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棘先の炎

神に背く者神に喰われる 6話

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バタバタと音を立てて男達は誰も居ない地下牢に首を傾げる。幹部である麗斗からは男女含めて3人と聞いているのだが…誰も居なかった。しかし、それでも気を抜かずに銃を構える男達に、楽しげな笑みを浮かべた者が1人。
「…隙あり♡」
仲間の1人が何者かに背後から襲われた。何事かと男達は銃を向けると…そこには血のような瞳をした白髪の青年が笑みを浮かべている。悪魔のような笑顔を見せる青年に男達は銃で応戦した。だが飛び散る銃弾に臆する事なく、青年…いや、ラビットは飛んで来る弾丸に軽々と避けつつ、男達に近寄り笑みを見せてから自慢の脚力で思いっきり蹴り上げた。3人の男達が吹っ飛び、ラビットは体を仰け反らせてから地面に着地する。そして再び地を蹴り上げてから自身に銃を向けてる男の鳩尾に拳を入れた。…しかし、ラビットに向けて銃を向けている者はまだ沢山いる。そんな彼らに、意識を手放しラビットになったフライから手の離れた拳銃をくすねたクイラ。彼女は襲ってくる彼らの足元に向けて何発か撃ち放つ。その音に気付き、男達がクイラへと視線を向けると…今度はスネークが脅し程度に暗器を使用した蹴りで彼らを怯ませる。前面には真っ赤な瞳で笑うラビット。そして背後は拳銃を向けるクイラと、鋭い刃を見せ付けるスネーク。たったの3人であるにも関わらず、残された男達は恐怖を覚える。…そして、彼らの感情は覆す事は無かった。子供達から事情を聞いて駆けつけたスネークの部下達が加勢しに来たのだ。
「スネークさん~!大丈夫っすか?…って!拳銃じゃん!」
「取り敢えずこっちの方が多勢だ!コイツらをさっさと捕まえようぜ~!」
スネークの仲間に舐められた事に腹が立った男達は銃を向けて放つ。…だが、倒れる事は無い。ー何故なら彼らは防弾チョッキを着ていたのだから。そんな彼らに舌打ちをした後、男達は逃げようとする。…だが、彼らは忘れていた。前にはニタニタと可笑しげに笑う兎がいた事を。
「もう遊んでくれないのかよ~?ーじゃあ良いや。」
急に真顔になって吐き捨てるようなセリフ言うラビットに残りの男3人には何故か彼に恐怖を植え付けたられた。そんな彼らの事などつゆ知らず、ラビットは勢いを付けた自慢の脚で3人を吹っ飛ばし気絶させたのであった。クイラやスネークがいる方にまで男達を吹っ飛ばさせたラビットの脚力にスネークの部下達は青ざめた。ーそして、彼らの反応を見て溜息を吐くスネークは冷静に彼らに指示をする。
「お前らはそこに倒れている奴らを縄で縛るなりしてくれ。…ちゃんと両手両足だ。…拳銃はもちろん、刃物類も無いか確認してから縛っておけ。」
「「はっ!はい!」」
ラビットの強さに圧倒されたものの、スネークの言いつけを彼らは守る。そんな中、スネークは院長の帷が出て行った先を見つめて…そして、クイラとラビットへ声を掛けた。
「クイラにラビット。もう一仕事だ。…あの院長を確保しろ。薔薇姫様からの言いつけだからな。」
スネークの言い付けにクイラは頷きラビットは面白げに笑う。…しかし、スネークは何処か悪寒がしたのだ。ークイラの兄である麗斗のあの微笑みに。それはいつも微笑みを絶やさない薔薇姫の傍に寄り添っているお陰だからかもしれない。

抜け道へと意気揚々と麗斗を案内する院長の帷。彼は自分は助かったと思い込んでいるからだ。
(俺は助かった!…もうこの孤児院なんて後で火でも付けてガキ共々捨てれば良い!俺は助けられたのだから!)
自分勝手な妄想を巡らせる院長に麗斗は微笑む。…そして、彼らが外へ出ると帷は麗斗に向けてニタニタと嗤うのだ。
「いや~!あなたに助けられて本当に感謝ですよ~!ーあっ!あの、緑色の髪の奴は後で始末しますので…。」
汚い嗤い方をして誤魔化す帷に麗斗は深く微笑んだ後…彼の右脚を撃った。血飛沫が上がり激痛にひざまずく帷に麗斗は冷酷に言い放つ。
「あなたとの取引は失敗ですよ。上からの命令では…取引が失敗した場合、証拠隠滅の為にあなたを殺すという契約がなされていたはずです。」
そしてにっこりと笑う彼に帷は逃げ出すように泣きながら地面を這う。…すると今度は右手を撃ち抜かれた。再び襲われる激痛に苦しむ帷に近づき麗斗は囁いた。
「俺は優しい人間だからあなたを薔薇姫の元へは行かせませんよ?ーだって…これから先、あなたに待ち受けるのは…生きるにしても死ぬにしても地獄なのだから。」
微かな悲鳴が聞こえた後、麗斗は彼の頭を撃った。

スネークの予想は的中していた。抜け道を探し出し外へと出れば…院長の帷が無惨な姿でいるのだから。任務が失敗し舌打ちをするスネークと驚愕するクイラ。そんな2人を他所にラビットは彼の元へ歩み寄る。脳天を撃ち抜かれ息をしていない限り即死だと分かった。呆然と佇む2人にラビットは帷の亡骸を見てから彼らに振り向く。
「まあ、院長は死んだけどさ~。一応その院長と望月組の部下は捕獲した訳だし?良いんじゃないですか~?」
死体相手に間延びした声を出す冷酷なラビットにスネークは唖然としたものの彼の言葉に異論は無かった。
「そうだな…。まあ、部下達は捕獲した訳だし。ああ、そうだ。ー子供達は保護出来たか?」
スネークの言葉にクイラが強く頷く。それに安堵した彼は2人に言い放つ。
「任務は完了だ。…院長の遺体の件については薔薇姫様から連絡が来るだろう。…取り敢えず、連携を取って後始末をしないとな?」
スネークの乾いたような生気のない発言にクイラは彼の心を汲み取る。…それは"茨"の手で裁きたかった強い想い。そんな彼に彼女は言い放つ。
「スネークさん。裁判に掛けたかったクソ野郎でもさ。…どうせこの人は生きても死んでも地獄だよ。そんな気がするから。」
聞いていなかったはずなのにも関わらず自身の兄とそっくりそのままの言葉をクイラは零すのであった。
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