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《アジサイ》
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「というわけで、今週から俺の見習い助手として働くようになった阿部 稔だ。皆、仲良くするように!」
「よろしくお願いします!」
教壇の前で深々と礼をしたウツギの視線に入るのは、少し挑戦的な顔をする目木の
姿であった。――ウツギは彼、いや”植物探偵団”からこんな難問を受けたのだ。
それは楠と裏庭で会ってからのことである。
『アジサイの謎って知っている?』
『アジサイ……ですか? あの庭に生えている?』
『そう。そのアジサイの有名な問題だよ』
楠と黒鉄は口を挟まずに、目木がゆっくりと説明をした。
『ある日本の家屋で殺人事件が起こった。でも、死体は見つかっていない。……そこの家はどうやったか知らないけれど、うまく死体を隠したようなんだ。――だけど、そこに生えているアジサイのおかげで、死体が隠されていることが判明し、逮捕に繋がった。……さぁ、どうしてでしょう?』
話はそこで終わってしまった。狼狽し、左目を白と青変化させるウツギに目木は『じゃあヒントね』そう告げて話し出す。
『日本というのがヒントだよ。これ以上は言えないな。……あ、あと。スマホで調べたら、うーちゃんのその奇麗に変わる左目を根ほり葉ほり聞くからそのつもりで』
『おい、目木……』
明らかに不遜な態度をした目木に楠が息を吐けば、『だって楠先生のお気に入りなんだからいいじゃん~』なんて言っている。隣に居た黒鉄は『お前の悪い所だな』そう言いつつも、戸惑っている様子のウツギに興味を示していた。
『期限は今から一週間後に楠先生の居る第三植物研究室で。ちゃんと本で調べるんだよ?』
挑発的な目木の視線にウツギは不安感を抱きつつも『やってみます』そう告げた。
――普段なら青くなる瞳は、今回は白く透明な色に映っていた。
紹介があってからほかのクラスメートや楠に聞いて、図書館へとやってきたウツギは圧倒的な広さに驚愕をした。――どの分野から調べれば良いのかがわからない。
漫画本もあったり、雑誌もあったりするのだがほとんどが植物だ。
(と、とりあえず植物の本を……)
建築だったり、庭師だったりの分野を省いて、ウツギは基礎的な内容の植物についての本を借りて読んでいく。
ちなみに楠に「調べる時に使え」とレポート用紙とシャーペンを買ってもらった。その時ふと思う。
――あぁ、この気持ちの正体が”嬉しい”なんだ。
楠の気遣いに自身の気持ちが判明し、筆を走らせていく。
……まずはアジサイについてだ。
アジサイには種類があるのだがpHと呼ばれる酸性やアルカリ性の有無で色が変化をするらしい。酸性やアルカリ性という単語もわからなかったので、基礎的な化学の本を引っ張り出して読んでいた。――豆知識という欄に”日本の土壌は酸性が多い。アメリカではアルカリ性が多い!”というように記載されていた。
「どうして日本家屋に限定をしたのだろう? アジサイの色って、どんな風に変わるのかな?」
ほかのアジサイについての本を開き、筆を走らせる。
アジサイは七変化と呼ばれる色調があり、始めは黄緑色でその後が青色、その次に赤になって、最後に白っぽくなることや、色の変化にはアントシアニンと呼ばれる色素があり、桜やほかの色がある花には持っている色素であるのも判明した。また、アジサイの色はアルミニウムの含量で色が決まるらしい。
……この材料でなぜアジサイに死体が埋まっていたのか?
……というよりも、どうしてアジサイの話になったのだろうか?
