緒の警戒心が強いのだろう。まるで胸を締め付けられているような激痛に襲われていた。
 …痛いし、苦しい…。でも花ちゃんが危ない目に遭っているのに…。
 ―どうして助けられない?
 サングラス越しから見える心が幸を庇う姿を見て哉太は声を上げたかった。…早く逃げて欲しいと。心と一緒にどこか安全な場所へ逃げて欲しいと。そんな思いが通じたのか、哉太の脳内に聞き慣れた声が哉太を支配した。
 ―その声はとても心地の良い冷たさで、痛みでむしばんでいた脳内に目がけて薬を投与されているような。そんな心地の良い冷たさを感じた。
『哉太君、私の声が聞こえるかな。…聞こえたら私の方を見て。視線だけでいいから』
 驚いて声を出してしまいそうだが、出さぬようにぐっと堪えた。すると哉太は視線だけではなく、首を心の方に向けたのだ。
 ―自分がサングラスを掛けているから合図が見えづらいかもしれないと配慮をしたのだろう。そんな彼の気遣いを汲んだ心は、玉緒に気づかれぬよう視線だけを哉太に向けてから冷静な声でテレパシーを送る。
『この玉緒って男の人の邪悪な心を読む限り、シルバーアクセサリーを渡して終わりというわけでは無いと思う。…ただでは済まされないよ』
 …やっぱりそんな男か、この金髪クソしゃちょーは。…今すぐぶっ飛ばしたいんだけど?
『哉太君、落ち着いて? 今の哉太君だけじゃ無理だよ』
 …っえ、なんで聞こえて?
 戸惑いを見せる哉太に今度はフライと目が合った。するとフライにも伝達が入ったのだろう。今まで生意気な態度を取っていた白髪の青年は、懇願するような視線を哉太に向けている。何を伝えているのかは分からぬがフライも自分と同じでこの状況を打破したいと思っているのかもしれないと、哉太は意を汲む。すると心が哉太に向けてとある指示を出した。
『私の残された能力…”テレパシー”を最大限に活用させて、哉太君とフライ君の能力を伝達させようと思っているの。…私だってお母さんの形見のシルバーを渡したくないし、みんなを助けたい。…だからお願い』
 ―私に考える時間を下さい。
 儚げな瞳をさせた少女、心に哉太はフライと目を合わせて頷いた。フライは小声で術を唱え、哉太は気づかれぬよう地面と空いた手で軽く手を合わせる。そんな彼らの指示を知らずに玉緒は傲慢不遜な態度で言い放つのだ。
「さぁ~て、もう一度尋ねるで。…そのアクセサリーをワイに渡してや」
「…そしたら3人は解放してくれるのですね?」
「それはそれや。これだけは誓えるで」
 …嘘だ。この人は嘘を吐いている。だからお願い…。
 ―2人とも、手を貸して?
「それじゃあ…早うっ!??」
 ―――ビュオッ!!!
 すると突然、大きな竜巻が心と幸を包み込んだのだ。初めは最小限の力だと2人は、哉太やフライは思っていた。たかが知れていると。
 ―だがその力は、とてつもなく強大な力へと変貌していき、気が付けば幸と心は突風に巻き込まれ、玉緒の前から消失してしまったのだ。一瞬の出来事にさすがの玉緒も呆気に取られてしまった。
「なぁっ!?? なにが…あったん…や?」
 戸惑いを見せる玉緒ではあるが一瞬何かを考えた。すると息切れをしている2人を見てしたたかに笑うのだ。
「あぁ…、そういうことか…。あかんわ~。あの嬢ちゃんのホンマもんの力を見たことが無かったさかい。…この2人が呪いで、ワイの”ハートイータ”で苦しませても、あの嬢ちゃんの前では払拭させてしまうんやなぁ~」
 なにが何だが分からない言葉を紡ぐ玉緒に、能力が弱まったおかげで哉太は少し口が聞けるようになった。…だがフライは気絶をしている様子である。
「…さすがは”一匹狼ロンリーウルフ”に近い男や。呪いに克服しつつあんな~。…そこの白髪のおチビさんは軽く気絶しつつあるけど?」
 すると哉太はドスの低い声で、今まで聞いた事の無い声で問い掛ける。
「…おい、どういうことだ。ヤンキー被りクソしゃちょーさんよぉ?」
「なにけったいな声出してんねん。おかしいな~、ワイの能力も弱くなってしもうたか~」
「…こころの力って、どういう…ことだ」
 根性で呪いを反発させて克服しようとしつつある哉太ではあるが、玉緒は想定内といった様子で鼻で笑っている。しかし忘れられているが、ここはテーマパーク。人通りだってかなり多い。いきなり男が倒れたかと思えば骸骨がいこつ達が青年を捕えられている姿を見て戸惑う人たちも多いのは当たり前だ。
 ―そんな周囲の賑わいに混じり玉緒は小指に嵌められた黒いダイヤに力を込めて術を唱えた。
「…異空間へと繋げ。ハッ!」
 すると哉太やフライ、そして骸骨に捕らわれているスピードに術を唱えた張本人の玉緒は消え去ってしまった。


『心、お前の本当の力はテレパシーだ。でもね、それだけじゃないんだよ?』
 幼き日の思い出。お父さんと能力を特訓して私の能力が、本当の能力がテレパシーだと分かった。お父さんにとっては使い勝手の悪い、ただ心を読むだけのことしか出来ない、なにも役に立たない私の能力。
 ―でも、それでもお父さんは必要としてくれた。お母さんの形見のシルバーのネックレスを私にくれて。それで言ってくれたんだ。
『テレパシーは心と心を繋ぐだけじゃない。読むだけでもない。なんだと思う?』
『…分からない。私は心の声しか、音や匂いや大きさしか分からないよ』
 するとお父さんは私の言葉で何かを思ったのか。すぐに私にお母さんの形見に力を注ぎ込むように言ってきたのだ。どうしてなのかを聞いたら…お父さんは私の頭を撫でて言ったの。
『テレパシーはな。その人のを繋げられる。でもその力は心だけの力では叶えられない』
『どういうこと?』
『…いつかきっと、分かる日が来るから』
 それでお父さんは私を抱き締めてくれた。お父さんの手はけがれてしまっていただろうけれど…私もそうだから。同じだったから、私もお父さんをぎゅっと抱き締めたのだ。
 …お父さん。私、分かったよ。テレパシーの本当の意味が。想いを伝えさせるのがどれほどの力を、人々の力を借りないといけないのか。…大変だけれど。でも私は…。
 ―幸君やみんなを守るために、戦うよ。…お父さん。
 飛ばされた先で幸が困惑している中で心は、自分の”心”と向き合うのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

ショタ18禁読み切り詰め合わせ

ichiko
BL
今まで書きためたショタ物の小説です。フェチ全開で欲望のままに書いているので閲覧注意です。スポーツユニフォーム姿の少年にあんな事やこんな事をみたいな内容が多いです。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

処理中です...