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《大学》
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楠に言われ、植物園の掃除を朝からしていたウツギは休む暇もなく働いた。楠は「適度に休んでも良いんだからな」と何度もウツギに告げられていたのだが、彼は休むことなく働いたのだ。どうしてなのかはわからない。
「午後に大学へ向かうように」そう眠る前に言われてから、楠は朝に大学へ行ってしまった。
――だからなのかは知らぬが、ウツギはより一層働き、自分でも疲労感を感じるくらい植物園の掃除をしたのである。……普通の人間であれば六時間かかるところを、二時間程度で休憩もなく終わらせてしまったのもあるだろう。
「ふぅ……」と息を吐いて曇り空を見上げる。日本ではそろそろ梅雨という時期らしい。
「梅雨ってどんな時期なんだろう……?」
腕をうんと伸ばし、左右に振ってまた伸びをしてから――ウツギは軍手を外して楠が居る大学へ向かう支度をする。
植物園の時は作業着を着ていたのだが、大学へ行く際にはシャワーを浴びてから着替えをした。白のパーカーに上からオーバーオールを着て、新品のデニムスニーカーを履いて。……これらは楠が購入してくれたものだ。
『これ、お前にな』
そう言って手渡された衣服や靴に、ウツギは白い瞳を水色にした。楠が少し嬉しそうな顔をして渡してくれたのがよくわからなかったが、素直に嬉しかった。
「俺のため……か。なんか、ちょっと変な気分」
白い瞳を淡い水色に変えて頬を赤らめて大学へ行く準備をするウツギは、嬉しさ以外に含まれるこの気持ちの正体を知りたかった。
”東京国立目白植物大学”と記された門を潜り、ウツギは校内を見ては右往左往した。普通の大学に比較すれば小規模な大学なのだが、ウツギにとっては大学など初めてで目まぐるしいものだ。
しかし今はお昼時だからか、カフェや校庭で食事をしている者も見受けられる。
(えっと、第三植物研究室……と)
校内マップを頼りにどう動けばよいか思考を巡らそうとした時であった。
「君、もしかしてこの学校の見学の人?」
声を掛けられたのは、アッシュグレーの髪をした色男だ。顔立ちが整っていて鼻筋も通っている美男である。隣には黒髪で短めな髪の人間と、大柄でヤンキーのような男も見られる。
ウツギはどうしたものかと考えたが、聞いた方が早いと思って「あの!」声を振り絞った。
「第三植物研究室の講師をしている楠先生に用事があるんです」
「ふ~ん、楠先生にね。――俺、目木って言うの。この黒髪中肉中背が黒鉄で、こっちのヤンキーみたいだけど純粋な奴が百日紅なんだ。俺はメギ、こっちはクロで、そっちがさっちゃんって覚えて欲しいんだけどね~」
「は、はぁ……」
明らかに戸惑って白い瞳を青くするウツギにクロこと黒鉄が「メギもナンパみたいにすんなよ」そう呆れて、「俺……君みたいな可憐な子は初めてだ」さっちゃんこと純粋なヤンキーの百日紅は息を荒くする。
それぞれの自己紹介があったのでウツギも「阿部 稔と言います。よろしくお願いします!」告げてから、それで楠先生は今、どこにいるのかを尋ねた。
「多分裏庭で昼食を摂っていると思うから案内するよ」黒鉄が先導になって案内をしてくれたのだ。
大学というのはこんなにも大きくて自由なのだと考えていると、「変わった眼をしているね」目木が興味したような口調でウツギの左目をじっくり観察する。
今のウツギの瞳は青色と水色が変化しながらまた白に戻ろうとしていた。
「オッドアイ……っていうわけではないね。色調がコントラストに変化しているし」
「えっと、あの……」
「おいメギ~。ウツギちゃんがかわいそうだろ。俺の愛しの姫を困らせんなよ」
……愛しの姫?
百日紅が目木へ文句をぶつければ、「でもミステリーだろ。人の目玉が次第に変化するんだぜ?」おどけた笑い方をした。
ウツギの瞳が青色から深い紺色になる。すると黒鉄が「人には人の事情があるんだから、メギも入り込みすぎんな」一喝したからか、目木が「はいはい~」適当な口ぶりで追及するのをやめた。
ウツギは白い目に戻り、一安心をした。
そんなこんなで裏庭へと着きふと匂いを嗅いでみる。――青臭さと若干の花の香りがして、「自然の香りだ」なんとなく呟いた。
植物園とは違う香りにウツギは心を躍らせている。そんななかで三人はなにかを思ったのか、楠を見つけに行こうとするウツギの前に言葉を走らせた。
「なぁうーちゃん。うーちゃんに問題でも出しても良いかな?」
「……うーちゃんって、俺ですか?」
「そう。うーちゃんが楠さんにとってどんな存在なのかも知りたいし、――興味が湧いたからさ」
悪戯に微笑む目木にウツギが白と青のコントラストを描いていると、後方で「ウツギ?」程よい低さをした男の声がした。
振り向けば楠が片手にレジ袋を提げて白衣姿でいたので、……ウツギは猛突進の
ように抱き着いた。「ぐぉっ!??」なんて鈍い悲鳴が上がった。
「会えて良かったです! 本当に良かった……」
「いてぇ……。そんな今生の別れみたいなこと言うなよ。植物園の掃除、平気だったか?」
「ばっちりです」
にこにこと微笑むウツギに楠木は彼の頭を撫でていれば、前方からニヤニヤと視線とジェラシーが籠った視線が気になった。
「な~んだ、楠先生。ちゃっかりお気に入りできたんだ」
「まぁ、男の割には可愛いもんな」