「うぅ……わからん。今日は疲れた」
(明日も植物園の掃除があるし、ここで切り上げよう)
ウツギはほかの植物に関わる本を借りて外へ出る。だがその前に……。
彼は第三植物研究室へとやってきた。それは自分が今まで頑張ってきた成果を褒めて欲しいから。――だから、褒めて欲しい彼の元へ行く。
ノックを三回鳴らし「どうぞ」と声がした。入室をすると、コーヒーを飲んでいる楠の姿が居た。
「お疲れ」そう言って冷蔵庫からココアを取り出し、疲れている様子のウツギに差し出した。ただ、ウツギはそれでは納得がいかないらしい。
「楠さん、――俺にキスしてください」
「……はぁ?」
かなり動揺してコーヒーを零しそうになる楠がおかしくて、ウツギは自分からキスをする。チュッと軽いリップ音ではあるが、まだ納得がいかないようだ。
「だめだな……。なんかスカってしません。うまくキスができないです」
「あのなぁ、俺とお前は男同士だしさ。スカッとしないよ」
「この前のキスはスカってしました。俺、勉強いっぱい頑張りました。……だから、してください」
強請るように見つめ合う視線をわざとするウツギに楠はたじろいでしまうものの、深く息を吐いて「少しだけだからな」そう言ってウツギの顎をすくい上げた。
「んぅ……んぅ……うん……」
口内をまさぐり、蹂躙し、歯列をなぞり息さえも奪われるほどの甘美なキスに、ウツギの頭は真っ白になる。瞳も大きくなったような、白と水色に委ねられて甘い時間を過ごす。――これでおしまいだと楠に告げられるが、ウツギが奪うようにキスをしていた。
「先生~、植物探偵団の依頼ないっすかって……わぉ」
「阿部!??」
入室してきた目木と黒鉄が見た光景は楠がウツギに押し倒されてキスをされている姿。……そしてまたしても。
「楠先生が……俺の姫を! 姫を奪った!!!」
――イケメンなんて滅びちまえ~!!!
……百日紅が号泣して走り去ってしまった。
「……あの、とりあえずさ。うーちゃん、先生を離してあげたら? 欲求不満なの
悪いんだけど」
「あ、う……うん」
キスの現場を目撃されて顔が上気したウツギは、淹れてもらったココアを飲んで俯きつつも楠を待っていた。
……お前、どっかに行けよと楠は内心思いつつも、植物探偵団の顧問として役目を果たすのであった。
「よろしくお願いします!」
教壇の前で深々と礼をしたウツギの視線に入るのは、少し挑戦的な顔をする目木の
姿であった。――ウツギは彼、いや”植物探偵団”からこんな難問を受けたのだ。
それは楠と裏庭で会ってからのことである。
『アジサイの謎って知っている?』
『アジサイ……ですか? あの庭に生えている?』
『そう。そのアジサイの有名な問題だよ』
楠と黒鉄は口を挟まずに、目木がゆっくりと説明をした。
『ある日本の家屋で殺人事件が起こった。でも、死体は見つかっていない。……そこの家はどうやったか知らないけれど、うまく死体を隠したようなんだ。――だけど、そこに生えているアジサイのおかげで、死体が隠されていることが判明し、逮捕に繋がった。……さぁ、どうしてでしょう?』
話はそこで終わってしまった。狼狽し、左目を白と青変化させるウツギに目木は『じゃあヒントね』そう告げて話し出す。
『日本というのがヒントだよ。これ以上は言えないな。……あ、あと。スマホで調べたら、うーちゃんのその奇麗に変わる左目を根ほり葉ほり聞くからそのつもりで』
『おい、目木……』
明らかに不遜な態度をした目木に楠が息を吐けば、『だって楠先生のお気に入りなんだからいいじゃん~』なんて言っている。隣に居た黒鉄は『お前の悪い所だな』そう言いつつも、戸惑っている様子のウツギに興味を示していた。
『期限は今から一週間後に楠先生の居る第三植物研究室で。ちゃんと本で調べるんだよ?』
挑発的な目木の視線にウツギは不安感を抱きつつも『やってみます』そう告げた。
――普段なら青くなる瞳は、今回は白く透明な色に映っていた。
