クスノキとアベリア

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《戦闘前》

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「誰か来た!」
「誰でも来ようが関係ねぇよ。……ぶちのめす」
 百日紅と見合わせて二人とも鋭い瞳で見合わせ対峙した。バタバタと音を立てて現れたのは――スーツを着た男性と警察の服を着た男性たちであった。
「なにやっているんですか、こんなところで!」
 若いスーツを着た男は「警察です!」言いつけて警察手帳を見せた。警察手帳には”刑事”と記されており、安月給のおかげかスーツがくたびれているようすの若い男に遭遇した。
 百日紅と見合わせた。
「お前、本当に刑事かよ。こんな騒ぎ大きくなっているのにさ」
「先生の言う通りだし。ていうか、事情聴取でもなんでもするからよ~、俺と先生は助けないといけない人たちがいるわけなんだよ」
 だが刑事たちは「そんなの自分たちがやりますから」などと無責任なことを言いだすではないか。
 さすがの楠もカッとなった。だからとぼけているウツギの点滴を外し「大丈夫か? 動けるか?」尋ねればウツギも軽やかに頷き、楠に背負われた。
「な、なにしているんです?」
 刑事が慌てた様子で声を掛けるが言わぬが花だ。百日紅と目で合図をして刑事や警察官たちを振り絞って逃走する。
 あっという間に逃げられたので一人の刑事が「追うぞ!」そう言って三人の後を追った。
 バタバタと後ろから付いてくる様子を見て百日紅が「良いんすか、こんな感じで~?」などと言っているが本人はノリノリな様子である。
 おそらく百日紅もあのバカ面な刑事は役に立たないと踏んだのだろう。だから楠の計画にも乗ったのである。
「良いんだよ。こうやってついてきてもらえれば、柳瀬の場所も突き止められる。――百日紅、スマホで状況確認だ。俺はウツギを担いでいるからできん」
 「うっす」と言って百日紅はスマホに耳を傾けて目木に連絡を取った。一応、楠は柳瀬が居そうなところを想起させるように巡らせると「地下室……」ウツギが読み取ったように呟くのだ。
「なんだって? 地下室……だと?」
「はい。俺の右目を通して伝わります。あと……」
「……どうした急に?」
 走りながら担いでいるので疲弊は感じているが次の言葉で一瞬に吹き飛んだ。
「俺は戦闘用のネイチャーブレインだったんですね。だから今――はらわたが煮えくり返っています」
 ウツギの言葉にいったん止まったものの、言葉の走りしか聞いていない百日紅は「先生、早く!」そう言ってエレベーターで地下室へ向かう。
 楠は今、左目を青くし覚醒しているウツギが心配でならなかった。 
 ウツギが戦闘用のネイチャーブレインでそれが自分が作ってしまったものであったら……申し訳なさを通して懺悔をしたかった。
「ウツギ、俺は今度こそ――お前を止めるからな」
 言葉を告げたがウツギに届いているのか不明である。だが無慈悲にもエレベーターで降りて階段で駆けて行くと――目木と黒鉄が転がっていた。
「メギにクロ!」
「二人とも無事か!???」
 二人とも呻いた声を上げて「うぅ……」そう呻いており、百日紅が拘束を外していった。すると二人はなにかを思い出したように身体を震わせたのだ。
「あれは……人間じゃ、ない……」
「あれは、化け物だ……!」
 わなわなと身体を震わせてビクつかせる二人になにがあったのかを探るように飴玉を差し出して事情を訊く。
 すると二人はその後の柳瀬について語ったのだ。
「あのじいさんに囚われてしばらく経ってから……ここにあった球体を呑み込んだんだ」
「多分ネイチャーブレインだと思うけれど、そしたら、か、怪物になってさ!」
 目木が言った途端にズドンと目木と黒鉄の間から木が生えてきたのだ。二人は硬直しているが、ウツギは違った。
 背負われている楠から飛び降りて二人を庇うように伏せる。
 すると木はウツギに方向を転換して攻撃してくるではないか。ウツギは走りながら避けて飛び降りていく。――その俊敏な速さに楠たちはついてこれない。ただ、奴は違う。
『やはりか、AB77―2005樹。それが本来の、お前の姿だ!』
 地下から現れたのはおどろおどろしい、禍々しい巨大な骸骨のような存在であった。だが木々が纏わせており、どこか急所なのかさえわからない。
 じっと睨めつけるウツギに骸骨へとなり果てた柳瀬はにやりと骸の肩頬を上げた。
『だからお前はネイチャーブレインにしなかったのだ。役に立つと思ったからな。だがお前は自我を持ったがあまり……。惜しいことをした』
「そんなの俺の勝手だ。――俺は俺の好きにさせてもらう。お前の為なんかじゃない。みんなの為に、お前と向き合って」
 ――ネイチャーブレインという存在を消滅させる。
 ウツギの瞳が白潤に染まる。柳瀬の肩頬がニヒルに微笑んだ。
『それは、お前自身も消滅する……ということだぞ。いいのか?』
「構わない。俺はみんなから、楠さんからたくさんのことを学んだから……それでいいんだ」
 勝手に承諾に勝手に戦闘態勢に入るウツギに楠は「待った!」そう言い放った。
 いろいろあったが、ウツギとはいい関係にもなれた。しかも恋人のような甘い生活さえも送れていないというのに――そんなウツギがあまりにも身勝手すぎる。
 巨大な骸骨相手に視線を合わせ唸り声を発するウツギに楠は何度も叫んだ。――やめろと。何度も言い続け、ウツギを止めようと声を張り上げるのだ。
 ウツギはそんな楠が大好きだった。……愛していた。植物探偵団も大事だが、楠の方が大事で大切であった。
 ――大切な存在は守りたかった。
「ありがとう、楠さん――!」
 巨大な骸骨相手に無謀にもウツギは単身で挑むのだ。
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