クスノキとアベリア

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《急展開》

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 偽楠こと目木がわざと捕らえられ、拘束をされようとした瞬間――ブレーカーが落ちたのだ。さすがの研究員もどういうことか混乱しており、その隙を狙って目木は拘束具を取り外しカツラと白衣を脱ぎ去って窓に飛び込んだ。
 窓は高さがあったものの、伝って歩くバルコニーがあったのでそこへ足を踏み込んだ。
「ふぅ~、これからクロかさっちゃんに連絡を――」
 と、言ったところでなんと黒鉄がバルコニーに居た。三人で行動していたのだと思っていた目木ににやりと微笑んで「一人じゃ心細いかと思ってさ」そう言って懐中電灯を取り出す。目木も同時に笑った。
「さすがは俺の彼氏じゃん。わかってんね~」
「当たり前だ、馬鹿」
「感動のチューをしたいところだけど、それよりもうーちゃんたちの安否だ。三人がどうなったか、連絡してみよう」
 着信はバイブレーションにしてある。百日紅に連絡を取ってみると、初めは繋がらなかった。だが何度も着信をしてみて五回目でようやく繋がった。
 二人は安堵した。――だが、百日紅はそうではないらしい。
「もしもしさっちゃん、メギだけど、うーちゃんは無事」
『姫が暴れだしたんだ! しかも今は先生に処置してもらってる!』
「……うーちゃんが、暴れた?」
 一体なにがどうしてというような目木と黒鉄に百日紅は怒った調子で『姫が暴れだして楠先生が止めたんだよ! 俺もチューしたかったのに!!!』さらには脈絡のない言葉まで言うものだから二人して顔をしかめていると、ゴツン! という音が聞こえ、通話主が変わった。
『もしもし、楠だ。とりあえずウツギは安定剤を投与してる。投与してそれが終わったらこの研究所を後しようとするつもりだ』
「するつもりじゃなくてしてよね、先生。まったく、もう~」
『まぁ、今はウツギのバイタルが安定しているから俺か百日紅のどっちかが目印に立っておく。――来れるか?」
 二人は顔を見合わせてニヒルに笑った。
「俺もクロも大丈夫だよ。だったらさっちゃんが来てくれる? 先生は眠り姫の目を覚ましてあげな~」
『眠り姫ってな……』
「そんなことよりも場所教えてよ。GPSでも把握しておくけれど、一応ね」
『……まったく』
 すると楠は場所を教えた。ここから少し離れた場所ではあるが目印の百日紅が立つとのことだ。 
 二人は暗い夜空を駆けては愉しげな様子で語りだす。
「ねぇクロ。どうして俺がうーちゃんを寝取ろうとしたのわかったの?」
「なに、お前本気じゃないだろう?」
「本気ではないけれど、うーちゃんを取ろうとして先生にチクったのクロでしょ。……妬いたの?」
 するとクロは「当たり前だ」そう言って足を止める。
「お前らしくはないなと思ったよ。変に気を持たせるような行為をしたり、逆に楠先生を逆撫でするような態度を取ってみたりさ」
「んで、どうしてそうしたのかわかる?」
 悪戯っ子のように笑う目木に黒鉄は手を取っては唇を開いた。
「じれったかったんだろ。二人の恋の行方が。……だから要らない情報を俺に垂らし込んでまで二人の距離を無理にでも詰めようとした。違うか?」
 すると目木は驚いた顔をしてから前を振り向き、黒鉄の手を握る。「さぁ、どうなんだろうね」そう告げて走る相棒で恋人の目木に黒鉄は惹かれるのだ。
 建物に侵入して懐中電灯であたりを見渡せば……どうしてだが楠が立っていた。
「楠先生、どうして……ここに?」
 黒鉄が近寄り声を掛けると。楠は歪に微笑んでいた。あまりにも歪であったので逃げようとする黒鉄の手を楠が仕留めようとして……目木の蹴りが入った。
「先生でも容赦しないよ! クロは俺ものだからね!」
 顔が熱くなりポカンと頭を殴る黒鉄に目木は「痛っ!」なんて言っているが、楠は歪に笑いながら向かってくる。
 黒鉄が躍り出て事前に作ったシャンプー入りの水鉄砲を発射させ目くらましをし、目木がその背後に迫って背負い投げをした。
 見事に決まったので「先生のばーか!」なんて言っていると……楠が小さな球体へと変わったのだ。
「え、先生じゃなかったの?」
「というか、なんだこれ?」
 目木と黒鉄が見あった。だが目木がその物体に触れて少し驚く。――あたたかい。まるで小さな子供の体温のように温かいと。
「なんだ、これ……?」
 じっくりと触れてみたいと思った瞬間――何者かに背後を拘束されたのだ。転がり落ちる物体を端に黒鉄は無事なのか見てみると、黒鉄のうめき声が聞こえる。
「クロ!!!!」
 大きく叫んだその時。
「君たちもか。――私の邪魔をする者は」
 明かりが一気に照らされて眩しさを感じて徐々に目を凝らす。……するとそこには、囚われている黒鉄が強張った顔をして男たちに拘束されていたのだ。
「ク、ロ……?」
 驚きで目を見張る目木と目の前に立っている白髪を長く結った男は銀縁眼鏡から覗く視線から笑みを零した。
「はじめまして、モルモットくん。私は偉大なる植物学者の柳瀬 龍一だ。なに、君たちがちゃ~んと従って、楠くんにも。そして私の大事なモノを取り返せば……なんてことはない」
「……どういう意味だ」
「そういう意味だよ。――連れていけ」
 すると目木と黒鉄は拘束されたまま、別室へと連れてかれたのだ。
 ――楠の天秤になれるかどうかを試すために。
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