目木と黒鉄がニヤついて見せれば、「楠先生の馬鹿野郎!!!!」百日紅が涙を流して走り去ってしまった。
……楠は困った顔をしていたが、それでもウツギは彼を離さなかった。
「午後に大学へ向かうように」そう眠る前に言われてから、楠は朝に大学へ行ってしまった。
――だからなのかは知らぬが、ウツギはより一層働き、自分でも疲労感を感じるくらい植物園の掃除をしたのである。……普通の人間であれば六時間かかるところを、二時間程度で休憩もなく終わらせてしまったのもあるだろう。
「ふぅ……」と息を吐いて曇り空を見上げる。日本ではそろそろ梅雨という時期らしい。
「梅雨ってどんな時期なんだろう……?」
腕をうんと伸ばし、左右に振ってまた伸びをしてから――ウツギは軍手を外して楠が居る大学へ向かう支度をする。
植物園の時は作業着を着ていたのだが、大学へ行く際にはシャワーを浴びてから着替えをした。白のパーカーに上からオーバーオールを着て、新品のデニムスニーカーを履いて。……これらは楠が購入してくれたものだ。
『これ、お前にな』
そう言って手渡された衣服や靴に、ウツギは白い瞳を水色にした。楠が少し嬉しそうな顔をして渡してくれたのがよくわからなかったが、素直に嬉しかった。
「俺のため……か。なんか、ちょっと変な気分」
白い瞳を淡い水色に変えて頬を赤らめて大学へ行く準備をするウツギは、嬉しさ以外に含まれるこの気持ちの正体を知りたかった。
”東京国立目白植物大学”と記された門を潜り、ウツギは校内を見ては右往左往した。普通の大学に比較すれば小規模な大学なのだが、ウツギにとっては大学など初めてで目まぐるしいものだ。
しかし今はお昼時だからか、カフェや校庭で食事をしている者も見受けられる。
(えっと、第三植物研究室……と)
校内マップを頼りにどう動けばよいか思考を巡らそうとした時であった。
「君、もしかしてこの学校の見学の人?」
声を掛けられたのは、アッシュグレーの髪をした色男だ。顔立ちが整っていて鼻筋も通っている美男である。隣には黒髪で短めな髪の人間と、大柄でヤンキーのような男も見られる。
ウツギはどうしたものかと考えたが、聞いた方が早いと思って「あの!」声を振り絞った。
「第三植物研究室の講師をしている楠先生に用事があるんです」
「ふ~ん、楠先生にね。――俺、目木って言うの。この黒髪中肉中背が黒鉄で、こっちのヤンキーみたいだけど純粋な奴が百日紅なんだ。俺はメギ、こっちはクロで、そっちがさっちゃんって覚えて欲しいんだけどね~」
「は、はぁ……」
明らかに戸惑って白い瞳を青くするウツギにクロこと黒鉄が「メギもナンパみたいにすんなよ」そう呆れて、「俺……君みたいな可憐な子は初めてだ」さっちゃんこと純粋なヤンキーの百日紅は息を荒くする。
それぞれの自己紹介があったのでウツギも「阿部 稔と言います。よろしくお願いします!」告げてから、それで楠先生は今、どこにいるのかを尋ねた。
「多分裏庭で昼食を摂っていると思うから案内するよ」黒鉄が先導になって案内をしてくれたのだ。
大学というのはこんなにも大きくて自由なのだと考えていると、「変わった眼をしているね」目木が興味したような口調でウツギの左目をじっくり観察する。
今のウツギの瞳は青色と水色が変化しながらまた白に戻ろうとしていた。
「オッドアイ……っていうわけではないね。色調がコントラストに変化しているし」
「えっと、あの……」
「おいメギ~。ウツギちゃんがかわいそうだろ。俺の愛しの姫を困らせんなよ」
……愛しの姫?
百日紅が目木へ文句をぶつければ、「でもミステリーだろ。人の目玉が次第に変化するんだぜ?」おどけた笑い方をした。
ウツギの瞳が青色から深い紺色になる。すると黒鉄が「人には人の事情があるんだから、メギも入り込みすぎんな」一喝したからか、目木が「はいはい~」適当な口ぶりで追及するのをやめた。
ウツギは白い目に戻り、一安心をした。
そんなこんなで裏庭へと着きふと匂いを嗅いでみる。――青臭さと若干の花の香りがして、「自然の香りだ」なんとなく呟いた。
植物園とは違う香りにウツギは心を躍らせている。そんななかで三人はなにかを思ったのか、楠を見つけに行こうとするウツギの前に言葉を走らせた。
「なぁうーちゃん。うーちゃんに問題でも出しても良いかな?」
「……うーちゃんって、俺ですか?」
「そう。うーちゃんが楠さんにとってどんな存在なのかも知りたいし、――興味が湧いたからさ」
悪戯に微笑む目木にウツギが白と青のコントラストを描いていると、後方で「ウツギ?」程よい低さをした男の声がした。
振り向けば楠が片手にレジ袋を提げて白衣姿でいたので、……ウツギは猛突進の
ように抱き着いた。「ぐぉっ!??」なんて鈍い悲鳴が上がった。
「会えて良かったです! 本当に良かった……」
「いてぇ……。そんな今生の別れみたいなこと言うなよ。植物園の掃除、平気だったか?」
「ばっちりです」
にこにこと微笑むウツギに楠木は彼の頭を撫でていれば、前方からニヤニヤと視線とジェラシーが籠った視線が気になった。
「な~んだ、楠先生。ちゃっかりお気に入りできたんだ」
「まぁ、男の割には可愛いもんな」
目木と黒鉄がニヤついて見せれば、「楠先生の馬鹿野郎!!!!」百日紅が涙を流して走り去ってしまった。
……楠は困った顔をしていたが、それでもウツギは彼を離さなかった。
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