紹介があってからほかのクラスメートや楠に聞いて、図書館へとやってきたウツギは圧倒的な広さに驚愕をした。――どの分野から調べれば良いのかがわからない。
漫画本もあったり、雑誌もあったりするのだがほとんどが植物だ。
(と、とりあえず植物の本を……)
建築だったり、庭師だったりの分野を省いて、ウツギは基礎的な内容の植物についての本を借りて読んでいく。
ちなみに楠に「調べる時に使え」とレポート用紙とシャーペンを買ってもらった。その時ふと思う。
――あぁ、この気持ちの正体が”嬉しい”なんだ。
楠の気遣いに自身の気持ちが判明し、筆を走らせていく。
……まずはアジサイについてだ。
アジサイには種類があるのだがpHと呼ばれる酸性やアルカリ性の有無で色が変化をするらしい。酸性やアルカリ性という単語もわからなかったので、基礎的な化学の本を引っ張り出して読んでいた。――豆知識という欄に”日本の土壌は酸性が多い。アメリカではアルカリ性が多い!”というように記載されていた。
「どうして日本家屋に限定をしたのだろう? アジサイの色って、どんな風に変わるのかな?」
ほかのアジサイについての本を開き、筆を走らせる。
アジサイは七変化と呼ばれる色調があり、始めは黄緑色でその後が青色、その次に赤になって、最後に白っぽくなることや、色の変化にはアントシアニンと呼ばれる色素があり、桜やほかの色がある花には持っている色素であるのも判明した。また、アジサイの色はアルミニウムの含量で色が決まるらしい。
……この材料でなぜアジサイに死体が埋まっていたのか?
……というよりも、どうしてアジサイの話になったのだろうか?
「うぅ……わからん。今日は疲れた」
(明日も植物園の掃除があるし、ここで切り上げよう)
ウツギはほかの植物に関わる本を借りて外へ出る。だがその前に……。
彼は第三植物研究室へとやってきた。それは自分が今まで頑張ってきた成果を褒めて欲しいから。――だから、褒めて欲しい彼の元へ行く。
ノックを三回鳴らし「どうぞ」と声がした。入室をすると、コーヒーを飲んでいる楠の姿が居た。
「お疲れ」そう言って冷蔵庫からココアを取り出し、疲れている様子のウツギに差し出した。ただ、ウツギはそれでは納得がいかないらしい。
「楠さん、――俺にキスしてください」
「……はぁ?」
かなり動揺してコーヒーを零しそうになる楠がおかしくて、ウツギは自分からキスをする。チュッと軽いリップ音ではあるが、まだ納得がいかないようだ。
「だめだな……。なんかスカってしません。うまくキスができないです」
「あのなぁ、俺とお前は男同士だしさ。スカッとしないよ」
「この前のキスはスカってしました。俺、勉強いっぱい頑張りました。……だから、してください」
強請るように見つめ合う視線をわざとするウツギに楠はたじろいでしまうものの、深く息を吐いて「少しだけだからな」そう言ってウツギの顎をすくい上げた。
「んぅ……んぅ……うん……」
口内をまさぐり、蹂躙し、歯列をなぞり息さえも奪われるほどの甘美なキスに、ウツギの頭は真っ白になる。瞳も大きくなったような、白と水色に委ねられて甘い時間を過ごす。――これでおしまいだと楠に告げられるが、ウツギが奪うようにキスをしていた。
「先生~、植物探偵団の依頼ないっすかって……わぉ」
「阿部!??」
入室してきた目木と黒鉄が見た光景は楠がウツギに押し倒されてキスをされている姿。……そしてまたしても。
「楠先生が……俺の姫を! 姫を奪った!!!」
――イケメンなんて滅びちまえ~!!!
……百日紅が号泣して走り去ってしまった。
「……あの、とりあえずさ。うーちゃん、先生を離してあげたら? 欲求不満なの
悪いんだけど」
「あ、う……うん」
キスの現場を目撃されて顔が上気したウツギは、淹れてもらったココアを飲んで俯きつつも楠を待っていた。
……お前、どっかに行けよと楠は内心思いつつも、植物探偵団の顧問として役目を果たすのであった。
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